第58回 | 2011.08.01

正しい知識で食べて応援しよう! ~FANに特別賞新設~

放射性セシウムに汚染された牛肉が流通した問題で、山形、新潟、秋田、栃木県は、各県産の牛肉の放射能の検査を独自に始める方針をそれぞれ明らかにした。山形県では、出荷頭数を制限してでも、県産牛のブランドと、食の安全・安心を守りたいという知事の強い思いのもと、全頭検査を開始した。しかし、同県が1日に検査できるのは、これまでの出荷頭数の5割に満たない32頭が最大で、当面は出荷を制限して対処せざるを得ない。他県においても、これまでは基準を超える放射性物質を含んだ稲わらを与えた農家の牛のみを検査し、その他の農家は抽出調査を行うとしていたが、「抜け道をなくし安全を担保する」という考え方から、全頭検査へと方向転換する方針だ。57号で懸念事項として記載したことが早くも現実になってしまい、もはやここまで徹底してなければ、収拾できない事態に陥ってしまった。

こうなると、次は米が最大の懸念材料である。これより農林水産省が指針を示し、関東以北において米の検査が一斉に始まることになる。しかし、牛でさえ全頭検査が困難な中、米の全量検査など到底不可能である。放射性セシウムは気体状になって空気に混じって飛び散りやすく、その量が半減するのに30年かかる。汚染地帯はかなり広範に広がっていることが予想され、もし米が汚染されていれば、どんなに検査のメッシュを細かくしても、川上で食い止めることは出来ないだろう。特にJAの集荷率が低下し、地域や生産者の直販が拡大している昨今、万全の検査態勢をとることは難しい。流通過程などで放射能セシウムが検出され、日本全体がパニックに陥り、日本の半分の産地が崩壊の危機に直面するような最悪のシナリオも否定できない。こんなことが起きないことを、心より祈るばかりだ。

一方で、消費者が放射能汚染や食の安全について、正しい知識を持ち、冷静に対応して行くことが大切だと痛感している。社会的な雰囲気と混乱のために、過度な風評被害が発生している。政府の対応があいまいだったり、東電の発表に行き違いがあったりすると、何か隠したり嘘をついているのではないかなど、実際の科学的なリスク以上に不安感が広がってしまう。そして、メディアの影響も大きい。危険性を必要以上に強調した刺激的な見出しが電車のつり広告に躍っていたり、おびただしい量の原子力事故関係のニュースが流れたりすると、「やはり危ない」などといった雰囲気を感じてしまう。こうして考えると、風評被害の発生は、消費者だけに責任があるのではなく、国・東電という当事者とマスコミがもたらしている人災だと言える。

私達は日頃から自然界の中で放射線を浴びているし、干しシイタケや干し昆布、生ワカメなどの食べ物にも「カリウム40」という放射性物質が含まれている。しかし、1年間365日大量に食べ続けるわけではないので、神経質になるような数字ではまったくないという。ヨウ素やセシウムだけが問題なのではなく、本来はカリウムなども同じ話で、ただ自然界に元からあるから意識せずに浴びている、食べているという訳だ。規制値が少しでも高いデータが出ると、世間は騒然となるが、たとえ少々規制値を上回ろうが、何度か口にする程度ではまったく問題になるような数値ではないらしい。

かつてほうれんそうなどで問題になったヨウ素については、8日で放射能の量が半減することから、放射能漏れが抑えられた現在はほとんど問題はないが、セシウムの場合、半減するのに30年かかる。しかし専門家によれば、人間には身体に不要なものを体外に排出する機能があるため、放射性セシウムは110日間で約半分が排出され、体内には吸収されにくいと言う。何が問題で、どこまでは問題がないのか、公共機関が早期に調査・検査するとともに、メディアはしっかり国民に伝えるべきだ。

さて、今年も、私が審査委員を務めるフード・アクション・ニッポンアワードの募集が始まった。昨年度は海外ロケのため参加できなかった小山薫堂さんも、審査委員に復活している。今年のアワードの目玉は「食べて応援しよう!賞」が新設されたことだ。東日本大震災被災地の食と農の復興に寄与する取組を表彰し、広く国民に告知し、国民活動へと広げていきたい。被災地の食材を生かした外食店でのメニュー化、被災地の販売網や流通経路の確立、被災地の食と農の支援につながるプロモーション活動の展開など、既に幅広い取組を募集する。

私個人としては、流通業者の取組に特に注目したい。流通業者の行動によって、被災地の食と農の復興は大きく左右されている。今回の震災・放射能問題を通して、流通業者の姿勢は様々だった。ある者は風評被害を助長するような行動をとった。ある者は価格を叩いて買占めに走った。ある者は正義の拳を振り上げて大手に取り扱いを迫った。そしてある者は直接消費者へ必死になって訴えた。それが誰であるか、業界の中では皆知っている。自薦・他薦含め、正義の行動が光った流通業者の取組があれば、「食べて応援しよう!賞」に是非応募して欲しい。また、表に出せない内容であれば、私のところに情報を寄せて欲しい。秘守義務は果たしつつ、しっかり審査に反映させることを約束する。

私に出来ることは限られているが、フード・アクション・ニッポンアワードの審査員は日本の農と食に影響力を持つメンバーばかりだ。この度の審査を通して、国民に明確なメッセージを伝えることで、側面から被災地を力強く支援していきたい。