第110回 | 2012.08.27

新たな道の駅のあり方を考える 道の駅「萩しーまーと」視察研修より

現在山口県周南市からの委託事業で、道の駅の管理運営体制の整備に係る業務を実施している。先日、この業務の一環として、全国的にも高い評価を受けている道の駅「萩しーまーと」へ視察研修に行った。過去にフードアクション・ニッポンにおいても、私の強い推薦でアワードを受賞した経緯があり、有名人になった中澤さかな事務局代表から直接話を聞けることを楽しみにしていた。

ほとんどの道の駅が公設民営方式をとっている中にあって、「萩しーまーと」は、全国的にも珍しい民設民営方式をとっている。施設は、萩市などからの補助金を受けつつ、自力で整備した。漁協を中心に市内の17事業者が出資して(資本金2,350万円)事業協同組合を設立し、主としてテナント方式で運営している。昨年度の売上高は9億6千万円。中澤氏自身、「もう上限だ」と認識があるものの、依然右肩あがりの経営状況にある。今回は、中澤氏の話から、その秘訣について整理してみたい。

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ひとつ目の秘訣は、萩しーまーとのメインターゲットを、あくまで地域住民においてきたことだ。萩は言わずと知れた観光地であるが、当初観光地型の道の駅構想が進んでいたが、「観光地型では失敗する」、「近者説、遠者来」と言う中澤氏の強い信念から、地域型に変更した経緯があると言う。現在の利用者は、萩市民約6割、その他山口県民約2割、県外が約2割の構成だ。漁港に併設していることから、魚類の品揃えが中心であるが、17の事業者がそれぞれ店を持ち、惣菜店、八百屋、肉屋、飲食店などがひしめき、店内はあたかも地域の市場のようで、市民の生活視点を重視した内容になっている。

観光型の道の駅は、季節変動、曜日変動が大きいが、地域型であれば、地域の住民に繰り返し利用してもらえる。萩市は人口約5万人の中堅都市に過ぎないが、リピーターの存在が、10億円と言う安定した売上を底支えしていると言える。

二つ目の秘訣は、道の駅の基本機能に加え、+αの機能付加に対する飽くなき挑戦である。中澤氏の説明によれば、萩しーまーとは、①道の駅の基本機能+②地産地消の拠点機能+③食の観光拠点機能+④地域情報の発信機能+⑤食育の拠点機能+⑥地域資源ブランド化機能+⑦都市部への販路拡充機能+⑧新規商材の開発機能+⑨若手人材の育成機能の9つの機能を併せ持っていると言う。そのいくつかの機能を紹介してみよう。

②の地産地消の拠点機能については、例えば地域住民の高齢化に対応したミニパック商材の品揃えなどに工夫が見られる。高齢化・核家族化が進む中にあっては、200g・1,000円の刺身は必要なく、50g・300円で十分だと言う考え方で、品揃えしたところ、これが大ヒット商品になった。また、公設市場をコンセプトとし、地域住民に喜んでもらえるよう、朝市や勝手御膳(買った食材を食堂でまるごと調理して出す)なども展開している。

④の地域情報の発信機能は、いずれの道の駅もパネル展示などにより地域情報の発信に努めているが、萩しーまーとの情報発信はレベルが全く異なる。テレビのレギュラー番組6本への出演経験を持ち、ガイヤの夜明けをはじめ、年4~5本の特集番組に登場している。オリジナルの単行本に加え、著名な料理研究家である熊谷氏と萩の食材と料理に係る本も出版した。さらに、かの有名なアルケッチャーノの奥田氏とは、共同の料理研究を進め、この度は出来た料理をローマ法王に献上するそうだ。パブリシティと言う媒体も有効に活用することで、継続的・効果的な地域情報の発信に努めている。

⑥の地域資源ブランド化機能では、特に水産物のブランド化に力を入れてきた。それまで地域に埋もれていた「真ふぐ」を掘り起こし、PRに努めた結果、それまで400円/㎏程度であった取引価格を、1,000円/㎏前後まで引き上げることに成功した。その他にも「萩のあまだい」、「萩の金太郎」など、固有のネーミングをつけた産品のブランド化に成功している。また、現在は、農商工連携事業の認定を受け、漁協、市、水産加工業者と「萩の地魚もったいないプロジェクト(主として加工事業)を推進中である。

⑦の都市部への販路拡充機能では、東京の紀の国屋、西武百貨店などの高級小売店への直販事業を進めている。航空便を活用して、朝採れた魚をその日のうちに店頭で売り出すと言う「D-0」の物流網を作り上げて付加価値を高め、市況の2倍以上の高値で販売することに成功している。また帝国ホテルなど高級料理店への供給事業も開始した。

⑨の若手人材の育成機能については、萩市から若手職員を預かり、萩しーまーとで働きながら研修を受け、3年後に市に戻すと言う事業を継続的に実施している。地域の活性化を担う次世代の人材を育成する事が、萩しーまーとの使命の一つであると位置付けている。

最後に中澤氏は、施設開発のキーワードとして「売り手よし、買い手よし、作り手よし」と言う近江商人の教えをあげられた。「安く売る、安く買う、泣きながら作る」と言う現在の構図を憂えてやまない私にとって、とても嬉しい言葉だった。「三方よし」の原則に立って、価値あるものをつくり続け、その価値を消費者に伝えながら販売し、価値をかみしめながら美味しく頂く。あるべき共生社会のあり方に原点をおいた経営だからこそ、萩しーまーとは愛され利用され、発展してきたのだと感じた。