第37回 | 2011.02.28

家庭から日本の農業を変えよう! ~真の消費者力とは~

去る2月20日の日曜日、横浜の神奈川県民ホールで、消費者力アップ!食の安全講座「みんなでつくろう!食の安全・安心~キッチンからはじめる食のアクション~」と題したフォーラムを開催した。このフォーラムは、神奈川県からの委託事業で、流研が企画から当日の運営まで手がけたものだ。400名の定員に対し600名以上の応募があったほどの盛況ぶりであったが、流研のプライドをかけ、担当スタッフは不眠不休の準備を重ねてきた。当日の司会は地元のラジオパーソナリティの川崎りえさんにお願いした。とてもチャーミングな方であり、また私たちの思いをよく理解して素晴らしい司会をして頂いた。第1部ではシャンソン歌手であり料理愛好家の平野レミさんの講演会、第2部では私の友人であり農産物流通の第一人者である山本謙治さんの講演会を行った。また、休憩を挟み、私の進行のもと、2人のゲストに加え生産者代表として石井政樹さんを迎え、パネルディスカッションを行った。

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平野レミさんの講演はとても楽しく、気さくで、わかりやすい内容で、爆笑の連続だった。自宅のキッチンや料理のスライドなどを披露しながら、主婦の視線から家庭における手作り料理の大切さを力説された。良い国産食材を使い真心を込めて手作り料理をつくることが、豊かな食生活と心身の健康につながり、家族はもとより友人など多くの人々を幸せにできるとおっしゃっていた。レミさんの話を聞いて、日本人は家庭料理を作らなくなり、外食や惣菜に頼るようになって、だんだん味覚音痴になっているのだと思った。家庭料理の味を知らず、防腐剤や添加物まみれの食品を食べて育った子どもは、当然味覚音痴の親になるし、食材・素材の価値やおいしさも分からなくなる。そして、そのまた子どもの味覚音痴が加速することも明らかである。
レミさんは常々、「10年後の家庭の食卓を考えてみて」と言われる。次世代に家庭の味・本当のおいしさを伝えることは、私たち親の責任である。パネルディスカッションでは、家庭でのスキンシップも大切だが「ベロシップ」はもっと大切という名言が聞かれた。これまで高い食文化を誇ってきた日本社会への警鐘を鳴らしつつ、今すぐにでも家庭でできることを教えて頂いた。私は改めて、深い知見を持った食の伝道師であるレミさんのファンになった。

続いて、いつ聞いても胸をすく「ヤマケン」さんの講演会で、会場の機運はさらに高まった。飼料米を食べさせて国産鶏の放し飼いで生産される1個100円の「こめたま」、お酢の本来の製造工程にこだわった1本2,500円の「富士酢」の話は圧巻だ。本当においしいものにこだわり続け、歯をくいしばって頑張っている生産者はたくさんいる。その価値を知らない、認めようとしないから社会のゆがみが起こると言う。一方、雪印乳業が消費者の非買運動により倒産してしまったことでも明らかなように、今最も力を持っているのは消費者である。「日本の食は安すぎる」、「安全にもおいしさにもコストがかかっており、安くていいものなんてありえない」、「安いものはどこかで手抜きをしなければできるはずがない」、そして「食品偽装などが相次ぐ責任の一端は、低価格納品を要請する小売業界、さらには低価格を志向する消費者にある」と、ヤマケン節が冴え渡った。
パネルディスカッションの中では、国民全員で食を通して国を守るスイスの話を聞いてしびれた。スイスは観光で飯を食べている国、観光資源となる美しい景観は農業があって農村があってはじめて成立する。だから国民は高くても国産農産物を買い支えている。消費が社会の仕組みの根幹をつくり、国を豊かにしていく。日本をそんな国に導くことがヤマケンさんの思いであり、私が追い求める夢でもある。

パネルディスカッションは、2人の絶妙な掛け合いに加え、農家代表である石井さんのコメントとが精彩を放った。石井さんは茅ヶ崎市でミニトマトを生産する専業農家。25歳という若さで地域においてトップ農家の地位を築きつつある。石井さんは、父親のミニトマトを朝市で売っていたらお客さんに農家に間違えられ、引くに引けなくなって就農したという経歴の持ち主だ。それ以来、朝市及び直売所への出荷に加え、地元の菓子メーカーやレストランなど、生産者の顔が見える販売方法をとっている。また、消費者から直接得た情報をもとに、年間を通して10品種以上のミニトマトを作り、味覚を重視して日夜新品種にもチャレンジしている。「『まずかった』でもいいから、消費者はどんどん感想・意見を言って欲しい。それが今後の農業経営に生きてくる」と言っていた。消費者の喜ぶ顔を大切に、一番おいしいミニトマトを生産して、直接届けたい。その真摯な姿勢にレミさんもヤマケンさんも関心しきりであった。

この度の消費者力アップ!食の安全講座の趣旨は、本来食の安全が問われる中で、消費者に安全な食を見極める力をつけてもらうというものである。しかし、農業・農村のコンサルタント会社である弊社が企画コンペで勝ち取った業務だ。イベント会社には絶対できないフォーラムにしたい、流研しかできない情報発信をしたいという熱い情熱のもと練り上げた内容だ。パネルディスカッションの終わりに、様々な思いを込めて私は以下のように締めくくった。

「消費者力」とは、単に安全か危険か、偽装かそうでないかを見極める力ではありません。真の消費者力とは、生産・製造・流通の過程とそこに情熱を燃やす人々の思いを知って、真の商品価値を見極める力を言うのです。そして真のおいしさを子どもたちに、次世代に伝えていく力を言うのです。価値を見極め、価値を伝え、それに見合った対価を払うことで、農家も製造業者も消費者も共に豊かになれる社会を実現できます。最も力がある消費者がこうした考え方を持ち、スーパーで、家庭で実践していくことで、現在価格優先になっている社会のひずみを直し、豊かで美しいこの国のかたちをつくることができます。今日ここに集まって頂いた皆様とともに、一人ひとりができることから実践しましょう。そして、先ずは神奈川県から、地域の食と農をこの場から変えていくためのアクションを起こしましょう。