第4回 | 2010.06.21

新たなステージを迎える農産物直売所 ~新たな直売モデル乱立時代への突入~

流研では昨年度、農林水産省の助成を受けて「地産地消・直売活動推進事業」を実施し、全国の直売所へのアンケート調査や交流会の開催、実証実験などを通して、直売所やインショップなどの現状・課題を把握した。この事業では、売上をさらに伸ばす直売所が見られる一方で低迷・減少を余儀なくされる直売所が多く見られること、大都市において多様な直売モデルが伸展していること、商品の融通等直売所間の連携が活発になっていることなどが明らかになった。まだ概要版の在庫が幾らか残っているので、必要な方は流研までご一報頂きたい。

さて、従来、農産物直売所は地域の兼業農家や高齢者・女性などが主な出荷者となり、身近な換金拠点、地産地消の拠点としての役割を担ってきた。しかし、出荷者の高齢化に伴い生産力が低下している、あるいは消費者が少なく集客面に限界があるなど、運営課題が顕著になりつつある。一方近年の動向を見ると、これらの課題解決に向けて従来型の概念とは異なる直売所が多く登場しており、今後成長が期待できるモデルとして注目されている。これら新たな直売モデルは、出荷者の特性と直売所の立地という2つの視点で区分できる。

column2

新たな直売モデル1は、専業農家が主体となり、小遣い稼ぎではなく直売所を重要な販路の一つと位置づけるモデルであり、茨城県の「みずほの村市場」の事例があまりにも有名だ。「みずほの村市場」は1990年の発足以来、売上高は一貫して右肩上がりで現在の売上高は7億円に達している。専業農家の技術力・生産力を存分に発揮し、「ここでしか買えない」と利用客が思うほど品質の良い農産物を取り揃えており、農産物の価格は近隣のスーパーなどに比べて2~3割ほど高い。また入会ルールは厳格で、出荷者は入会時に販売権利金として30万円を納め、後から参入する農家は先に参入していた農家以上の価格をつけなければならない。また出荷者は年間売上高360万円以上がノルマで、現在の出荷者は50件程度と、意識の高い農家に限定し、品質と所得を重視した施設運営を実現している。

新たな直売モデル2は、直売所の立地を高い集客力を誇る都市部に求めるモデルである。群馬県高崎市に本部を置くファームドゥ(株)は、群馬・埼玉の都市部に加え、都内にも直売所を多数出店し、チェーン展開している。店舗は元コンビニエンスストアだったところが多く、平均の売り場面積は40坪程度である。トマト、果実等は前日出荷、軟弱野菜は当日出荷が基本で、生産者は前々日に出荷できる品目と量を本部にFAXし、それに応じて本部が注文を出す形になっている。群馬県を中心に6,000人以上の出荷者を組織化し、産地の集出荷場から毎日都内の直売施設にルート配送している。潜在的な消費者ニーズはまだ確実に存在すると判断しており、生産者も出荷意欲が高いことから、物流ルートから定めた出店エリア内において今後も積極的に店舗数を増やす方針である。

新たな直売モデル3は、全国の専業農家を組織化し、都市部で直売所を開設するモデルである。株式会社ヴェルジェが運営する東京池袋地下街の「ヴェルジェ」にその典型を見ることができる。生産者の看板を掲示し、付加価値の高い野菜を高価格で販売し、大都市の消費者の高い支持を得ている。この他にも、関連会社である(株)野菜ビジネスでは、マルシェタイプの店舗展開をいくつか手がけており、持続可能な専業農家の大都市直売モデルを確立しつつある。

現在、全国の農産物直売所は13,000件存在すると言われており、これまで一貫して成長してきたが、すでに飽和状態にあると言える。このような状況の中で前述の通り、出荷者の限界、マーケットの限界という2つの重点課題を克服するために、従来とは異なる出荷者、異なるマーケットに着眼した経営形態を持つ様々なモデルが出始めている。今、農産物直売所は第2ステージを迎え、新たな直売モデルの乱立時代に突入したと言えよう。