第193回 | 2014.06.16

新たな農産物のブランド戦略を考える ~「うんといい山梨さんプロジェクト」推進委員より~

今年も引き続き、山梨県農産物のブランド化を目的とした「うんといい山梨さんプロジェクト」推進委員会の委員を務めさせて頂いている。6月9日に開催された平成26年度の第1回の検討会では、認証団体の追加や今年度の取組内容などについて協議を行った。

山梨県は、さくらんぼ、もも、すもも、ぶどう、かきなどを主力とした果実王国であり、果実の売上高では全国5位の実績を持つ。特に、ももは、東京中央卸売市場での金額ベースのシェアは54.9%、大阪中央卸売市場では42.4%、ぶどうは東京市場が42.9%、大阪市場で40.2%と、圧倒的なシャアを占めている。東京市場においては、ぶどう類のうち、ピオーネがシェア1位、デラウェア、巨峰、シャインマスカットがそれぞれ2位のシェアを占める。

今年度の山梨県の果樹は、2月に大豪雪のダメージを受け、ハウスものの復旧には、未だ時間がかかるものの、露地ものについての被害が少なく、天候にも恵まれ、増産体制がとれそうだ。JA全農やまなしの見込みによれば、ぶどうは、前年比98%の生産見込みであるが、ももは115%、すももは104%の見込みで、実付きがよく、生育は非常に順調とのことである。

山梨県農産物の認証制度は、3年前に大きくスキームを変更した経緯がある。以前の制度は、非常に厳しい品質基準を設け、売り先を高級果実専門店に限定する戦略で、いわば「幻の逸品」という位置づけだった。農産物のピラミットの頂点をブランド化することにより、産地全体のイメージアップと生産技術の底上げを図ることを狙いとした。しかし、基準が厳しい故、出荷量は非常に少なく、PRしても、流通業者も消費者もほとんど手に入らないという状況であった。

かれこれ5~6年前、旧制度について㈱流通研究所が調査・研究を行い、制度上の課題や改善の方向性を提言した。こうした提言が、一部受け入れられ、新制度に移行した。新制度では、品質基準をある程度、緩やかにしたことに加え、信用・信頼、安全・安心の2つの視点から諸条件を満たした団体を認証する制度に変更した。その結果、現在19品目、112団体が認証され、昨年度は41団体が「富士の国やまなし認証農産物」の出荷を行った。昨年度は、前年度と比較し、ももが72.4%増、ぶどうが14.4%増の出荷実績で、新制度はようやく軌道に乗って来たと言える。注目すべき品目としては、シャインマスカットが対前年比で約3.5倍、干し柿が4.5倍と飛躍的に伸びている点である。なお、この度の検討会では、JA笛吹境川支所ぶどう部会(巨峰、ピオーネ)が、満場一致で新たに団体認証を受けた。

検討会で議論が沸騰したのは、品質基準の厳格化についてである。新制度においては、例えば、ももは糖度13度以上、1箱16玉未満の大きさ、見た目などの基準があり、出荷時には、目合わせ会を実施している。シャインマスカットについては、糖度18度以上、ひと房450~650gとなっている。しかし、技術力が高い生産者は、玉張りが良いものを作っており、1粒あたりの重量が重く、ひと房650gを超えることもあるのだそうだ。

一方、すももについては、選果場での光センサーが利用できず、糖度規準が不明確になっている。委員からは、ハンドセンサーを導入して、糖度規準に基づく認証を行うべきだという意見が出た。こうした検討の中で、6月5日に、シャープがスマホで果実の写真を撮ると、糖度や食べ頃がわかるシステムを開発中で、来年度には製品化する予定であるという委員からの情報提供があった。これは、産地・小売店で、糖度15度と表示して売っても、消費者が容易に、その成否を判定できるということだ。

果実のおいしさは、糖度だけでなく、酸味や硬さ、風味などが総合的に評価されるべきもので、消費者にも個人差がある。しかし、数値で測れる基準は糖度しかなく、全ての果実について、糖度規準を導入すべきだと言う意見が大半を占めた。こうした意見を踏まえ、今後、全農やまなしと果樹試験場が中心となり、基準の柔軟な見直しなどを検討することになった。

今年度の事業では、東急ストアやサミットなどでの、販売促進キャンペーンを計画している。県の認証制度の多くは、ブランドマークやポスター、ホームページやニュースリリースなどの空中戦に販促活動が限定される傾向にある。昨年度の会議において私は、ブランド化に向けては、こうした空中戦だけでなく、売り場を起点とした地上戦の販促活動を重視すべきであると、繰り返し提言してきた。ようやく実現することになり、とても嬉しく思う。

ただし、中途半端な地上戦では効果は出ない。金次郎野菜の販促活動では、昨年10月からずっと、週3回野菜ソムリエさんに売り場に立ってもらい、試食や商品説明などの販促活動を行っている。また、売り場に掲載したPOPも既に50枚を超えている。その結果、ようやくブランド野菜として定着しつつある。こうした体験を踏まえ、山梨県は、腹をくくって提携店舗との連携を強化し、継続的な予算を投下するべきであると提言した。今年度からの本格的な事業に、大いに期待したい。