第129回 | 2013.01.28

急成長するカット野菜市場の現状と今後の展望 ~新たな農商工連携のあり方を考える~

今年は(独)農畜産業振興機構から、カット野菜業界の実態把握に関する調査業務を受託している。農産物流通、農業振興の観点から大変興味のある分野であり、私自身もスタッフの一員として調査に加わってきた。本日は、その中間報告にかえて、私見を交えながら、カット野菜市場の現状と今後の展望についてレポートしてみたい。

現在、カット野菜は、外食産業やコンビニエンスストアなどで用いられる業務用から、スーパーで販売されるサラダなどの市販用、給食・介護食用など様々な分野で利用されており、その市場は急成長を続けている。その背景には、健康志向の定着により野菜を確実に摂取するという消費者行動が定着したことに加え、核家族化、共働きといった家族形態の増加により、日本人の平均調理時間が短くなる中で、手軽な惣菜としてのカット野菜の認知が進んできたことが理由である。

スーパーでは、個食パックのサラダ商材と、サラダ用の袋もの、加熱調理用の袋ものという3種類のカット野菜が販売されている。店舗によってその比率は異なるが、より容量が少ない個食用商品が伸びる傾向にある。これは、核家族化が進む中で、野菜をまるごと買っても余ってしまい、食べきれる容量が求められていることが背景にある。一方で、サラダ用から、カレー用、鍋用、さらにはキット化商品と商品のバラエティ化も進んでいる。

コンビニエンスストアでは、出店数と売上の拡大に後押しされ、カット野菜商品は急成長を遂げている。ある大手コンビニチェーンの仕入担当者によれば、カット商品の売上は、近年倍々ゲームだそうだ。売れ筋は圧倒的にサラダパック商品で、商品開発には余念がないが、キャベツ+αがダントツの売上を誇ると言う。消費者層は独身女性を中心に、独身男性や高齢者世帯など広がりを見せている。

外食産業では、”食と健康”という消費者ニーズの変化にともない、メニューを飾る料理は、肉・魚から野菜中心のメニューへと様変わりしており、食材としての野菜の需要は伸びている。カット工程を内製化する外食チェーンも見られるが、ゴミが出ない、歩留まりがよい、原料価格が市況に左右されないなどのメリットから、外食産業でのカット野菜の取扱は拡大傾向にある。そして、外食業界におけるカット野菜の需要は、業種・業態や、それぞれの店舗環境(厨房施設、オペレーション、メニュー)に応じて細分化しつつある。

マーケットの拡大を受けて、このカット野菜事業に新規参入する企業も多くみられるようになり、青果市場をはじめ、大手商社、異業種からの参入が相次ぐ時代になってきた。しかし、品質や価格が日々変動する野菜においては、品質や需要動向の見極めが重要である。野菜の市況は相変わらず乱高下するが、小売店などへの販売価格は原則固定で、レタスの価格が上がったからと言ってキャベツで代替した商品を納める訳にはいかない。産地との契約栽培を進める企業も見られるが、価格変動のリスクは常につきまとう。

また、カット野菜工場は、小売店などから「菌数の基準値」「温度管理」「生産管理」「品質管理基準」など、数値を用いた厳しい基準が課せられる。さらに、需要者が求めるカットの規格は「だいこん」だけでも30種以上あり、細分化・小ロット化にも対応した取組が求められる。そのため、衛生管理・品質管理が出来る加工場をつくるために多大な設備投資が必要になる反面、薄利多売であることから経済面でも非常に難しい事業である。こうした背景から、多くの参入企業がこうした問題をクリアできず、撤退を余儀なくされているのも事実である。

こうした市場環境の中、カット野菜工場と産地との連携も進みつつある。その先進事例が、農林水産大臣賞など数々の受賞歴を誇る倉敷青果の取組である。倉敷青果は、倉敷市を拠点に食品の卸、仲卸、レストラン部門まで幅広く食の事業を展開しているクラカグループの中核を担っている。市場内に拠点を構える青果物卸会社でありながら、「洗浄殺菌カット野菜」のブランドで商品化したカット野菜は、全売上高65億円のうち17億円を占める。

トヨタの生産管理手法を見習い、荷受けからカット、洗浄、殺菌、包装と工程ごとに作業手順を列記し、無駄がないかをチェックし、人件費の削減と生産効率の向上を実現した。また、包装作業は、流れ作業ではなく、1人の作業員が、責任を持ってすべての具材を詰める「セル方式」を採用している。その作業員専用のラックには詰める数種類の野菜が用意され、作業員は仕様書をみながら、詰めていく。自分が商品を作るということを意識づけることで、やる気が出て責任感が生まれるという。

倉敷青果の原材料は、8割が契約栽培によるものである。仕入れる原材料は、規格外の野菜も多く、ダンボールではなくコンテナで納品されるケースも多い。また、カットする段階で出る残渣を堆肥化し、それを契約する生産者に使ってもらうことで、資源循環型農業を推進している。いくつかの産地と契約栽培を進めているが、たまねぎプロジェクトは有名だ。

中国からの輸入に依存していたたまねぎを国産品で賄おうと、倉敷市、尾道市、諫早市などの産地と国産玉葱生産・利用拡大協議会を設立し、新規にたまねぎの作付けを行うなど産地づくりを進めている。倉敷市で試みているのは水田を利用した「たまねぎ」栽培である。この地域では田植時期が6月中旬以降のため、それ以前にたまねぎを収穫して、2毛作を行うことができる。生産者は、契約栽培により安定した収入が見込めることに加え、米との複合的な経営が可能となり所得向上につながっている。

カット野菜市場が急成長する中で、産地、卸、製造・加工、流通の川上から川下までをつなぐ仕組み、それぞれのメリットを享受できる仕組みをつくることが今後の課題と言える。そのコーディネートをする主役はカット野菜工場であり、スケールが大きな農商工連携のビジネスモデルの事業化、フードチェーンの構築に向けた取組を期待したい。