第185回 | 2014.04.21

新規就農の課題と展望 ~頑張れ!新規就農者パート2~

前回のこのコラムでは「新規就農の課題と展望」と言うテーマで、新規就農者に対する4つの提言を記載した。その後、日本政策金融公庫が発行する月刊誌「AFC Forum」で「新規就農者への扉を開ける」と言うタイトルで特集が組まれていたので、さっそく読んでみた。その中で、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、中央農業総合研修センターの澤田守主任研究員の記載内容が大変参考になったので、ここでその記載概要を紹介すると共に、私の考えを述べてみたい。

前半部分は、新規就農者の経営定着の課題について述べられており、澤田氏はその課題を以下の3つに整理されている。
① 起業経営に付随する課題
(ビジネスモデルの確立、資金、人材、販売先の確保)
② 家族経営に基づく課題
(ライフサイクルの影響、経営と家計の未分離)
③ 農業生産に付随する課題
(優良農地の確保、農家、関係機関の協力)

その中で、特に「②の家族経営に基づく課題」が興味深かった。2010年の農林業センサスによれば、農業経営の98%を家族経営体が占めており、夫婦や親子が役割分担しながら取り組むと言う農業独自の経営体質が明らかになっている。早朝・夜間、晴天・雨天を問わず、柔軟な作業体系が組めること、また、賃金を払う必要がなく儲からない時は文句も言わずに無報酬で働いてくれることなどが、家族経営の強みであり、農業の強さでもある。

新規就農者も夫婦で参入するケースが多いが、30歳代、40歳代の場合、出産・育児などのライフサイクルと農業経営を確立する時期とが重なるため、こうした家族経営の強みが発揮しにくいという。確かにこれは難題であるが、農業に限らず共働きの家庭は同じ課題を抱えているので、夫婦で助け合いながら、子どものためにも歯をくいしばって乗り切っていくしかない。ちなみに私も二人の子宝に恵まれたが、妻も定職を持っていたため、二人とも生後三か月で、朝7時から夜7時まで保育園に預けた。しかし二人ともまともな大人に成人したし、家庭で大きなトラブルはなかった。出産・育児は農業を行う上では大きな課題であるが、人生最大の喜びでもある。辛くても頑張りきれるはずだ。

特集記事の後半部分は、自分の農業経営を客観的に評価し、経営課題を明らかにし、対策をうつための「チェックシート」が紹介されている。このチェックシートの特徴は、栽培管理、財務管理、販売管理の各項目について、問題の要因を知識・判断・実行の3つのレベルに応じて設問を設けており、4段階で評価できるように設計されている点である。たとえば農業の利用についてであれば、知識不足に問題があるか、現場での判断力がないのか、実行していないのかなどを明らかにすることができる。なお、作業管理については、計画・実行・改善の3つのレベルの設問になっている。

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各県の農業技術センターや財団などが同様のチェックリストを作成していることから、いくつか調べてみて、自分に合ったものを探して実際にチェック作業をやってみることをお薦めする。身の程を知り、謙虚に反省して対策を打つことはとても大切なことだ。新規就農者で失敗する人の多くが、実力もないのに大きなことばかり言って、自分の非を認めない性格を持つ傾向にある。ちゃんと収量を上げ、一定の品質を確保し、家族を食わせるだけの経営を実現してはじめて、多少は、えらそうなことが言える資格を持つ。

栽培管理については、県の普及員や先輩農家から素直に学ぶ姿勢があれば、相応の技術は習得できる。特に生理障害などの危険性を感じた場合、携帯電話で即座に連絡して教えをこえるような人脈を作っておくことが大切だ。また、同じ地域であっても土壌や微妙な日照条件によって対策が異なるので、教科書だけに頼るのではなく、その地域の農業をよく知る人から話を聞いた方が適切な対応ができる。いずれにしても、「素直さ」が栽培管理を習得するためのポイントである。

作業管理についても、先輩達から学ぶ姿勢が重要であるが、加えて、いわゆる「頭のよさ」が重視される。農業は、馬鹿では出来ないと言われる所以である。年間、月間、週間別、ほ場別に作業工程を落とし込み、労働力の最適な配分を検討する。特に複合経営の場合、さらにその作業は複雑になり、緻密な計画を練る必要がある。また、直売などの販売形態をとる場合は、ほ場での作業だけでなく、荷造りや配達などの作業も発生するため、1時間単位の作業工程を考えなければならない。年間50品目以上の野菜をつくり、効率的に10か所以上のホテル・飲食店などへ販売している農家を知っているが、こうなるともはや天才の領域であろう。

財務管理や販売管理は私の専門分野であるが、これらもまた、非常に奥深い内容であることから、紙面の関係上別の機会に特集してみたい。

このように、新規就農への道は、非常に厳しく幾多の困難を乗り越えて行かねばならない。研修後、あるいは農業法人などでの修業後は、独立への道を歩むことになるだろう。その時は、孤独に耐えて打ち勝って行かねばならない。それでも頑張れ!新規就農者。己を信じて全身全霊で立ち向かえば、自ずと道は開けるはずだ。