第284回 | 2016.06.06

次世代の食料消費は変えられるか?
~ 「27年度食料・農業・農村白書」を読んで ~

農林水産省はこの度、「27年度食料・農業・農村白書」を公表した。その内容については、例えば前回のコラムで述べた輸出戦略に対する疑問など、思うところが多々あるが、本日は白書で記載されている「食料消費の動向と食育の推進」についてコメントしてみたい。

白書では冒頭、我が国の食料消費は、少子高齢化、単身世帯の増加、食の外部化の進展などにより大きく変化しており、こうした状況の中で国は、健全な食生活の実践を促すとともに食や農林水産業への理解を醸成するため食育を推進していると記載している。次に、食のバリューチェーンの現状を以下のチャートで示し、飲食費として支出された額のうち、生鮮品等は12.5兆円、加工品は38.7兆円、外食は25.1兆円で、加工品の割合が50%を超えている現状を明らかにしている。また、飲食料の最終消費額は1995年をピークに減り続けていることに加え、加工品の割合が年々増加傾向にあるとしている。

二の釼が斬る第284号_図①

*以下、出典や算定方法等については記載を割愛する(農業白書参照のこと)。

国民1 人・1日当たりの総供給熱量は、1996年度の2,670kcal をピークに減少傾向で、2014年度は2,415kcalになっており、品目別では、畜産物、油脂類、小麦、いも類・でん粉の供給熱量に大きな変化がない中、米、魚介類などの供給熱量が減少傾向で推移しているとしている。また、年齢階層別の摂取熱量について、1995年と2014年を比較すると、70歳以上を除いたすべての年齢階層において減少しており、その原因として、食事量や食事回数の減少が考えられ、特に朝食欠食率については、1995年の8.0%から2014年は11.6%へと上昇しており、朝食欠食率の上昇も摂取熱量の減少の一因となっているものと分析している。

二の釼が斬る第284号_図②
世帯別の消費動向の分析では、近年、単身世帯及びひとり親と子の世帯を中心に増加している現状を述べた上で、二人以上世帯における1人1か月当たりの食料消費支出は、横ばいで推移しているが、生鮮食品による支出が減少する一方で、加工食品及び外食による支出が増加傾向にあるとしている。単身世帯の男性は、加工食品の支出が増加する一方、外食による支出が大きく減少し、食料消費支出全体では減少傾向で推移。単身女性は、生鮮食品及び外食による支出が減少する一方、加工食品による支出が増加しており、食料消費支出全体では横ばいとなっていると述べている。

二の釼が斬る第284号_図③
これらの分析結果を分かりやすく言えば、以下のとおり整理できる。
①日本人は自炊せず、スーパーやコンビニの弁当・総菜ばかり食べるようになっている。
②肉は食べるが、米、魚介類は食べなくなっており、和食離れと洋食化が進んでいる。
③世代を問わず食事量や食事回数は減少しており、朝食を食べない人も再び増加している。
④単身男性は昔のように外で飲まずに、家に帰って1人で弁当・総菜を食べるようになった。

先日のニュースで、男性・女性ともに、平均結婚年齢が年々高まっており、その結果最初の子どもを産む年齢が高くなり、出生率も低下傾向にあると報道していた。独身の男女が自分ひとりのために食事を作るのは手間であろうし、自分で作ってひとりで食べても味気ないと感じるだろう。また、共働きの夫婦も多くなり、どの家庭も忙しくて台所に立つ余裕もなく、中食などに頼らざるを得ない状況であろう。

しかし、こうして弁当・惣菜、あるいはファースト・フードを食べて育った子どもは、大人になると、その傾向はさらに加速するだろう。私の妻は今年、小学校1年生の担任をやっているが、毎回給食が山のように残ると家で愚痴っている。その理由は、給食に出てくるメニューの多くを、家庭では食べたことがない点にあるようだ。また、化学調味料に慣れてしまった舌は、食材自体が持つ味覚に対し拒否反応を起こしているのかもしれない。これは、食育云々の問題ではなく、日本という国の根本的な社会問題であろう。

白書では、こうした状況に対し、平成28年3月に内閣府が作成した第3次食育推進基本計画に基づく施策を推進することを基本に、日本型食生活の認知向上、食育活動の推進、国産農林水産物の消費拡大に向けた国民運動の展開、食品ロス削減に向けた国民運動の推進、さらには「和食」の保護・継承の取組強化などの重要性をあげている。私も、これらの取組はどれも重要であると考える。しかし、少子化・核家族化の進展、独身世帯の増加、夫婦共働き世帯の増加などを背景に、加工品依存型食料消費が増加し、食事を食べる回数や量が減少しているという社会構造が進行し続ける中で、どれだけの効果をあげられるのか疑問である。

そもそも改善などする必要はないという考え方もあろうが、個人的には、豊かな農水産資源と世界最高水準を持つこの国に対し、国民としての喜びと誇りを持ち、それらを継承し続けてくれるような次世代を育成したい。では、次世代の食料消費の改善に向けて何をすべきなのか。

一つ目は、小中学校、さらには高校における、食育関連の教育カリキュラムの強化である。個人的には、食育を一つの教科として義務づけ、生産・流通・加工・消費までのフードチェーンと素材の活用方法・料理方法を、体験学習を交えながら子ども達に徹底して教えるようなカリキュラムを導入したい。さらに、高校受験や大学受験の必須科目にならないかなどと考える。つまり、食育関連の知識は、国民が持つべき基本的な素養として位置付ける訳である。

二つ目は、男性が台所の立つことの習慣化である。私のように家庭で料理をする男性は増えているようだが、料理は女性がするものという風潮は未だに強い。共働きで奥さんが忙しければ、たまには旦那が早く帰って夕食を用意すればよいし、朝食や子どもの弁当も旦那がつくればよい。男性の意識改革を進めるためには、共同広告機構の活用など、国とマスコミが一体となって社会的なトレンドをつくるようなことが出来ないものかと考える。「料理ができることがモテる男の条件」のような社会になるとよい。

三つ目は、晩婚化や未婚の解消であるが、そのための答えは見つからない。あり得ない話であるが、独身者には極めて高い所得税をかけ、結婚すると大幅に低減、子どもの数に応じてさらに激減するといった、アメとムチの政策でも導入しないと現在の傾向は変化しないだろう。

ここまで書いたが、いずれも極めて非現実的で、暴論であることは、私もよく分かっている。したがって、「次世代の食料消費は変えられるか?」という問いに対する私の答えは、残念ながら「NO」である。食料消費の改善のためには、意識ある者が、先ずは自らの消費行動を律し、それぞれの立場で身近にいる人たちに食の大切さを地道に伝えていくしか有効な手段はないだろう。