第148回 | 2013.06.10

山梨県の新たなブランド認証制度の展望 ~「うんといい山梨さんプロジェクト」推進会議より~

去る6月3日、第1回「うんといい山梨さんプロジェクト」推進会議に、委員として出席した。山梨県は、一定の品質水準を満たす銘柄や農産物を「富士の国やまなし逸品農産物」として認証する制度を導入しており、この会議は、制度の効果的な運用を図ることを目的に設置されたものだ。JA山梨中央会の廣瀬会長を委員長とし、県内主要JAの組合長や東京青果の果実部長をはじめとした流通事業者代表者など、豪華キャストにより構成されており、私を委員の一人として指名頂いたことを非常に光栄に感じている。

私はこれまで、山梨県で様々な仕事をしてきた。その中で、現制度の前身となる「山梨県特選農産物認証制度」の見直しなどに係る調査・研究業務を請け負った経緯がある。以前の認証制度は、「幻の逸品」という位置づけで、非常に厳しい基準のもと最高品質の農産物のみを、都内の果専店や百貨店など限定されたチャネルで販売するものであった。県産農産物のPRの一助にはなったが、高価格の贈答用など用途が限定され、恩恵を受ける出荷者の広がりが見られないなど、いくつかの課題が見られた。こうした背景を踏まえ、新たな制度としてスタートしたのが、「富士の国やまなし逸品農産物」認証制度である。

シンボルとなるロゴマーク、及びキャッチフレーズは以下のとおりである。ロゴマークには、作る人、贈る人、食べる人など、山梨県産農産物に関わる全ての人を「笑顔にしたい」という思いが込められている。「うんといい山梨さん達」が作った、「うんといい山梨産」を全国の消費者の皆様に届けることで、このロゴマークのような笑顔が、山梨の作り手、贈った人、贈られた人、食べた人に広がることを願っているというコンセプトである。ゆるキャラブームを意識してか、ちょっと可愛らしいロゴになった。

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第1回の会議ではまず、認証品目、認証団体の追加について議論された。その結果、「(富有)柿」や「干し柿(あんぽ柿)」、「甲斐サーモン」などが追加の認証を受け、これらを生産するJAの支所・部会などが認証された。次の議題は平成25年度の取組についてであり、認証農産物の安定的な供給、流通ルートの構築、取扱協力店への集中的なプロモーション活動、広域的な周知・PR活動の展開などについて議論された。JAの組合長や流通事業者の部長クラスという、まさに当事者が委員になっていることから、活発な意見が多く出され、白熱した議論が行われた。

私もいくつか意見を言わせて頂いた。1つ目の意見は、目合わせの徹底である。認証品目については、例えば果実の場合、果形、重量、果皮の着色、傷害・欠点など、複数の項目の基準が定めてられているものの、その判断は産地に委ねられている。したがって、JA・支所・部会ごとに、同じ認証品目であっても、ばらつきが発生する傾向にある。以前導入されていた制度下では、同じ認証シールを貼った「もも」であっても、出荷した部会別に品質差が生じ、流通事業者などを混乱させた経緯がある。人が判断することなので、誤差が出るのは当然であるが、品質に大きなばらつきがあってはブランドにはならない。これを解消するためには、県が主導するかたちで、認証団体ごとに目合わせ会を定期的に開催し、全県で品質の平準化を進める運動を持続的に展開する必要がある。

2つ目の意見は、スーパーなどへの販路の拡大と、贈答用にこだわらない販売手法の導入である。果専店・百貨店は、ブランドを形成する上で重要な販路であるが、取扱量は少なく、一部の消費者にしか情報を伝達することが出来ない。贈答用となると、さらに消費者とのコンタクトポイントは限定されることになる。そこで、より多くの消費者に知ってもらい買ってもらうような販売手法を検討する必要がある。ブランドイメージを壊わす懸念も否定できないが、市場・スーパーとの連携のもと、例えば2個入りパックを作ったり、店頭での演出を工夫するなど、新たな販売方法を検討していく必要がある。

3つ目の意見は、県内における販売戦略と観光戦略の融合である。富士山は世界遺産として登録されることが確実となり、今後は外国人を含め観光客が増加することが期待できる。その場合、そこに地場食材を活用した「おいしい食」があれば、観光地としての魅力は高まり、食材のブランド力も向上することになる。例えば、今後認証品目となる予定である大型のニジマスや新銘柄豚などについては、県内の複数のレストランやホテルと提携し、これらの食材を活用して地域特産品であるワインとよく合う料理を開発することで、観光の目玉にしていくといった方法も考えられる。

6月上旬の山梨は、ぶどう畑が丘陵地帯一面に青々と茂り、とても美しかった。篤農家達が、日々汗水流して美しいぶどう棚を仕上げている。まさにブランド農産物の産地にふさわしい光景である。山梨県の新たなブランド化の取組に大いに期待するとともに、その一助となれるよう、名誉の職を全うしていきたいと思う。