第238回 | 2015.05.25

好景気の追い風に乗れ! ~ 四半世紀ぶりの好景気をどう生かすか

日経新聞では連日、大手企業が最高益を更新したという記事が踊っている。株式市場も拡大しており、バブル期の水準を約25年ぶりに上回り、過去最高になったと言う。日銀の景気判断でも、個人消費が底堅く推移しており景気全体は緩やかな回復を続けているとしている。さらに、大手企業を対象としたアンケートでは、今年の夏のボーナスは昨年の1.7倍になるとの結果が出た。どうやら世の中の景気はさらに良くなるようだ。

私の世代は、バブルを経験した最後の世代と位置づけられる。30年も昔の話であるが、大学を卒業し上場企業に就職した時は、バブル後期の時代であった。月給の水準は今と大差はないが、ボーナスはたんまり出た。「花金」と言う言葉が浸透しており、金曜日になれば銀座や赤坂などに繰り出し、ボーナス一括払いのつけで朝まで飲んで騒いだものである。また、会社の交際費もふんだんにあったし、福利厚生施設も充実していて、天国のような世界だった。その時は、日本の経済は永遠に右肩あがりが続くものと誰もが思っていたし、今後の人生もバラ色だと信じていた。しかし、その後の顛末は周知のとおりである。

あれから四半世紀が経った現在、再び好景気を迎えようとしている。今後給与も上がっていくであろうし、株を持っている人たちは、大きな臨時収入を得ることになる。今は、バブルを経験したことのない世代が現役の主流をなしている。こうした現役層がどのような行動に出るのか興味深いところである。恐らく、バブル世代の方々のような、無駄な浪費はしないであろうし、浮かれることもないだろう。また経営者達も、四半世紀に渡り貫いてきたコスト削減政策を転換することもないだろうし、投資に対する慎重な姿勢を崩すこともないだろう。

先日の日経新聞では、ファミリーレストランにおけるメニュー単価が上昇しているという記事が出ていた。ファミリーレストランは、その名のとおり、家族で手軽に、比較的安価に食事ができる飲食形態を言う。しかしこの1~2年は、1,000円を超え内容が充実しているるメニューが多く登場し、いずれも好評を得ているそうだ。どうせ食べるのなら、多少高くてもおいしいものを食べたいと考える消費者が増えてきているのだと思う。

小売・飲食業界では、未だに低価格を売りにしている会社が多い。しかし、前々回のコラムで書いたように、スーパーのPB商品や牛丼チェーンなど、大量仕入・大量製造によって低価格を実現して、全国で同じ商品を販売するというビジネスモデルを選択した会社の業績は、振るわなくなっている。消費者は、本物志向と低価格志向とに二極分化が進んでいると言われて久しいが、好景気を背景に、消費者の「食」に対する考え方がさらに変化しつつあるように思う。

東京大学の中嶋先生は、「消費者は賢くなっている」と分析されている。バブル崩壊で痛い目に合った世代も、バブルを経験せず物心ついてからずっと倹約意識を持ち続けて来た世代も、生きてきた背景は異なっていても、無駄使いはしないという考え方は同じである。必要なものを必要なだけ買う。自分の価値観に合ったものを十分吟味して選択する。バブル期は、不必要なもの、高価なものを勢いに任せてどんどん購入した。この対極にあるのが現在の消費者であり、賢い消費者と命名される所以であろう。

さて、こうした状況下において、農業関係者にとってのチャンスは何であろう。米や野菜や果実の市況が上がるのだろうか。景気拡大に伴い物価自体が上がることが予想されることから、多少は市況は上がるだろう。しかし、基本的には需要と供給の関係で価格が決まること、人口減少と高齢化に伴い日本人の胃袋はむしろ縮小することなどを考え併せると、大きな期待は持てない。

そんな中で、一つ目のチャンスは、ブランド化が進みやすくなる点であろう。全国ブランドに加え、地域ブランド、さらには生産者ブランドなども売りやすい環境にあると言えよう。好景気を背景に、確かな品質を求める消費者や、オンリーワンの商品を発見し、その商品を選択する消費者がさらに増えるものと考えられる。こうした消費者層は、多少価格が高くても、自分で価値を見出した商品を買い続けるという消費行動をとる。流通研究所が取り組んでいる「金次郎野菜」にも、既にその傾向を見てとれる。

ブランド化を成功させるためには、様々な戦略が考えられるが、中でもブランド志向を持つ消費者とのコミュニケーション・ポイントをいかに作っていくかが、一つのポイントとなろう。拡大する潜在的な購入層を発見し、その購入層に対して適切な販売促進活動を展開することが重要である。同じスーパーのチェーン店でも、立地によって購入層が大幅に異なることが分かっている。したがって、パートナーとするべきスーパーを選ぶだけでなく、ターゲットとする店舗を選ぶという戦術が必要である。ブランド商品の販売強化をめざす上では、スーパーとの交渉段階からどの店舗を対象に、マネキンなどの販促活動を行うのかを明確にするなど、きめ細かいマーケティング手法が求められる。

二つ目のチャンスは、新たな特産品開発が進みやすくなる点である。昨年、果実部門では、皮まで食べられる「シャインマスカット」が空前のヒット商品になった。これを受け、山梨県・長野県をはじめ、果実の大型産地は増産体制の整備を急ピッチで進めている。野菜部門では、引き続き「スナップえんどう」が絶好調であり、鹿児島をはじめとした主要産地では「スナップえんどう」への生産シフトが進んでいる。この度の好景気などが追い風になって、新しい特産品を積極的に購入して行こうという消費者がさらに増えるものと考えられる。

「シャインマスカット」や「スナップえんどう」の様に、商品自体に優れた特性を持つことが前提になるだろうが、かつての「博多の万能ねぎ」の様に荷姿や食べ方提案など、様々な打ち出し方に対し、消費者が敏感に反応してくれるような時代が到来したと考えられる。これまで、作りにくさ、収量の低さなどの理由から、あまりヒットしなかった地域在来品種などの商品に対する需要も拡大するのではないかと考えられる。

飲食店業界においても、輸入ものではなく国産の食材を求める動きや、こだわりの食材を活用して行こうという動きが活発化している。こうした食材を使うことで、コストは上昇するが、景気拡大に伴いメニュー単価で吸収できるようになった。市販用だけでなく、業務用においても、新たな特産品の販路は拡大するものと考えられる。

若い世代の方々には、経験したことがないような好景気が、四半世紀ぶりに訪れようとしている。時代の流れを確実に捉え、浮かれることなく、しっかりした戦略眼を持って、この大きなチャンスを生かして頂きたい。