第181回 | 2014.03.17

日本の「農」を改革せよ! ~「N-1 SUMMIT 2104」より~

今年も昨年に続き、オイシックスが主催する「N-1 SUMMIT 農家・オブザイヤー」に、実行委員として参加させて頂いた。今年10回目となるこの会は、オイシックスのお客さまから、最も多くの「おいしい!」の声をもらった出荷者を表彰する制度である。10周年を記念して、表彰式には林農林水産大臣も駆けつけ、お祝いの言葉を頂いた。
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今年は、例年行われている表彰式に加え、「リーダーズ会議」という名の一大シンポジウムを開催した点が特徴である。「リーダーズ会議」とは、現在日本の農業を牽引している60名以上のリーダーを一同に集め、議論と交流を通して、日本の「農」に革命を起こそうという趣旨だ。実行委員長の高島さんが総合的なコーディネートを行い、実行委員がボードメンバーになり、オープニングディスカッション、ショート講演、ワークショップ、そしてラウンドテーブルディスカッションと、合計3時間半の大討論会を行った。

ここで集まったメンバーはすさまじい。ちなみにボードメンバー(=実行委員)は、和郷園の木内博一氏、野菜くらぶの澤浦彰治氏、生産者連合デコポンの井尻弘氏、パンドラファームの和田宗隆氏、農業技術通信社の昆吉則氏、日本GAP協会の武田泰明氏だ。また、参加者も、四万十ドラマの畦地履正氏、こと京都の山田敏之氏、マルタの佐伯昌彦氏、ブルームの齋藤伸二氏など、誰もが知っているような有名人ばかりだ。よくもこれだけの人材を集めたものだと、オイシックスという企業の求心力に感服すると共に、私もボードメンバーの一人として選んで頂いたことを誇りに思う。高島さんは、これだけの人材を3時間半もの時間、同じ会議室に拘束したこと自体に大きな意義があると言われていた。
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この会議では、①海外への輸出・海外進出、②環境保全型農業のこれから、③農産物のブランディング戦略、④これからの担い手という4つのテーマが掲げられた。このうち私は、畦地氏と共に③のブランディング戦略のワークショップを受け持ったが、このテーマの検討内容などは別の機会に紹介したい。

海外への輸出・海外進出については、カンボジアで胡椒などを生産・販売しているKURATA PEPPER Co.Ltd.代表の倉田浩伸氏が基調講演を行った。懇親会でも親しくお話させて頂いたが、この人の人生と農業にかける情熱はすさまじい。10代の時、ポルポト政権下の悲惨なカンボジアを描いた「キリング・フィールド」という映画を観て感動し、単身カンボジアに渡り、埋没していた胡椒という特産品を復活させ、カンボジアの農業を再生しつつある。ちなみに、ジョン・レノンの「イマジン」がエンディングテーマに流れる「キリング・フィールド」は、私も青春時代、熱い涙を流しながら観た忘れられない映画で、私を青年海外協力隊へと導いたきっかけでもある。

さて、海外への輸出・海外進出についての議論である。海外への輸出についてはアセアンの沿岸部8億人の富裕層に対し、丁寧なマーケティングを行いながら、チャンスを見極めていくことが重要であるというのが結論であった。13億の人口を誇る中国へ輸出しようと安易な考えを持つ人も多いようだが、植物検疫措置により、中国に輸出できる品目は、米、お茶、りんご、なしの4品目しかない。米は現在の半分以下にコストダウンしないと、これ以上の伸びしろはない。一方、ぶどうやいちごなど、圧倒的に優位性がある品目は、コールドチェーンと確実な商流ルートを確立できれば、香港、シンガポールなどでのビジネスチャンスはまだまだある。

海外進出は、とても時間と手間がかかる仕事で、短期的な利益は見込めない。気候風土が全く異なる海外で、日本の品種や技術がそのまま活用できるはずはない。適地適作が原則で、その国の在来種や昔生産されていた品目を掘り起こし、そこに日本の技術と英知を織り込み、地域に寄り添いながら、長い時間をかけて地場産業に育成していく覚悟が必要である。カンボジアで活躍する倉田氏は、40年間途絶えていた胡椒という特産品を掘り起こし、ビジネスとして軌道に乗せるまで10年以上の歳月を費やしている。

木内氏は、ディスカッションの総括で、将来的には農産物の生産・販売に国境はなくなると発言した。国際化が進む中で、日本の農家はやがて、様々な国で生産し、様々な国で販売するのが当たり前になり、輸出だとか、海外進出などといった概念自体がなくなるという。そんな時代の到来は、ことのほか早いのかもしれない。

もうひとつ、環境保全型農業のあり方についての議論を紹介しておきたい。冒頭、日本GAP協会の武田氏がショート講演に立ち、現在の特別栽培制度や有機JAS制度についての問題提起があった。特別栽培も有機栽培も、農産物の安全基準ではあるが、環境基準ではなく、安全基準=環境基準という前提に立つ国の制度に疑問を投げかけた。有機栽培などでは、農薬や化学肥料を使わない代りに大量の有機堆肥を使い、その結果土壌で消化しきれない堆肥が河川や海に流出し、環境汚染を招いている例も多い。

有機の里づくりに取り組んでも、必ずしも農村の環境は守れないし、サステナブルな(持続可能な)農業には結びつかない。また、現実的に、特別栽培は県によって基準が異なるという致命的な欠陥があり、有機栽培農産物はおいしくないものも多く、結果として流通事業者の評価は低く、有利販売やマーケット拡大には結びついていない。欧米のように、安全基準とは別に新たな環境基準をつくり、その基準をもとに補助制度などを再構築すべきだというのが武田氏の主張である。安全基準ではなく、環境基準に基づく農法に取り組む農家や地域を支援し、持続可能な社会体系・自然体系をつくり出す仕組みづくりを進めるべきであろう。

この度の「N-1 SUMMIT」では、多くのことを学ばさせて頂いた。この素晴らしい会を企画・運営された、高島さん、そしてオイシックスの社員の皆様を、心から敬服すると共に感謝申し上げる。今後も実行委員の一人として、オイシックスの取組を全面的に支援することで、さらに大きなウエーブをつくっていきたい。そして、私もまた、「農」の改革者の一人として手をあげ、実践していくことを約束したい。