第232回 | 2015.04.15

平成27年度の消費者動向を占う ~ 景気回復で市況は上向くのか ~

アベノミックスが成果を上げつつあるのか、多くの大手企業の業績が上昇傾向にあるようだ。それに伴い今年は、ベースアップの実施など、景気のよい回答を出している企業も多い。我々農業関係者にとっては朗報で、消費者の所得が上がれば、それに伴い農産物の価格も上がるのではないかという期待を持ちたいところである。しかし、なかなかそのようなうまい話にはならないようだ。

農産物を含めた食料品・外食・中食といった食の数量ベースのマーケットは、日本人の人口減少に伴い、今後縮小することは確実である。多少ふところが温かくなったからと言っても、同じキャパシティの胃袋しかないので、今までより多くの量を食べることなどあり得ない。飽食の時代と言われて久しく、ほぼ全ての国民が、すでに腹いっぱい食べている状況にある。したがって、より多くの農産物が供給されても、購入量は増えず、価格が下落するだけという構造にある。

その典型が米である。現在日本人は平均で1日に茶碗で2杯半の米を食べている計算になる。昔と比べて米を食べなくなったと言われているが、米しか食べるものがなかった戦後の時代と比較すること自体無理がある。私はむしろ、日本人は未だに米を食べ過ぎではないかと思う。米茶碗一杯で15個分の角砂糖に匹敵する糖分が含まれていると言われているように、食べ過ぎは肥満につながるなど、米は健康に必ずしもよいとは言えない食べ物である。この話は栄養学的にも証明されており、その知識は消費者に浸透しつつある。

健康志向のさらなる拡大に伴い、1人あたりの米の消費量はさらに減少することになり、人口減少と高齢化とあいまって、その需要は縮小することになる。このまま供給量が減らなければ、景気動向にかかわらず、米価は下落し続けることになる。また、米離れが確実な中で、米価がさらに安くなり購入しやすくなったとしても、消費量が増えることはあり得ない。

消費税増税は2017年4月に延期されたが、消費者は来るべき増税に備え、賢い消費者になっている。また、かつてバブル経済を経験した国民は、同じ間違いを犯さないよう、必要なものを必要なだけしか購入しないという購買行動をとるようになっている。多少お金があっても、無駄な買い物はしないということだ。こうした購買行動を基本としつつ、現在は、本物志向を持つ高所得者層と、低価格志向を持つ低所得者層への2極分化がさらに進んでいると言えよう。

この傾向は、嗜好品といわれる果実で分かりやすい動きが見られはじめている。いわゆるブランド品といわれる高価格帯の商品が比較的好調である反面、スーパーの売り場は「お買い得品」の売れ行きがよいなど低価格競争が相変らず続いている。こうした動向を踏まえ、産地では品質基準を明らかにして、高価格帯と低価格帯を抱き合わせで販売する戦略をとる動きが進展している。

先日、全農やまなしが主催する、山梨県の生産者大会に特別講演の講師として呼ばれ、山梨県農産物のブランド化について話をさせて頂いた。そこで申し上げたのは、高位平準化を前提に、JAの集荷率を高めロットを確保することに加え、集荷した農産物を品質階層に分けて、市場との連携強化により階層別・価格帯別の販売戦略を打つことが、山梨県全体のブラン力強化につながるという話だ。つまり、よいものをより高く売ることだけを考えるのではなく、2極分化する消費者層のいずれにも対応する販売戦略が重要だという持論である。個々の生産者が直売に走れば、産地の品質や規格もばらばらになることに加え、JAの取扱ロットは減少し、上記のような販売戦略が打てなくなり、結果として県全体のブランド力は低下することになる。

昨年は全国的に「シャインマスカット」が絶好調で、びっくりするような高値がついた。これは商品の魅力だけでなく、景気が上向いていることの証明といえよう。今年も果実については、景気の後押しにより好調が続くものと予想する。しかし、産地は、浮かれることなく、2極分化が進む消費者動向に最大限アンテナを張り巡らせ、マーケット・イン型の生産・出荷体制をつくりあげて頂きたい。また、山梨県だけでなく、長野県など他産地でも「シャシン・マスカット」を戦略作物と位置付けており、今後急激な増産が予想されることから、いつまでも現在の高価格が維持できる訳ではないことに留意する必要がある。

次に、野菜はどうであろうか。野菜の場合、過去のデータが証明しているように、景気動向に左右されることなく、需要と供給によって価格が決まる傾向が強い。今年も気象条件などによって、価格の高騰や下落が繰り返されるという例年のパターンと大差はないだろう。しかし近年は、せり取引から相対取引へ市場の取引形態が移行したこと、全国の出荷情報などが比較的容易に入手できるようになり、産地側の生産・出荷調整が機能するようになったことなどの理由から、価格の振れ幅は縮小する傾向がみられ、今年も相当の異常気象がない限り大暴落などはないと考えられる。

流通研究所では、「金次郎野菜」というブランド名で、神奈川県内の若手生産者がつくる秀品を市況よりも高い価格で販売している。「ここの野菜は何を食べてもおいしい」と言ってくれるリピーターが増えており、事業の拡大に向けて確実に手ごたえを感じている。しかし、金次郎野菜の小売価格は一般品の価格の1.2~1.3倍が目安で1.5倍が上限である。それ以上の価格をつけると、どれほど品質が優れていても売れ行きは悪い。また、他産地の安価な農産物が大量に回れば、リピーターの多くはそちらの産地の商品を選択する。野菜の値頃感は消費者に定着しており、価格にも敏感なことから、ふところが潤っても高い野菜は買わないという購買行動をとる傾向がみられる。

もうひとつ感じることは、本物志向を持つ消費者の多くは、自分が発見・発掘した農産物を買い続けたいという意向を強く持つことだ。自分の志向に合ったおいしいレストランを調べ選択するように、野菜にもオンリーワンのおいしさとこだわりを求めている。こうした潜在的なニーズに対し、どのようなかたちで情報発信をしていくのかが、売るための取組課題となろう。

さて、今年の景気はさらによくなる。景気は人の気持ちで左右されると言われるが、国民全員がそう思えば、景気はどんどんよくなるだろう。農業を取り巻く環境は依然として厳しく課題だらけである。しかし、悲観していても一つもいいことはない。浮かれてはだめだが、この好景気を踏まえ、消費者動向を見つめつつも、上昇機運を持って前進して欲しい。