第161回 | 2013.09.24

崖っぷちに立つ青果物卸売市場 ~経営改革に向けた方向性~

大手青果物卸売会社の業績が悪化の一途を辿っている。周知のように、大手量販店主導型のサプライチェーンの強化、生産者と実需者との直接取引の拡大、直売やネット販売など販売手法の多様化などを背景に、市場を通さないで流通させる、いわゆる市場外流通が拡大しつつある。先に新聞報道があった、中央卸売市場の荷受業務を行う主要青果物卸売業者の売上状況を見ると、対前年比をクリアしているのは僅か4社のみで、その他の企業は前年割れで、中には10%近く売上が減少している企業も見られる。このままでは、世界に誇る日本の市場システム自体が崩壊してしまうことさえ懸念される。本日は、中央卸売市場(消費地市場)の生き残りに向けた経営改革のあり方について、私見を述べてみたい。

【中央卸売市場の卸売業者の直近の業績】

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卸売市場は、産地を顧客とする荷受業者、実需者を顧客とする仲買人、そして買参権を持つ売買参加者から構成される。仲買人と実需者との取引が活発になり、売買参加者の市場からの買い付けが拡大すれば、荷受の購買力や価格形成力が高まり、産地はその市場により多くの青果物を出荷しようとする。しかし、市場全体の青果物の販売力が低下すると、購買力・価格形成力も低下し、「売れないから荷が集まらない、荷が集まらないから売れない」という負のスパイラルに陥ることになる。流通構造が変化する中で、荷受・仲卸・売買参加者の3者は、一部で競合関係にある一方で、本質的には運命共同体という性格を持つ。

卸売市場は様々な役割を持つが、社会的・経済的に最も重要なのは「産地と実需者をつなぐコーディネーター」としての役割であろう。一方、青果物の流通構造の変化の中で、産地も実需者も様々な取組課題を抱えている。原点に立ち返ると、市場とは、産地・実需者のそれぞれの課題を解決し、両者を結び付ける機能を発揮するところに社会的な存在意義があると言えよう。

では、産地の取組課題と市場への期待とは何か。先ずは、農産物の適正価格の維持であろう。豊作時には価格がつかず、投げ売りや廃棄をしている現状が見られることから、スーパーへ店頭販促を提案するなど、市場が少しでも高値で買い支える努力が求められよう。次に、振興作物のブランド化である。産地では、重点品目を育成して産地化を進めたいが、有利販売先がないことが課題であり、市場は新規取引を実現させるなど、産地と共に品目を育成することが求められる。さらには、加工・業務用取引促進も取組課題である。産地は直接取引を進めたいが、代金決済・需給調整・物流などのリスクが高いことから、市場直販方式の導入を含めたリスク回避のための支援が求められる。

一方、実需者も様々な取組課題を抱えている。量販店では、オリジナル商品の品揃え、特売品の確保、効果的な店頭販促、物流業務のアウトソーシングなどが重点課題であると言える。また、小規模小売店は、オリジナル商品の品揃えに加え、誘客対策や魅力的な店づくり、商店街の活性化などが課題であろう。また、食の外部化の進展により、外食やコンビニ惣菜向けのカット野菜業界は拡大基調にあるものの、こうした業界では定価・定量・定質・定時を基本とした原料調達は共通の課題となっている。

つまり、産地と実需者の取組課題に対応し、コーディネート機能を強化し、両者をマッチングさせることが市場の最大の役割であり、原点であると言える。市場関係者であれば、ここまでは誰でも分かりきっていることだ。しかし、これまで市場が、どこまで丁寧にこうした顧客の課題を拾い上げてきたかは疑問である。市場にしかできない多くの優位性があるにも関わらず、衰退傾向に歯止めがかからないのは、その原点を見失い、経営努力を怠ってきたと言われても仕方ない面もあるのではなかろうか。改めて、顧客ニーズに応えることを基本に、それに対応した機能整備という視点から、戦略を練り直す必要があろう。

しかし、衰退の一途を辿っている現在、ドラスチックな経営改革が求められているのも事実である。さきほど、市場は荷受・仲卸・買参人の3者の運命共同体であると述べたが、先ずは市場内に事務所を構える荷受と仲卸が経営力を向上させる必要がある。市場を支えてきた昔ながらの買参人の方は怒るだろうが、現実を直視すると、強固な組織を持つ買参人が市場改革の抵抗勢力になっている一方で、その市場に魅力がなくなれば、そこからの逃げ道も準備している。

一人勝ちの様相を呈してきた東京青果は、仲卸を徹底的に育成・支援することに戦略の基本を置いている。仲卸の販売力が強化されることで、取引量・有利販売先が拡大することから、全国の産地から自然に荷が集まることになる。その対極に立つのが横浜丸中青果であろう。横浜丸中青果は、仲卸の育成より、むしろ、荷受である自社自体の強化を徹底的に進めてきた。具体的には、顧客視点から営業・品揃え・数量調整などを一元的に行える内部体制を整備する一方で、子会社設立により、配送センターを整備したことに加え、カット工場やパッケージセンターなどを備え、コールドチェーンの構築など量販店の取組課題に徹底的に対応する経営改革を推進中である。その他としては、近隣市場の統合、市場ごとの機能分化、特定機能への特化などの大規模な改革に加え、ベジテックやデリカフーズのような大規模仲卸の誘致なども改革手法としては考えられる。

青果物卸売市場は、価格形成・需給調整・代金決済・情報の受発信など、未だに特筆すべき機能を持つが、せりから相対取引、さらには市場直販へと取引形態が変化する中で、既存のやり方や古き良き習慣から脱却して、未来型の新たな流通システムの確立を目指す必要がある。また、荷受・仲卸など民間企業だけでなく、それを管理してきた地方自治体も、これまでとは全く異なる発想を持って改革を進める必要がある。現在の市場法や都道府県による管理方式、さらには多くの買参人とともに歩んできた護送船団方式が、社会・経済構造の変化の中で、時代に取り残された歴史の遺物になってしまっているのかもしれない。