第245回 | 2015.07.21

女性パワーを農業に活かせ ~ 女性は農業経営の最高のパートナー ~

2014年度に実施した農林水産省の調査によれば、全農業従事者数227万人のうち、約50%にあたる114万人は女性であるという。肉体労働中心の農業は、男性の仕事というイメージが強いが、改めて、その半分を支えているのは女性であるという認識を持つべきだろう。私の親の時代は、農家の女性(お嫁さん)というと、あくまで裏方で、農村社会での地位も低かったように思う。農家女性の仕事は、農作業はもちろん、家事や育児、寄合の給仕など多岐に渡るが、農家女性の活躍に光があたるようなことは少なかったといえる。

農林水産省は、こうした状況を打破する目的で①社会、農業界での女性農業者の存在感を高める、②女性農業者自らの意識改革と経営力向上を促す、③若い女性の職業選択に女性農業者を加えることを目的に、2013年に「農業女子プロジェクト」を発足した。その結果、農業女子のメンバーは当初の37人から315人に増加した。また、協賛企業と協同で女性向けの農機具や作業着の開発するなど、「女子目線」の新たな商品やサービスを生み出す「個別プロジェクト」も成果をあげつつあるという。

数年前、若い女性にとって農業が一つのファションのように持てはやされた時期があり、私自身は嫌悪感を隠せなかった。農業とは、土と自然と戦う厳しい産業であり、長年たゆまぬ研鑚を積んではじめて成果を出しえる職人技である。農業で生計を立てるためには、少なくとも5年以上の時間がかかり、それまでの期間は飲まず食わずで歯をくいしばって頑張るしかない。甘い考えで農業に参入した若者達は、男女を問わず1年と持たずに尻尾をまいて逃げていったし、現在でもその風潮は残っている。しかし、農業の発展には女性の力が不可欠であると私は考えている。

身の回りの若手農家を見ると、お嫁さんをもらっても、そのお嫁さんが農業をやるとは限らず、むしろ会社員や公務員など異なる仕事を選択するケースの方が多いように思う。それ自体否定すべきことではないし、社会が成熟した現在、夫婦が異なる価値観、職業観を持ちながら共働きして家計を支えることは当たり前であると言える。しかし、お嫁さんが農業に参加しないと、農業経営はそれ以上発展しない可能性が高い。

一人で農業をやっていくことには限界がある。例えば、スーパーへの直販を中心に複数の露地野菜を栽培する経営形態を選択したとする。朝早くからいくつかの店舗へ配達に回り、自宅に帰ってくるのが10時過ぎ、それからほ場に出て日没まで農作業に汗を流す。夜は、夕食もそこそこに、翌日配達分の商品の選別・袋詰め作業に追われる。加えて農業資材の購入や、新規開拓先との交渉、さらには青年会などの会合への出席など、時間はいくらあっても足りない状況であろう。また、台風や長雨などの天候不順に見舞われれば、その対策へ多大な労力をつぎ込むことになる。

一人でこなし切れない作業をカバーするために、パートを雇用することも考えられるが、相応の経営規模と所得が確保できなければ賃金も払えない。そこで必要なのが、お嫁さんの力である。比較的軽い農作業を任せることは出来るし、選別・袋詰め作業や伝票の整理など、お願いできることはたくさんある。その結果、ほ場に立つ時間が長くなり、栽培技術に磨きをかけたり、規模を拡大することも出来る。最初は、お嫁さんの人件費を賄うほどの所得増加にはつながらなくても、役割分担を明確にして工夫を重ねることで、段階的に成果が出てくると思う。

お嫁さんが農業に参加するということは、単に仕事に余裕が出るという物理的なメリットだけではない。農業経営には多様な知恵と女性視点のアイデアが求められる。一人では思いつかないことでも、パートナーとなったお嫁さんの知恵やアイデアが、予想を超えて経営の発展に活かされるケースが多い。お嫁さんが経営に参加をすることで、ブランド化や6次産業化などに成功している農家も多い。その証拠に、全国的にも農業経営で成功している篤農家を見ると、その多くがお嫁さんを力強いパートナーと位置付け、女性としての潜在的な能力をフルに引き出してると言える。

お嫁さんが農業以外の仕事をして給料を稼いでくるから農業ができる。今の仕事を辞められたら食べていけなくなるという若手農家も多いだろう。それも現実であろうが、一生、お嫁さんに食べさせてもらうような生き方をしてよいのだろうか。それでも仕方がないと考えるのであれば、農業なんて辞めて転職した方がよい。なぜならそれは、男として恥ずかしい言い分だからだ。

先ずはお嫁さんと、とことん二人の人生設計と農業の経営将来ビジョンを話し合うことからお薦めする。そのためには、人生設計と経営ビジョンを男が描き切って、しっかりお嫁さんにプレゼンすることが重要である。考え方があいまいだと、お嫁さんは不安が先に立ってしまい、理解は得られないだろう。夢と信念と情熱があってはじめて人は動くし、お嫁さんも本気になって一緒に考えてくれるものである。

最初は夫婦別々の仕事を選択してもよいと思う。契機は妊娠・出産・子育ての時期に来るだろう。お嫁さんもこれまでどうりの仕事が出来なくなる可能性が高いし、二人のビジョンが三人のビジョンに、そして四人のビジョンになる。その時にこれまで温めていたものを、どのようにプレゼンするのかがポイントだ。単なる夢物語を語っても駄目である。夢には期限をつけなければならないし、夢を実現するための道筋を明らかにしなければならない。さらには、夢と道筋の中で、何をお嫁さんに担ってもらいたいのか、何を期待しているのかを明確にする必要がある。

私も中小企業の社長として、常に期限付きの夢とその道筋、社員個々の役割や育成方法について考え、短期・中期・長期の計画を練り直している。そのために、結構多忙な毎日ではあるが、出社前などにお決まりの喫茶店によって、20分程度考える時間を確保している。考えを手帳にしたため、その都度悩みながら、何度も何度も書き直す作業をかれこれ10年も続けている。特段私が偉い訳ではなく、企業のトップなら誰でもやっていることだ。農家は皆、経営者である。経営者である以上、企業のトップ全員がやっていることをやるのは当然だと言えないだろうか。

農業経営の発展のためには、女性の力が必要不可欠だ。新婚の若手農家は是非、お嫁さんと共に描く経営ビジョンを考えて頂きたい。また、まだお嫁さんをもらっていない若手農家は、女性を口説くための殺し文句を考えて欲しい。農家がもてないのではない。男として魅力がないからもてないのだ。女性の価値をしっかり認め、夢と信念と情熱を持って、パートナーとして不可欠な存在であることを熱く語る。これがもてる男の秘訣であり、女性の瞳をハートにする殺し文句である。