第169回 | 2013.11.25

日本の未来を台湾に見た ~台湾の食生活と農産物流通実態~

先般、食肉の調査で台湾に行って来た。私は若い頃、20カ国以上の国を渡り歩いた経験があるが、歳を追うごとに億劫になり、今回は久しぶりの海外出張となった。

中核都市である台北市に到着して先ず驚いたのは、都市の活力である。オフィス街ではオートバイが蟻の大群のように走り回り、露地に入れば築地の場外市場のような市場に昼も夜も人があふれている。台湾は、九州より狭い島国であるが、九州の約1.8倍の2,300万人を超える人口を誇る。新北市390万人、高雄市280万人、台中市270万人、台北市270万人、台南市190万人と大都市が多く人口密度が高い。平均所得は日本の半分程度であるが、貧富の差は少なく、誰でも努力次第で夢をつかめる国だと言う。

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(台北市の路地裏の風景)

しかし、通訳の方に聞いた話では、台湾は日本以上に少子高齢化が進んでいるそうだ。都市化と共に女性の社会進出が急速に進展し、ほとんどの家庭が共働きであり、子どもを育てている余裕がないという。また、子どもへの学費がかかることから一人っ子世帯が多い。さらに、女性が経済的にも自立していることから、未婚者も急増している。日本で現在課題になっている社会現象が台湾でも起こっており、台湾もまた近い将来人口減少社会を迎えることになる。近年は、経済成長率も低下しており成熟社会を迎えつつあると言えよう。

共働き家庭の進展は、食生活に大きな変化をもたらした。もともと外食率が高い国であったが、現在台湾の外食率は8割を超えるそうだ。一説では朝が8割、昼が7割、夜は9割だという。日本の外食率は約20%、中食率が15%で、「食の外部化の進展」などと言われながら、内食率はまだ65%を維持している。これに対し、台湾はほとんど自宅で食事をつくらない、食べないという食事情にあると言える。

したがって、飲食店の数は非常に多く、これがまちの活力を感じさせる大きな理由になっている。飲食店は、日本円で200円~300円程度で食べられる店舗から、5,000円~10,000円の高級店まで様々である。マクドナルドや吉野家などのファストフード店や、日本の居酒屋チェーンなども数多く進出している。夫婦で精いっぱい働いて、食事は外で美味しいものを食べる。これが台湾人の基本的な食に対する考え方であると言える。

一方、食料品の小売店は、百貨店とスーパー、コンビニエンスストアという3つの業態で構成されている。日本のような、八百屋、肉屋、魚屋といった専門店はほとんど存在しない。正確な数字は調べていないが、外食率が極めて高いことから、食料品の小売店数は人口に対して非常に少なく、マーケット規模は小さいと考えてよさそうだ。専門店はほとんど存在しないと言ったが、卸売市場がその役割を果たしているといえる。台北市の第一果菜批溌市場を見学したが、そこでは場内場外に、青果、精肉、鮮魚を取り扱う無数の店舗が軒を連ねていた。卸売市場は、都市の食の台所という役割を果たしており、外食店も一般市民も、ここで食材を調達している。

台湾の農業、特に野菜の生産・流通状況について、少し調べてみた。台湾は、東西南北の4つの地域に区分されているが、中部地域と南部地域で台湾全体の野菜生産量の8割以上を占めている。主要な生産品目はトップがたけのこ、次いでキャベツ、だいこん、にんじん、はくさい、ねぎ、たかな、カリフラワーである。台風などの気象条件により、葉菜類の生産量は毎年大きな影響を受けるが、台湾人が求める野菜は概ね自給できる構造にあると言える。

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(百貨店で陳列される日本産果実)(市場での野菜の販売風景)

非常に面白いのは、野菜の流通構造が、日本とほとんど同じような変化を遂げてきたことだ。「農産品卸売市場管理法」に基づき、70年代初期までに全国各地に200カ所の卸売市場が設立された。政府は市場の敷地を提供することはあっても実際の経営に直接関与はしていない。経営主体は、農協または搬出業者の組合、地方自治体が出資する第3セクターのどちらかだ。青果物卸売市場の場合、立地条件によって市場の性格を消費地市場、消費地と産地の混合型市場、そして産地市場に区別することができる。特に北部地域にある「台北」と「三重」の卸売市場は人口の集中地域に立地しているため、最も主要な消費地市場と見なされている。

取引形態は、かつてはセリが中心であったが、現在は相対取引が主力であり、相対取引しか行わない卸売市場が過半を占めている。また、日本と同様、台湾でも90年代以降に農家の農協離れが発生した。生産意欲のある複数農家は、有志グループを結成し自ら販売先の開拓を始め、全国的な農協系共販組織の離脱ブームを引き起こすこととなった。これらの組織は、小売店チェーンや大型飲食店との直接取引や直売・直販を加速させ、現在市場流通と市場外流通の割合は逆転し、流通量の約7割は市場外流通であると言われている。

少子高齢化、核家族化、女性の社会進出、食の外部化の進展と内食率の低下、こうした社会背景を踏まえた流通構造の変化。これらのことは、日本でも毎年確実に進んでいることだ。必ずしも同じ道を辿るとは考えていないが、台湾に日本の未来の一端を見たような気がした。