第144回 | 2013.05.13

日本人は市場が好き!? ~今後の成長が期待される場外市場型交流拠点~

これまで全国で整備されてきた農産物直売所や複合型道の駅といった交流拠点は、勝ち組・負け組の明暗がはっきりしてきて、総合的に見直す時期にきていると考えられる。負け組の主な理由は、いつ行っても同じような品揃えである、売場の工夫が見られない、活気がない、などだ。その中で、最近伸張が著しい新たなビジネスモデルがある。私の個人的な命名であるが、それは「場外市場型交流拠点」というモデルである。

その典型は、以前このコラムでも紹介した道の駅「萩しーまーと」である。「萩しーまーと」は、全国的にも珍しい民設民営方式をとっており、施設は、萩市などからの補助金を受けつつ、自力で整備した。漁協を中心に市内の17事業者が出資して事業協同組合を設立し、主としてテナント方式で運営しており、売上高は約10億円を誇る。隣接する漁港で水揚げされた地魚をメイン商材に、惣菜、野菜、土産品などを扱う小規模な店舗が出店しており、活気溢れる施設内は、あたかも場外市場のようだ。

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築地の場外市場は、観光地としてもあまりに有名だ。では、何が利用者をひきつけているのだろう。一つ目は、市場と併設されていることにより、市場の目利きを通した、「おいしく」「豊富で」「鮮度のよい」食材が手に入る、あるいは食べられることにあるだろう。二つ目は同じような業種のテナントが数多く出店することにより、テナント同士が切磋琢磨して、よりよい商品・サービスを提供していることにあるだろう。三つ目は、老朽化した建物、狭い路地、裸電球、お客を呼ぶ掛け声など、昭和の時代を感じさせるシズル感や活気が魅力になっているものと考えられる。

築地に限らず、上野のアメ横のれん街や浅草雷門、那覇の国際通り、高知の朝市など全国で同じようなイメージを持つ商店街は未だ元気がある。どうやら日本人は、こうした商店街が好きなようだ。現在一時程の勢いはないが、マルシェのような直売形態が進展したのも、日本人の嗜好性に合っていたと言えよう。

さて、こうした場外市場型の商店街を一つ屋根の下に凝縮したのが、私の言う「場外市場型交流拠点」である。その原型は、観光スポットとして有名な沖縄の公設卸売市場であろう。一つのコンセプトのもと、数多くのテナントが出店し、対面方式で接客し、販売する。近年このような拠点施設が、急速に拡大しているように思える。私が最近訪れて感心したのが、沖縄県那覇市の「泊いゆまち」と、青森県五所川原市の「五所川原マルコーセンター」である。どちらも魚市場の仲卸や買出人がテナント出店して、一つ屋根の下に場外市場のようなイメージの商店街を形成している。

「泊いゆまち」は、泊港の隣に立地していることに加え、ガラス張りの魚の大型加工施設が併設されており、周辺全体が産地市場というイメージを持つ。また、マグロの大産地であり、四季を通して最も早く旬のマグロが水揚げされることから「美ら海まぐろ」のブランド化事業を進めており、「泊いゆまち」はその拠点になっている。マグロの解体ショーが日常的に見られたり、かきを一個買いできたりと、見て歩いて買い物をする楽しさに溢れている。

「五所川原マルコーセンター」は施設の奥に食堂があり、この食堂で、どんぶり飯だけをもらい、施設内を歩きながら、店舗で売っている食材を自らチョイスして食べられる仕組みになっている。食材は、うに200円、いくら150円、など、いずれも小皿単位で買うことができ、どんぶりに乗せて食べる。焼き鳥や漬物などの惣菜も販売しており、副菜として一緒に買うことも出来る。また、特産品であるしじみを活用し、いずれもしじみ汁がセットについている。汁だけなら何杯でもおかわり自由という仕組みだ(ご飯+しじみ汁+漬物で250円)。ちなみこれは、「やってまれ丼」(やってまれとは津軽弁で「やってしまえ」の意味)と言われており、青森県では知らない人がいないほど有名である。

「萩しーまーと」も「泊いゆまち」も「五所川原マルコーセンター」も、観光客というより、むしろ地元住民の固定客に支えられているのが特徴である。旬の新鮮な食材が品揃えされ、テナントごとの創意工夫が見られ、いつ来ても、わくわくさせる施設づくりを実現している。地元住民が主体だから、曜日や季節に関係なく、一定の客足が期待できる。

まだまだ研究が必要だが、既存の農産物直売所や道の駅が、委託販売・セルフ販売方式の店舗づくりから、買取・対面販売方式の店舗づくりへスイッチしたり、活力が低下している地方卸売市場などにこうした店舗を併設することも考えられる。日本人は市場(いちば)が好きである。今後、急成長の予感がある「場外市場型交流拠点」に注目されたい。