第75回 | 2011.12.05

学校給食は農業と市民をつなぐ懸け橋! ~米飯給食を推進しよう~

今年は、盟友の五穀豊穣の西居さんと、農林水産省平成23年度日本型食生活推進委託事業(次世代米消費育成事業)に取り組んでいる。私は検討委員会の委員とともに、モデル地区に選定された千葉県印西市のオーガナイザーを務めている。この事業は、学校給食における米飯給食の回数を増やし、日本型食生活を児童レベルから浸透させて行こうという狙いがある。去る12月1日に、千葉県印西市での地域結果発表会が、JA西印旛農産物直売所「とれたれ産直館」(流通研究所設計)内にある「食育キッチン」で開催された。この発表会では、印西市における米飯給食の推進方策を報告するとともに、「賛否両論」の笠原シェフと学校給食センターの栄養士の先生方との共同開発による、米飯給食の献立の発表会・試食会が開催された。

ninoken76-1

印西市は、千葉ニュータウンを中心に都市化が進む一方で、古い歴史を持つ農村地帯として、緩やかな丘陵に谷津田が広がる農住調和の未来型都市である。本埜・印旛との合併により、新市の人口は約91,000人となったが、都市開発が進む中で今後も人口の増加が見込まれ、併せて児童数も増加することが予想される。一方、温暖な気候と豊かな農地を背景に、米・野菜・果実など多様な品目が一年を通して生産されており、農業産出額は85億円を誇る。特に、本埜・印旛との合併により、米の作付面積は約2,600ha、収穫量は14,000トンと、県下でも有数の米どころとなった。

現在、印西市では、幼稚園1園、小学校20校、中学校9校で合計約8,000食の完全給食を実施している。うち29校に対しては、5つの給食センターが対応しており、自校給食は1校だけである。これまで学校給食における米飯給食の割合は、本埜地区で週3.2回、印旛地区では4.0回、印西地区では2.5回という状況であったことから、平成23年9月より印西地区でも週3.0回に学校給食で利用している年間約73トン(平成22年度実績)の米は、100%印西市産であり、JAをはじめとする市内業者と年間契約を締結し、給食センターへ一元的に供給するシステムが完成されている。

しかし、いずれの学校給食センターも老朽化していることに加え、今後増加する児童数に対して生産能力が不足することが懸念される。また、炊飯釜にも限界があり、現在概ね一週間フル稼働で、学校ごとに米飯の献立スケジュールを替えることで対応しているのが実状である。庁内においては、今後米飯給食の回数をさらに高めていくという基本合意は取れているが、その回数を高めていくためには、炊飯釜の増設、増設のための学校給食センターの増床が必須条件となる。現在、新設を含めた給食センターのあり方を総合的に見直すための検討に入っており、平成24年度には構想案をとりまとめる予定である。また、米飯給食の回数を引き上げるためには、調理員の派遣会社や配送会社との委託契約を見直しが必要であり、委託費の増加が伴う場合にあっては議会承認も必要となる。

米以外の農産物については、給食センターからの発注を受けてJAが生産者に連絡し、生産者がセンターに納品するシステムになっている。食材調達の基本方針は、先ずは市内で賄えるものは市内から調達する、市内で賄えない場合は、千葉県産を調達する、県内で賄えない場合は国産を調達するというものである。その結果、食材の総使用量に対する印西市産の使用割合は、平成22年度実績で36.2%と非常に高い水準を維持している。

しかし、品目別に見ると、印西市産の使用割合にはばらつきが見られ、特に、学校給食で多く利用される、じゃがいも・にんじん・たまねぎなどは、年間を通して一定の需要があるにも関わらず、使用割合は高いとは言えない。たまねぎなど市内で生産できるものでも、年間を通した生産・出荷体制ができていない状況にある。加工に手間のかかる野菜は、カットした状態での納品が主体だが、給食センターではカットなどの加工機能の不足により、現在はカット野菜業者などから市外産の農産物を調達するケースが多い。

給食センターでは、食育活動にも力を入れており、「今月の食べ物」という食材についての資料を各学校に配布した、栄養士が各学校をまわって、紙芝居やクイズなどを通して子どもたちに食の大切さを伝えている。また、保護者を対象とした「家庭教育学級」を給食センターで開催し、地産地消や食育についての啓発活動に取り組んでいる。

こうした現状・課題から、明確な実行時期は確約できないものの、委託契約の見直しと議会承認によって実現可能な取組として、概ね2~3年後に、米飯給食の回数を3.1回に引き上げることを中期目標として掲げる。また、センターの新設または施設の増床や炊飯釜の増設など、多額な予算措置が条件となる取組として、概ね5~10年後に、米飯給食の回数を3.5回に引き上げることを長期目標として掲げた。また、米の使用料は、児童数の増加と比例して拡大することになる。平成23年度市内小中学校生への供給食数は7,800食であるが、平成24年度は3%の児童数の増加が見込まれている。そこで、平成24年度の米の総使用量を現在の73トンから75トンに拡大させることを短期目標として掲げた。

一方、地産地消では、印西市産の使用比率・地産地消比率を引き上げることを推進目標に掲げた。主要品目については、現状たまねぎ0.9%、にんじん11.4%、じゃがいも16.5%である使用比率をいずれも中期で25%、将来的には50%まで引き上げることで、全体の利用割を現在36.2%から長期で39.9%、長期で46.2%としていくこととした。そのために、需要が多い品目を栽培する生産者を組織化し、出荷数量・時期・価格等を予め定めて生産・供給する契約的取引を導入することで、より安定した供給体制と生産者所得の拡大をしていく。主要産品については、保管・出荷調整機能を強化することで、周年を通した安定供給体制をつくる。給食センターの総合的な見直しに伴うカット機械などの導入を検討したり、冷蔵倉庫の設置などの導入について関係機関に働きかけるなどの実行方針を打ち出した。

また、市内産農産物の安全性の証明と保護者などへの食育活動を強化していく方針も確認された。市の農業への理解を深めてもらい、生産者の顔が見える食材を活用することが、風評被害の解消にもつながる。具体的には、保護者等を対象としたシンポジウムを開催することに加え、次年度以降パンフレットを作成して全戸に配布するなど、広報事業を強化することで、地域農業への理解向上や食育の推進を図っていく方針とした。

そして、共通課題となるのが「米飯に合う献立の開発」である。現在センター側の努力により米飯給食に対する児童の評価は高く残食も少ないが、今後さらに米飯給食の回数を増やすためには、食材費、作業工程などが限られ、栄養バランスへの配慮が条件の中で、米飯に合う更なる献立開発も課題となる。当日は、本事業で開発した「いわしの竜田揚げにんじんソース」、「豚肉と白菜、だいこん、長ねぎの治部煮風」、「小松菜と卵の炒めもの」について、笠原シェフと学校センターの栄養士の先生による調理実習並びに参加者全員による試食会が開催された。さすがのプロの味で、地場の食材を活かしつつ、調理の手間・コストにも配慮した絶品に、参加者全員が舌鼓を打った。

ninoken76-2

ninoken76-3

欧米化が益々進み、有職主婦が増え、社会構造が変化する中にあって、食の多様化に対し異論を唱えるつもりはない。しかし、ろくに朝食を食べさせない家庭が減り、多くの児童が満足に箸を持つことさえ出来ない現状は、国民全体が日本人としてのアイデンティティを失いつつあることを意味するのではないか。この先どれほど国際化が進んでも、日本人の原点は農耕民族であり、米飯を中心とした和食文化が基本である。米飯を通して日本人は、農林水産資源の豊かさ、地域の大切さを知り、八百万の神々に感謝の気持ちを伝えてきた。

教育委員会の指導課長が「米飯給食は、農村と都市、農家と家庭をつなぎとめるための最後の砦だ」と言われていた。印西市の地域結果発表会を通し、米飯給食を推進する本当の意義が分かった。それは、日本人としてのアイデンティティと行動規範の維持にあるのだと。そして、おいしい米飯給食を食べて育った児童たちは、日本の農林水産業と食文化、そして地域の守り手に成長してくれることだろうと思った。