第17回 | 2010.09.22

果実のブランド化を目指せ! ~山梨県特選農産物の取組~

今年の果物市況は、大手スーパーの価格引き下げ圧力が一段落したこともあり、まずまずの相場で推移しているようだ。景気低迷という言葉が常用語になってしまったものの、百貨店や有名専門店の店頭には、1万円を超える果物が見事にラインナップしており、ブランド化している果実への根強い需要が存在していることを証明している。農産物のブランド化は、どの産地にとっても目指すべきゴールのひとつだ。今回は、その最先端の取組である山梨県特選農産物の取組を紹介したい。

山梨県特選農産物認証制度は、県産品のトップブランドを育成することを目的に、平成17年から開始された。対象となる農産物は、「特秀」のさらに上の品質基準をクリアしたものであり、「JAふえふき八代支所ぶどう部会ロザリオ部」など、品目・品種及び出荷団体に認証を与えている。現在、ぶどう・ももを中心に9品種、71団体が認定を受けている。一方販売面では、有力卸と提携し、サンフルーツ、千疋屋、新宿高野、明治屋など有名専門店24店を特選農産物取扱認定店として組織化し、有利販売を実践している。販売トップブランドを育成することで、産地の高位平準化を促進し、生産者所得の向上に結び付けたいと考えている。

しかし、特選シールを貼り有力卸へ出荷した農産物は、その後どこにどれだけ、どのような形態で販売されているのか、その実態は不明確で、同認証制度による効果もあいまいな点が多い。有名専門店では、特選の名前やシールはどこにも出ず、例えば「新宿高野」という店舗ブランドで販売されており、消費者は特選と認知せず購入しているのが実態である。今年度弊社は、この特選農産物を中心とした狭東地域(甲州市、山梨市、笛吹市)における農産物の販売戦略推進計画の策定業務を請け負い、特選農産物などの流通実態や有利販売方策などについて調査を進めていくことになった。詳細な調査は今後進めるが、早くもいくつかの論点が浮上している。

1点目は、県ブランド、JAブランド、地域ブランド(プライベートブランド)を、どのように捉え展開したら有利販売につながるのかという点である。果実の場合、卸売市場が重視するのは、間違いなく地域ブランドである。果実の場合、出荷団体によって品質・信用力などが異なるため、市場においても出荷団体ごとにブランド価値が異なり、取引価格に大きな差がある。全国でトップブランドである「春日居のもも」は、JAフルーツ山梨春日居支所の果実部会が、長年に渡り高品質でクレームのない産品を、高度な「箱選」技術のもと、出荷・販売し続けてきた実績と産地のたゆまぬ努力により現在の地域を築いてきた。同じJA管内の部会であっても、全く市場評価が異なる逸品であることから、販売事業も春日居支所が独自に担っている。一方で日本屈指の果実出荷量を誇る「JAフルーツ山梨」もまた、一つのブランドと言える。しかし、「春日居」、「JAフルーツ山梨」というブランドを認知している消費者は少なく、いずれもひと括りに「山梨のもも」というブランドイメージで購入しているのが実態である。先に述べたように山梨の特選農産物は「新宿高野」のブランドで売られており、「山梨特選」も「春日居」も専門店での購買動機に必ずしもつながっていないのではないかと考えられる。県ブランド・JAブランド・地域ブランドをどのように訴求して流通させれば、消費者の優先購買に結びつくのか、市場や小売店の意向・ニーズ調査などを通し、この論点に対する答を導き出して行きたい。

2点目の論点は、トップブランドをつくることが、生産者所得の向上に本当につながるのかという点である。トップブランド戦略は、地域の生産者に目指すべき頂点を示すことで、産地全体の生産意欲や技術力向上に寄与すると考えられる。また、トップブランドの高値取引が実現すれば、産地への市場評価も高まり、秀品・優品の取引価格を引き上げるものと考えられる。つまりトップブランドが機関車になって、2両目、3両目を引っ張って行くという構図だ。しかし一方で、「特選」というトップブランドが出来たことで「特秀」の価格を引き下げるといった悪影響が出ているのではないかという指摘もある。出荷量の1%にも満たない「特選」を売るために、10%の「特秀」の価格が下がってしまえば、生産者所得が逆に減少することにもなりかねない。トップブランド戦略は教科書に書いてあるような筋書きになるのか、このあたりの実態についても明らかにしていきたい。

3点目の論点は、消費者へ直接訴求するダイレクトマーケティングが成立するかどうかという点である。中元ギフトの需要は7月15日までがピークである。しかし山梨のももが本当においしくなるのは7月後半からだ。一番おいしいものを贈りたいと願うのであれば、7月後半のももを選ぶべきである。巨峰も同じことが言え、需要が多いお盆前よりお盆あとの方が甘み・うまみが乗り生産量も多い。生産者は当然分かっているが、消費者にはこの現実が分からない。ここに生産と消費の乖離があり、農産物流通に共通する課題であると言える。しかし、個人宅配に取り組む生産者は、こうしたことを消費者に理解してもらい、本来の旬に一番おいしいものを届け、愛顧を得ている例が多い。弊社が今年お中元用に贈った中村さんのももも、中村さんの提案により7月末に配送手配をした。個人宅配では出来ても、生産部会やJAでの取組では困難というのは早計ではないだろうか。生産者も消費者もWIN・WINの関係になるような、流通の仕組みは誰もが求めているところであり、そうである以上その仕組みづくりにチャレンジすべきであろう。

山梨県ではかれこれ10年近く仕事をさせて頂いており、私の思いも強い。この度の調査事業を通して、今後産地が進むべきいくつかの道筋を示して行きたい。