第23回 | 2010.11.04

果実のブランド化の方向性 ~時代の変化が手法を変える~

果実のブランド化のあり方について、現在調査・研究を進めているが、なかなか答えは見つからない。これまで通説では、誰にも真似のできない超高品質の芸術品をつくり、これを果実専門店や百貨店でギフト用として、目が飛び出るような高値で売ることが果実のブランド化であると言われてきたし、私もそう考えてきた。トップブランドをつくることで、産地の認知度があがり、生産者の意欲も高まり、産地全体の底上げにつながる。きっとこの考え方は間違っていないだろう。果実のブランド化の成功事例で有名な佐世保温州は、「出羽の華」をトップブランドとして、厳格なセンサー管理のもと、糖度ランクによって名称を変えて商標登録し、それぞれ販売先を設定するといった手法を導入することで、ブランド産地としての地位を確立した。こうした事例を踏まえ、果実のブランド化の基本は、以下のようなイメージによるトップブランドの創出と品質階層に応じた販路開拓であると考えてきた。

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しかし、このコラムでも折にふれて述べてきたように、消費者志向や流通構造が著しく変化している昨今、果実のブランド化に向けて新しい視点を持つ必要があるようだ。以下ではこうした時代の変化を指摘してみたい。

第1に消費者志向の変化である。日本人の果実の消費量は欧米の約2分の1で、需要は概ね横ばい状態にある。欧米では果実を野菜のように、日常的に必要な栄養源として消費しているが、日本では未だに多くの品目が嗜好品という位置づけにある。しかしこの数年、日本人の柑橘離れが著しい中で、輸入バナナの消費量は柑橘を抜いてトップとなり、まだまだ伸びていることをご存じだろうか。食べやすく、比較的安価な果実はまだまだ需要があると言えよう。高価な果実はなかなか自分で買って毎日食べるわけにはいかない。今後の国内における果実の消費拡大にあたっては、贈答品から家庭用品へ、嗜好品から日常品への転換が必要である。近年の消費者動向を見ると、景気の低迷もあり高価な贈答品需要は減少し、ある程度の品質の商品を贈答用に使う、主婦が季節の果実を野菜感覚で買う、あるいは若い独身女性が自分へのご褒美として購入するといった動向が見受けられる。その結果、百貨店の売上は減少傾向にある反面、PB化を積極的に進めたり、品種・産地ごとのラインナップ化を進めるなどスーパーでの果実売場は充実する傾向にある。こうした動向を踏まえ、今後は百貨店・果実専門店でのトップブランドの形成に加え、スーパーでのブランド形成に軸足をシフトしていく必要があるのではないかと考える。

もう一つの視点は、流通構造・市場構造の変化である。これまでは、有力市場との連携を緊密にとる一方で、リスク回避や産地主導型の価格形成を目論み、A品は中央市場へ、B品は地方市場へを基本に、より多くの市場と取引することが産地の基本的な販売戦略となっていた。しかし今後は、地方市場が中央市場の有力卸に系列化されていくなど、全国的な市場統合が急速に進むことになる。一方大手スーパーの全国展開は進むが、地域別に仕入れる市場を地方に求める傾向は依然として変わらない。そうなると中央市場C社が大手スーパーに対し特定産地の産品の有利販売を働きかけても、その大手スーパーは地方市場D社から同じ産地の安価な商品を調達できることから、大きな価格差が生じ有利販売は実現しないといった課題が生じる。したがって今後は、各市場・卸売業者の力量や今後の業界動向を分析し、取引市場を絞り込むことも検討する余地があると考えられる。

市場関係者の話によれば、岡山県阿新の種無しピオーネ、長野県安曇の長野パープルなどの新興産地では、組織的な農業に徹底して取り組んでおり、強固な栽培指導体制のもと、生産者意識の高揚に努め、同じ作り方、同じ出荷方法で平準化され、市場に持ち込まれる商品の規格が揃っているおり、入荷量も多いことが特徴であると言う。一方、従来の産地は、個人や集落単位での取組が中心で、非常に品質が高いものもあれば、悪いものもあり、市場に持ち込まれる商品は総じてばらばらで、ランクごとの数量はまとまらない傾向にあるらしい。また新興産地の特徴は、販売力が総じて低いこともあり取引市場を絞り込んでおり、これが安定価格の形成に結びついているという。

高品質のものを個人で、あるいは集落・支店で出荷していくというやり方は、差別化が必須条件の果専店や百貨店には喜ばれるし、有名店舗で扱ってもらえていることが産地のプライドであったと思う。しかし、消費構造・流通構造が変化する中で、これまでのやり方を変えて行かないと、新興産地に遅れをとることになる。トップブランドだけでは生産者所得の向上にはつながらない。組織的な農業を基本に、スーパーをメインターゲットに据え、一定レベルのものを平準化し、ロットを確保して、市場を絞り込んだ販売戦略が求められる時代になっているのではないだろうか。