第218回 | 2014.12.15

小規模な集落営農法人のつくり方 ~集落で株式会社を立ち上げよう~

今年の米価の下落は、農家の高齢化とあいまって、小規模な稲作農家の離農を促し、さらなる耕作放棄地の拡大を招くことになりそうだ。集落において、先祖代々受け継いできた優良農地が荒れ地に変わり、カメムシなどのすみかになっていく風景を見るのは何ともつらい。意識の高い農家であれば、こうした流れに何とか歯止めをかけられないだろうかと考えるのは当然である。その答えの一つは、新たな担い手として集落営農法人を立ち上げ、ここに農地を集積し、集落の農地保全と稲作の継承をめざすことだ。しかし、集落の多くは、法人立ち上げのノウハウがないため、行動を起こせずにいるのが実情だと思う。

私は神奈川県の指導事業で、これまで2つの集落営農法人の立ち上げを支援してきた。加えて、自分の集落では、(株)おだわら清流の郷という集落営農法人を、自ら出資するかたちで立ち上げた経緯がある。本日は、これらの経験を踏まえ、小規模な集落営農法人の設立・運営に関わる実践的なノウハウを紹介してみたい。

まず、集落営農法人に限らず、会社を立ち上げるためには、全てのメンバーが設立理念の共有化を図る必要がある。なぜ、会社を作るのか、何のための会社なのか。時代が変わっても、未来永劫にぶれのない理念を打ち立てるこが非常に重要である。(株)おだわら清流の郷では、「100年経っても地域を守る担い手を創る」を理念に掲げた。現在のメンバーが死んでも、次の世代、またその次の世代の人々が、この会社と仕組みを引き継ぐことで、地域の農業と美しい農村風景を守るような会社にしたいと考えた。そのために、仮に自ら農業が出来なくなった場合、メンバー全員がこの会社にすべての農地を引き渡すという覚悟を決めた。

次に決めなければならないのが組織形態である。農業生産法人の場合、実質的に、株式会社か農事組合法人のどちらかの組織形態を選択することになる。結論から言うと、株式会社を選択した方がよいというのが私の持論である。農事組合法人は、組合員の協働による利益の確保が目的であり、会社の経営方針は合議制によって決まることになる。また主要な組合員が離脱したり死亡したりすると、協働意欲が薄れ、たちまち組織自体が解散するこ可能性も高い。一方、株式会社は、社長がトップの役員体制をとれることから、柔軟かつ迅速な意思決定ができるし、社長が離脱しても次の者が会社を引き継ぐことができる。

また、農事組合法人が平等主義を原則とした農家だけの組織であるのに対し、株式会社は1人の出資者がより多くの出資金を出すことも出来るし、非農家や企業も出資者になれる。特に非農家や企業も出資出来るというメリットは大きく、メンバーに元営業マンと言った人材を加えることもできるし、小売・卸など販売を担うパートナーを出資者として加えることもできる。現在JA解体論がとりざたされているが、組合法人という形態自体が、今の時代にそぐわないのではないかと思う。株式会社を選択し、一般の企業と同様の仕組み・発想で経営してこそ、斬新な農業経営を実現できるものと考える。

次に、会社の資本金額や出資割合について考える必要がある。法律的には、株式会社の場合、資本金は1円でもかまわない。しかし会社を立ち上げる以上、それ相応の資本が欲しいところだ。例えば、精米機・選別機・冷蔵庫という3点セットのミニライスセンターを整備出来る金額以上を、資本金額とする考えが適切である。法人化により、経営面積は当然拡大することから、それを見越した設備投資が必要になる。田植え機やコンバインなどはメンバーが持ち寄るとして、必要最低限の施設・機械は資本金で賄うという考え方である。3点セットは中古品で十分であり、経営規模などによっては300万円程度で足りるだろう。したがって、5名で均等割すれば1人当たりの出資金は60万円になる。また1人が200万円出すと言うならば、残りの4名が25万円ずつ出せばよい。さらに、メンバーの誰かが十分な施設・機械を持っていて設備投資の必要がない場合は、出資金は1人10万円でもよいことになる。

当面、金融機関からの借入はせず、資金がどうしても必要な場合はメンバーから集めた方がよい。もし経営が破綻した場合、借入さえなければ最初の出資金だけ諦めればよい。一方、多くの借入金があって倒産し場合、その分だけ借入保証に立った社長に債務がのしかかることになる。将来的には借入を起こし、大型の設備投資をすることも必要であろう。しかしその前に、会社経営をしっかり軌道に乗せ、経営ノウハウを習得することが大切である。集落営農法人を立ち上げようという人達の多くは、会社経営のしろうとであろう。最初は無理せず、小さくはじめて、少しずつ前進・拡大していくことをお勧めする。

次に、会社が保有すべき農地についての見解を述べる。よく勘違いするのは、メンバーが所有する農地は、全て会社に貸し出す必要があるのではないかという点だ。こうした方法もあるが、メンバーは必ずしも全てを会社に委ねる必要はない。例えばあるメンバーが3町歩の農地を持っている場合、1町歩のみを利用権を設定して会社に預け、残り2町歩は自分で耕作することもできる。この場合、そのメンバーは、会社が保有する農地の作業を行う一方で、別途自分の農地の農作業を行うことになる。会社の農地での作業分は会社から賃金をもらい、自分で作った分はそのまま自分の収入にすればよい。

会社が行う農作業については、利用権を設定した農地を管理・耕作・販売する方法と、作業を受託する方法がある。これだけ米価が下落している中で、自ら作って自ら売っても利益が見込めないばかりか、赤字になってしまうこともあろう。そこで、自社耕作5町歩、作業受託10町歩などといった構成で、自社耕作する農地は条件がよい農地を集積して効率的な作業を行い、その他の農地は作業受託方式を採用した方が現実的である。作業受託の料金は、JAなどに料金表があるので参考にして設定すればよい。また、耕作放棄地の拡大に伴い、いわゆる単なる管理=「草刈り」の需要が高まることになり、こうした作業受託も会社の重要な収入源となる。

メンバーは、会社の出資者=取締役=従業員となる。経営が軌道に乗るまでは、役員報酬はなしで頑張るしかない。一方、農作業・精米・袋詰め・運搬・販売など従事した作業に対しては、1時間1,000円など時給を決めて、会社が各メンバーへ賃金を支払うようにしたい。会社に現金がない場合、メンバーは、売上代金が入ってくるまで、会社への貸付というかたちで我慢するしかない。また、メンバー個人が所有するコンバインなどを会社で使うケースも多いだろう。本来は会社への貸付料金を設定したいが、当面は無償貸与というかたちをとらざるを得ない。一方、メンバーが、会社の精米機・選別機を自分のために使う場合は、会社に利用料を支払う必要がある。こうしたルールや料金体系などは、予め定め、しっかり帳簿をつけていくようにしたい。

このように、最初はボランティア的な活動から始める必要があり、会社としての体裁が整うまでは少なくとも2~3年はかかるという覚悟は持つべきである。やかて、会社がある程度体裁を整えてくると、稲作+野菜の周年型の営農体系の構築や、有利販売先の確保、パートタイマーの雇用などといった取組課題が浮上してくる。しかし焦る必要はない。集まったメンバーが、それぞれ知恵を出し合い、汗をかきながら一歩ずつ進めばよい。大きな借金を抱えない限り、命を取られることなどない。先ずは力を抜いて楽しみながら、しかしまじめに、身の丈のことを実践してゆけば、必ず道は開ける。なぜなら、集落営農法人を立ち上げ運営することは、時代の要請であり、社会的正義であるからだ。きっと稲荷神社の神様の、篤いご加護があることだろう。