第118回 | 2012.10.29

市場は変わる! ~東京シティ青果が取り組む新たな展開~

今年は東京都からの仕事で、市場関係者と話す機会が多い。先日は、築地市場の荷受で、青果物卸売業界NO.2である東京シティ青果の方々と、様々な情報交換をさせて頂いた。そこで、とても素晴らしく斬新な考えをお持ちのキーマンに出会い、非常に感動している。ご存知の通り、卸売市場は全国的にも取扱高が年々減少しており、厳しい環境に置かれている。この環境の中で、各市場も生き残りをかけた戦略を模索しており、今や待ったなしの状況にある。以下は、そのキーマンから聞いた話を中心に、今後の卸売市場の展望について考えてみたい。

過去30年間の流通構造の変化を見ると、大手を中心としたスーパーが、最も消費者に支持される小売業態として台頭し、流通業界のオピニオンリーダーとしてその地位を不動のものにして来たと言える。その結果、スーパー側が要望するロットと価格に応えることが、卸売市場が唯一生き残るための方策となってしまったように思われる。近年、市場再編が進む中にあって、いかにロットをまとめてスケールメリットを発揮するか、あるいはスーパーの物流センター機能などを担い、スーパーの補完的な役割を持つかなどが、市場の基本戦略となっている。しかし本来市場とは、生産者と小売業者をつなぎ、価値に応じた適正価格を形成し、産地を育成して、生産者の所得を守ることが社会的な使命だったはずだ。

一方、東京シティ青果が青果物の荷受となっている築地市場は、日本の台所と言われるように、目利きの卸売業者が多数集まっており、特に水産物部門では「築地」と言うブランドを作り上げている。都内に本社があるほとんどのスーパーと取引関係を持つことに加え、飲食店・ホテルなど業務用の取引については、未だに圧倒的な力を持っている。しかし、天下の築地もまた、取引量は年々減少傾向にあり、廃業に追い込まれている仲卸も少なくない。その中で、豊洲への移転が決定しており、新たな市場戦略を模索しているところである。

キーマンは語る。「これまでいずれの市場も、スケールメリットを追求することが基本的な経営方針であり、取引先はスーパーに重点を置いてきた。しかし、シティ青果の場合、築地と言う特性を活かし、スケールメリットだけでなく、小さな産地とも取り組んで、飲食など新たな需要を開拓していこうと考えている。これまでのような『取引』ではなく、産地と『取組』をして行きたい」と。これまでのように大きな産地とのみ取引して、スーパーを顧客にしていたのでは、市場間の競合に巻きこまれるしかない。そこで、これまで未開拓であった飲食店などを対象とした顧客開拓を進めようと言うのだ。

築地の場合、水産物の取扱では、他の市場の追随を許さない取引量とブランド力を持つ。そこで、これまでは飲食店などが築地まで赴き、場内市場あるいは場外市場に軒を連ねる仲卸などの店舗まで食材を買い付けに来た。水産物のついでに農産物も買って行くと言う取引形態が中心であった。こうした状況の中、シティ青果は仲卸とともに、飲食店などを対象に自ら働きかけ、店舗までの配送まで担って行こうと考えている。また、水産物との混載物流についても検討中である。今年は、「ぐるなび」、「食文化」とともに、「食品情報館」という会社を立ち上げ、ぐるなびが持つ33,000店舗のネットワークを生かし、新たな流通の仕組みを研究中である。その手始めとして、10月末には、著名なシェフを招き、食材をPRする「dancyu(だんちゅう)祭り」を築地で開催した。

流通研究所は、地産地消の推進と言う目的で、地域の農産物を地域の飲食店などに供給するシステムについて、いくつかの地域で研究・検討を重ねてきた。ロットが小さく生産者側の利益につながらないこと、受発注の手間と物流コストが嵩み中間事業者の採算がとれないことなどの理由から、成立の可能性は低いと言う結論を出してきた。しかし、配送エリアを限定しより多くの優良店舗を取り込むこと、価値の高い農産物を重点的に販売することなどで、成立の可能性は高まると考える。スーパーだけを相手にしていたのでは、市場本来の機能は発揮できない。東京シティ青果は、この未開拓のマーケットにチャレンジして行くところに、新たな展望が見えてくると考えている。

もう一つ、キーマンから興味深い話を聞いた。「市場では『鮮度』ではなく、『鮮度感』が評価されてきた。その農産物が収穫後何日経っていようと、見た目さえよければ良い商品とされてきた。朝取り引きした時にクレームがなければ、その数時間後に品質が悪くなっても、『買っておいて、何を、文句を言うのか』と言うのが慣例である。市場は、鮮度を重視してこなかったことから、直売やスーパーのインショップに取って代われて来た経緯がある。こうした反省を踏まえ、今後は鮮度を重視して都内産野菜を流通させて行きたいと考えている」と。農産物の大きな価値である「鮮度」が、市場で価値として認められてこなかったことは、市場流通の大きな課題であろう。

また、8.5%と言う決められた手数料のもと、委託販売をすることが、これまでの市場のビジネスであったが、シティ青果は、農産物を買い取り自ら価格を付けて販売すると言う差益取引に力を入れており、その販売構成比は現在32%まで拡大していると言う。買取販売であることから、当然ながらシティ青果のリスクは高いが、生産者・需要者に対し、明確な価格提示ができるなど、独自性を持った展開が可能になる。ここに着眼し自己改革にチャレンジする、シティ青果の姿勢を高く評価したい。

このように考えると、卸売市場はまだまだ改善の余地があるように思える。市場流通は、生産者と実需者の間の商流・物流を取り持ち、価格形成と需給調整を担う、日本が産んだ芸術的な流通システムである。加えて、産地を育成し、生産者を守り、需要者に農産物の価値を伝えることが使命である。現在シティ青果が取り組もうとしていることは、市場の復権であり、市場発の流通改革と言えるであろう。今後の取組を大いに期待したい。