第175回 | 2014.01.27

急がれるJAの組織改革 ~大規模農家の育成とJAのファンづくりが改革の鍵~

農林水産省は、専業農家や大規模農家の発言権の拡大を軸としたJAグループの組織改革に向けた検討を始めた。農業協同組合という組織は、専業・兼業や、経営規模に関わらず組合員が平等の議決権を持つことから、少数の大規模農家の発言が組織運営に反映されにくい組織特性を持つ。また、現在のJAグループの正組合員は427万人で毎年減少傾向にある一方で、農業をしていなくても出資金を払えば加入できる准組合員は急増し、現在は准組合員が正組合員の数を上回る状況にある。こうした背景から、地域農業の推進主体であるはずのJAという組織の存立意義が、社会的に問われていると言えよう。

地域の担い手の現状を見ると、兼業農家を中心に農家の高齢化や離農者の拡大は、すさまじい勢いで進んでいる。その一方で、離農者などの農地を集積しつつ、大規模な経営を目指す専業農家も増えている。しかし、こうした大規模農家は、自ら販売事業に乗り出したり、商系企業から農業資材などを購入したりと、JA離れを進める傾向が見られる。したがってJAは、専業農家の大規模化や法人化を嫌う体質にあったと言える。その結果、大規模農家のJA離れがさらに進むという悪循環に陥っている面も見られる。国は、農家の大規模化を進めており、この政策自体がJAにとっては悩ましいものであったことは否めない。

しかし、これまでJAの基盤になっていた兼業農家は、高齢化を通り越してどんどんお亡くなりになっており、正組合員の減少傾向は加速するばかりである。正組合員の減少は、産地としての生産力減退に直結し、市場での優位性が揺らぎだしつつある。JAの基盤である正組合員数は減らしたくないが、これからも減っていくことは明らかである。こうした状況に危機感を持ち、専業農家の育成や大規模農家の囲い込みを始め出したJAは多い。では、専業農家の育成や大規模農家の囲い込みを行うためには、何が必要であろうか。

一つ目は、販売で引っ張る経済事業へと転換することだ。残念ながら、これまで多くのJAは、市場との事務手続業務を行って来たに過ぎず、販売事業をやってきたとは言い難い側面が見られる。現在卸売市場においては、従来のセリ取引はほとんどなくなり、相対取引が取引量の9割以上を占める。また相対取引も高度化しており、近年は、どこにどのように売るのか、最終的な実需者を特定して取引する「市場直販」と言われる取引形態へ移行している。また、市場外流通である実需者との直接取引も拡大している。こうした流通構造の変化を踏まえ、JAの経済事業担当者は、組合員のために有利販売先の確保を目指し、死に物狂いで営業活動に奔走しなければならないだろう。

二つ目は、大規模農家の育成、法人化を積極的に支援していくことだ。これまで農業基盤整備や農地集積などは、農業委員会や行政の仕事であってJAの仕事ではないと言う考え方がJA内にあった。また、担い手育成対策にも力が入っていたとは言い難い。特に担い手への農地集積については、生産実行組合の事務局を持ち、農地保有者の全てが組合員になっているJAが、もっと積極的に調整に乗り出すべきであろう。法人化については、地域の税理士などと連携して法人設立や事業計画の作成、その後の経営改善などの支援も必要であろう。さらに、農家の法人化にあたっては、JAも出資し、農家との共同会社を立ち上げるという発想があってもよい。

一方、JAは、営農事業の赤字を金融・共済事業の利益で補って経営しているのが現状である。こうした実状を批判される方は多いが、私はそのこと自体むしろあたりまえだと思っている。利幅が少ない、あるいは逆ザヤになる経済事業を維持・発展させていくためには、JAが持つ総合力をフルに発揮した事業展開が必要である。農業協同組合法に基づく員外利用規制があることから、JAはいずれの事業も組合員を対象とする必要がある。正組合員が減少する中で、収益源となっている金融・共済事業を維持・拡大するためには、准組合員を拡大し、これをターゲットに金融・共済・開発・葬祭事業などを推進していくしか道はない。

そのためには、JAファンを拡大していくための地道な努力が必要である。神奈川県では今年度、県下のJA直売所で食育活動を展開すると言う医食農同源推進事業を実施した。消費者との接点となる直売所で、食育に関する広報や研修活動を行い、消費者の食生活の向上と健康増進を進めていこうというものである。先般、県内JAの直売事業担当課長とお話する機会があったが、こうした活動は一般のスーパーでは取り組まないことで、JAらしいとてもよい活動であると実施後の感想を述べられていた。目の前の売上確保ではなく、長期的な視点に立ってJAを知ってもらいファンになってもらうための、効果的な手法と言えよう。こうしたファンがやがてJAの准組合員となって、JAの経営を支える大きな基盤となるだろう。

また、JAは、地域農業を発展に導く経済団体であるとともに、農村を守る活動団体としての側面を持つことを忘れてはならない。農村では、JAは必要不可欠な存在である。過疎化によってJAの支店が撤退した農村が崩壊に向かう事例が多いことからもわかるように、JAが存在するからこそ、地域コミュニティが維持でき、人々は安心して暮らせる。経営環境が厳しさを増すJAは、組合員が減少した地域では事業を継続できないことは分かる。そうした農村では、地域住民全員を准組合員として加入させるといった戦略が打てないものかと考える。

いずれにせよ、JAの組織改革は待ったなしの状況であると考える。組織改革には、自らの体に刃を突き立てるような、大きな困難と痛みを伴うものだろう。しかし、それでも、今取りまなければ、10年後、20年後、JAはその社会的な存立基盤を失うことになりかねない。