第226回 | 2015.02.23

小規模集落営農法人の設立に向けて~設立のための論点を整理する~

「100年経っても地域を守る担い手組織になる」を標語に、私が自分の田舎で立ち上げた農業生産法人「(株)おだわら清流の郷」は設立から1年9か月が経ち、これまでメンバーが努力を重ねた結果、会社としてようやく軌道に乗りつつある。農家の高齢化・離農が進む中で、この度に米価の低迷は、地域農業に一層暗い影を落としつある。こうした状況の中、今後の地域農業に強い危機感を持ち、清流の郷のような小規模営農法人を設立したいと考える地域も多いと思う。今回は、私自身の経験や地域への支援業務を通して、小規模集落営農法人の設立のポイントを整理してみたい。

まずは有志による、設立理念の共有化が非常に大切になる。それぞれ異なる個性や考えを持った人々が、会社という同じ傘の下で一緒に仕事をしていくと言うのは容易ではない。設立前も設立後も、意見が合わず喧嘩ざたを起こしたり、「もうやめた」と言い出す人が出る。それゆえ、「地域の農業・農地を守り、次世代に引き継ぎ、地域の未来を切り拓く」などの経営理念を最初に定め、このぶれない理念を柱に活動を進めていく必要がある。枝葉の部分で意見が合わなくても、柱さえ共有化出来ていれば、多少のトラブルは乗り越えていける。

次に会社の形態を考える必要がある。生産法人格を取得するためには、農事組合法人か株式会社かのどちらかを選択する必要がある。私は株式会社形態を薦める。組合法人は、構成員の協同の利益の追求が目的であり、平たく言えば自分達だけのための組織である。これに対し株式会社は、株主のための組織ではあるが、事業継承や参加者(出資者)の拡大が容易で、地域のための組織として機能しやすい。また、農事組合法人は企業の出資は受けられないが、株式会社は企業の出資が受けられ、6次産業化などを進めるためにも効果的である。まだまだ理由はあるが、迷わず株式会社形態を選択することをお薦めする。

株式会社による設立を予定するとして、次に迷うのが会社の資本金額と各自の出資金額である。資本金額は、会社で最初にどれだけの投資をするかを一つの目安として考えればよい。設立時に10町歩分の乾燥機、精米・選別機、冷蔵庫を会社で全て整備しようと思うと、中古で買っても500万円ぐらいはかかる。この場合、会社の資本金は500万円以上必要ということになる。一方、当初はメンバーの一人の施設・機械を会社で借りて運営してくのであれば、資本金は50万円でもよい。状況によるが、私は後者の方式をお薦めする。

有志5名が10万円ずつ出し合うなど、無理をせず、負担の少ない資本金額で立ち上げ、会社が軌道に乗った時点で施設や機械を購入すると言う考えである。また、将来は、事業規模に応じて出資者を募り、増資することも視野に入れたい。無理をしないために、会社がもしダメになっても諦められる程度の出資金に抑えておくことも、一つの手段であろう。

出資者は、全員取締役になることがベストである。経営者である取締役の報酬は、会社員とは異なり、賃金の最低基準などは法的に制限されていない。儲けが出るまでは無償で働く、あるいは時給制で時給300円などに設定をすることも可能である。経営状況に応じて毎年時給を上げてもよいし、別途取締役手当てを出してもよい。一つだけ留意すべきは、税務上、取締役の報酬は期中に変更することは出来ず、決算終了後の取締役会または株主総会の決議を受けて年1回しか変更することが出来ない点だ。

制度が変わり、現在は実績がなくてもやる気さえあれば、農業生産法人は認定農業者として認定してもらえる。認定農業者になれば、各種の制度資金も活用できるし、市町の独自の補助事業なども活用できる。さらに「人・農地プラン」での農地の受け手に位置づけてもらえるなど、様々なメリットが発生する。こうした政策の後押しをうまく活かしながら、段階的に事業や組織を拡大していくことを考えたい。

稲作の場合、農地の利用権設定をして管理耕作する業務と、作業の受託業務(耕起のみ、草刈りなど)が存在する。生産法人である以上、前者の自営業務を行う必要があるが、その割合は「無理をしない」ことを原則に、慎重に考える必要がある。米価が低迷する中で、会社で作り会社で売っても、なかなか利益が出ないことが予想される。したがって、設立当初は、自営2町歩、作業受託5町歩などとバランスを考えた業務計画を立てることが肝要である。

さて、各メンバーが現在耕作している農地と、会社で耕作する農地をどのように住み分けるのかについては、いつでも論点になる。各メンバーがそれぞれ異なる販路を持っていたり、生産方法が異なっていたりする中で、全ての農地を預け会社で耕作するのは合理的ではない。その仕組みは、大別すると以下の3通りが考えられるが、設立当初はパターン1またはパターン2を選択し、将来的にパターン3をめざすことが現実的であろう。

【パターン1】
各構成員が耕作する一部の農地を会社で耕作し、販売まで行う。

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【パターン2】
各構成員が耕作する農地は会社で耕作せず、他の地権者と利用権設定、あるいは作業受託した新たな農地のみを会社で耕作し、販売まで行う。

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【パターン3】
各構成員が耕作する全ての農地を会社で耕作し、かつ他の地権者と利用権設定、あるいは作業受託した農地面積を拡大して会社で耕作し、販売まで行う。

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小規模集落営農法人を立ち上げる場合、理念は崇高でなければならない。しかし、どこかに遊び心を持って臨むことが、うまくいくコツである。誰でもどこでも小規模集落営農法人はつくれる。地域農業の課題をあげたらきりはない。それを嘆くより、課題を少しでも解決するため、先ずは法人設立というスタート切るべきだ。さて、全国の有志諸君。「おじさんたちの、第二の青春を歩み出そうではないか。