第50回 | 2011.06.06

改めて知る日本一の農業生産法人の姿! ~野菜くらぶ研修レポート③~

前々回、前回に続き、野菜くらぶでの研修レポートの第3弾を掲載する。今回は、野菜くらぶを核としたグループ会社の全体像と事業展開の概要を説明するとともに、今後全国の農業生産法人が目指すべき事業化手法などについて考察してみたい。

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この農業生産法人グループは、①生産と販売、②生鮮と加工、そして③エリアの3点で、機能分化と相互連携の関係で成り立っている。また、その多くの法人が、グリーンリーフ(株)から出資を受けており、資本関係にある。

①の生産と販売の関係であるが、各生産法人及び地域の約60名の生産者が生産した野菜の販売を(株)野菜くらぶが一元的に担い、スーパー・生協・外食産業などへ契約販売を行う仕組みになっている。多様な野菜を周年を通して安定的に確保することで、(株)野菜くらぶの販売力が必然的に強化されることになる。

契約販売を行う場合、生産量の過不足リスクを勘案して、市場出荷を主体としつつ、一部を直接取引向けに生産する方法が一般的であるが、(株)野菜くらぶへの出荷する関連会社・生産者は、そのほとんどを直接取引向けに生産していると言う。どうしてこのようなことが出来るのかと訊ねたところ、澤浦氏からは「生産者の生産技術とコミュニケーションである」という回答が帰ってきた。先ずは生産者に高度な生産技術がある前提条件であるが、これに生産者同士、生産者と販売会社、販売会社と販売先との間に緊密なコミュニケーションがあれば、全量直接取引という販売形態も可能であることを証明している。

農家は販売力をつけることが重要であるが、販売ばかりに力を入れていると、現場に時間がとれず品質を悪化させて、結果として顧客が離れていくことになる。その点この農業生産法人グループでは、(株)野菜くらぶが販売の役割を担い、関連企業や生産者は現場に集中するという仕組みが出来ている。この仕組みも、確実な直接取引を可能とし取引先からの信頼を勝ち取ってきた大きな要因と言えよう。生産者各自がマーケティング力をつけることは必要であるが、生産者が生産から販売までの全てを賄うのではなく、販売は専門的なセクションに委ねるという製販分離型の組織づくりを目指したい。

②の生鮮と加工については、グリーンリーフ(株)が加工品の開発・製造・販売を一元的に行い、(株)四季菜などの法人は原料供給を担う仕組みになっており、両社は契約的な取引関係にあると言える。視察当日は、グリーンリーフ(株)の加工場も見学させて頂いた。20年前、こんにゃく相場の大暴落をきっかけに取組んだ手作りこんにゃくの製造から始まった加工事業は、漬物や冷凍野菜まで品目を拡大しており、現在販売先は200社を超えるまでに至った。

交流会で、商品開発のポイントは何かと工場長の原さんに訊ねたところ、「お客さんとのコミュニケーションですかね」という回答だった。無添加漬物は、契約取引を行っていた生協との共同開発であり、ほうれんそう・こまつなの冷凍野菜も生協からの要望に応えて製造に着手したものだ。帰りはメンバー全員で、原価度返しで開発したと言う「糖しぼり大根」を購入した。自宅で舌鼓を打ちながら、澤浦氏が著書で書いていた「こだわりを伝えることは大切だが、要望を聞くことはもっと大切」という言葉を思い出した。

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③のエリアについては、群馬、青森、静岡と生産拠点を分散することで、レタスやトマトの周年出荷体制を構築している。(株)野菜くらぶの卒業生を独立させる方式で、青森、静岡での生産体制を強化している点が特徴と言える。多くの県に生産拠点を分散させるのではなく、青森の黒石市、静岡の菊川市を拠点としたドミナント戦略により、栽培面積を拡充する方式をとっている。この1~2年の間にも、(株)野菜くらぶが出資するかたちで、卒業生を核とした農業生産法人を2つの拠点に相次いで設立している。こうしたドミナント方式をとることにより、群馬→青森→静岡のリレー出荷において、より多くのレタスなどを生産するための「面」を拡大することが出来る。また、(株)サングレイスについては、群馬・静岡の2箇所にトマトの栽培拠点を持つが、これもリレー出荷とドミナント戦略を目論んだものである。

なお、(株)サングレイスでもハウスの整備にあたっては、県の担当者を説得して県境をまたいだ制度資金を活用している。農業生産法人が拡大・高度化するにつれ、県単位での支援制度では対応できない時代が到来する可能性が高いと感じた。

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今後、6次産業化をキーワードとした農家の法人化、及び農業生産法人の経営規模の拡大は、全国で加速化するとものと考えられる。6次産業化では、自ら販売店や飲食店を営業したり、観光・交流事業を展開する手法も考えられるだろう。しかし澤浦氏は、生産者は先ずは現場を最優先するべきで、経営の多角化には踏み込むべき領域、踏み込んではならない領域が得ると言うのが一貫した考え方だ。消費者への直売領域まで手を伸ばすべきではなく、農家が担うべき領域は加工・契約販売までであり、餅屋に徹するべきだと考えている。農業が経営体として適正な利益を確保し、持続的に発展するためのひな型の一つが、野菜くらぶグループであると言えよう。

私としては、消費者と直接コミュニケーションができる農業形態は農家の夢でもあり、必ずしも否定すべきものではないと思う。しかし、直売・飲食まで踏み込むことは、人も物も金も新たに投下し、全く異なるノウハウを必要とすることを意味しており、経営の多角化理論からすると、かなり無理があることは明らかだ。現実的に、ここまで踏み込んだために経営状況を悪化させている農業法人は多い。この点については、野菜くらぶグループの経営スキームをさらに参考にしつつ、研究を進めて行きたいと思う。

今後も、折に触れ、この度の視察研修で学んだことを紹介して行こうと思う。最後に、澤浦氏の著書「農業で利益を出し続ける7つのルール」から、彼の人間性・経営者としての哲学を象徴する言葉をいくつか記載して、3回に渡る研修レポートを終わりにしたい。

○「農業は技術の善し悪しで決まる」
○「家族の協力がよい作物を生む」
○「販売を考えて生産に打ち込む」
○「お客様が『欲しい』という野菜を栽培する」
○「農業は現場が命」
○「できる農家は必ず日記をつける」
○「『人生=農業』の一体の価値観を持つ」
○「面白く仕事をする人は、仕事とプライベートの垣根がない」
○「成功のポイントは究極的には『人』につきる」