第153回 | 2013.07.16

定年帰農者達の青春農業始動! ~株式会社おだわら清流の郷~

報告が遅くなったが、去る6月18日、私は神奈川県小田原市の郷土で、「株式会社おだわら清流の郷」という名の農業生産法人を設立した。発起人5名のうち私を含め4名は「釼持」姓であり、定年帰農者4名に加え、流通研究所も出資した。私が長年抱いていた構想が、ようやく動き出したと言える。

設立の直接のきっかけは、昨年小田原市で作成した「人・農地プラン」であった。ご存知のように、「人・農地プラン」は、担い手への農地集積計画を市町村単位でとりまとめるものである。我が郷土も、近年農家の高齢化が急速に進み、自ら管理耕作できない農地が急増している。これに対し、何名かの中核農家が農作業を請け負って来たが、中核農家自身も高齢化する中で、やがて限界に達することが予想される。「おだわら清流の郷」の経営理念にも掲げたように、「豊かで美しい郷土を守り育む」仕組みが求められていた。こうした背景を踏まえ、5名のおじさん達が高い志を持って、この会社を立ち上げるに至った。

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定款に記載した、この会社の事業目的は以下の通りである。
1.農産物の生産・販売に関する事業
2.農作業の受託に関する事業
3.農産物の貯蔵、運搬に関する事業
4.農産物を原材料とする漬物・惣菜等の製造・販売に関する事業
5.農業体験に関する事業
6.農園芸福祉に関する事業
7.農機具のリースに関する事業
8.苗木の生産・販売に関する事業
9.飲食業
10.市場調査分析業務並びに販売調査の情報提供サービス
11.前各号に附帯関連する一切の事業

内容については、メンバーと共にかなり練り込んだ。農業生産法人の事業目的として当り前の事項も多いが、特異な事項もいくつか存在する。例えば「3.農産物の貯蔵、運搬に関する事業」については、地域の農家が生産する農産物を庭先で集荷し、一元的に販売先へ輸送する事業を想定している。「6.農園芸福祉に関する事業」については、メンバーの一人が福祉施設に勤務していた経験を活かし、障害者などを受け入れ農作業に従事させる構想を持っている。「8.苗木の生産・販売に関する事業」は、作業が大変な苗づくりをこの会社で行い、地域の農家に供給しようというものである。なお、「10. 市場調査分析業務並びに販売調査の情報提供サービス」は、流通研究所が出資していることから、法的な義務として、流通研究所の定款に掲げられている事業目的の一つを記載した。

今年度は、農作業の受託を中心に、なるべくリスクが低く小さなことから始める方針である。メンバーはそれぞれ会社勤めの経験があることから、相応の経営感覚は持っているが、最初から大がかりなことはせず、足元を固めつつ段階的に事業を拡大していく。今年度の投資計画としては、高性能の米の選別機を購入することだ。生産した米は「金次郎米」のブランド名で、流通研究所が販売する方針である。加えて、あまり作られていない秋採りのじゃがいもや伝統的なたまねぎの栽培にもチャレンジして行きたい。

会社である限りは、しっかりした経営が求められるが、一方で遊び心を持った取組もして行きたい。メンバーが口を揃えて言っていることは、非農家の仲間づくりと地域コミュニティ活動である。会社を定年で辞めた人をはじめ、子育てが一段落した主婦など、地域には農業に関心を持っている住民はたくさん存在する。こうした人たちに声をかけ、農作業に従事させたい。当面賃金は払えそうもないから、対価が現物支給というルールで始める予定だ。既に何人か手をあげており、こうした取組はこの秋にも実現しそうだ。地域の人々が、農業を通して笑顔になり、仲間になり、新たな地域コミュニティの形成につながればと思う。

来年以降は、農産業受託面積に加え、利用権設定による農地面積の拡大、野菜・果樹など生産品目の拡大などを進めていく。その中で、最も力を入れたいのが、出資者の拡大と増資である。現在のメンバーは、100年経っても地域の農地・農業とコミュティを維持するための仕組みを作りたいという思いからこの会社を設立した。先ずは実績をつくり、少しでも多くの人々に共感してもらい、参加してもらって、次世代が受け継ぐような組織にしていきたい。

この会社は、さらにもう一つの将来構想がある。それは、6次産業化ファンドを受け、6次産業化事業体となることだ。おだわら清流の郷は、農家と民間会社である流通研究所の共同出資会社であり、かつ、流通研究所の出資割合は20%であり、6次産業化事業体としての要件を満たしている。その際、チャレンジする事業は、加工、交流機能を備えた直売所などを想定している。

このように次々と新しく面白い発想が浮かぶのは、メンバー全員が定年帰農者だからかもしれない。様々な仕事を体験し広く世間を見てきたメンバーは、農業・農村に新たな視点と可能性を見出すことができる。地域を守りたい、豊かで楽しい地域をつくりたい、そんな思いを乗せて、定年帰農者達の青春農業が始動した。