第78回 | 2011.12.26

大学の協働活動による農山漁村改革の新たな胎動! ~KAB研究会レポート⑤~

ninoken79
毎月最終金曜日の夜、流通研究所では神奈川型アグリビジネスのあり方を探ることを目的とした研究会(通称・KAB研)を定例開催しており、この度で5回目の開催となった。ゲスト講師に相模女子大学経営管理センターの本橋氏、並びに学生さん7名を招き、「相模女子大学が取り組む地域共同活動について」をテーマに講義を頂き、その後活発な意見交換とクリスマスパーティーを兼ねた交流会を開催した。また当日は、私の師匠の一人である千葉大学の斎藤先生、同大学院生の田谷君もゲストとして来て頂いた。

相模女子大は、学芸学部、人間社会学部、栄養科学部からなる大学であり、農業に関する学部・学科は存在しない。その中で、人間社会学部の社会マネジメント学科の学生が中心となり、平成20年度から農林水産省の「田舎で働きたい!」事業に取り組み、三重県熊野市、福島県元宮市に学生を送り込み、援農や地域活動などを実践した。この事業で女子大学が参加したのは初めてのケースであり、マスコミなどでも多く取り上げられた。

また平成21年度からは、「田舎で働きたい!」の継承事業である農林水産省の「広域連携共生・対流等対策事業」を活用し、地域協働活動に取り組んでいる。熊野市及び本宮市には、夏・冬の年2回定期的に学生が活動に参加するようになり、その他にも新潟県佐渡市、新潟県津南町、鳥取県境港市、長野県上田市、愛知県新城市など、全国に活動のフィールドを広げている。各地域での活動内容は、援農をはじめ、地域イベントでの農産物や地域特産品の販売支援、祭りへの参加、特産品の共同開発など様々である。無償のボランティア活動ではなく、それなりの対価をもらって活動している点が特徴と言える。さらに今年は、被災地での炊き出し支援ボランティアにも多数の学生が参加している。参加者は、全学生を対象に公募する方式をとっているが、毎年多数の応募があり、校風として定着しつつある。

毎年秋に、文化祭を兼ねて大学構内や駅前広場をフィールドに、「日本のくらし、再発見」をテーマとした、「地域物産展」を開催している。このイベントは、地域協働活動を行った地域の物産を学生たちが販売するというもので、毎回大盛況である。第4回目となる今年は「日本の食文化を見つめ直して、地域と被災地の未来を開こう」をキャッチフレーズに掲げ、岩手県大船渡市、宮城県大船渡市を始め13の地域の物産店を出店した。地域における認知度が高まったことに加え、販売にあたる学生達の「自分たちが携わって地域を心から応援しよう」という意気込みにより、すぐに完売してしまうそうだ。

私もこうした取組の概要は知っていたことから、今年のフードアクション・ニッポン・アワードでは、大いに推した。その甲斐もあって「食による地域再生プロジェクト~大学と地域の連携による地域物産品の販路拡大~」が製造・流通・システム部門の最優秀賞を受賞し、他の2つの取組も入賞した。この度改めて話を聞き、全国的に高い評価を受けて当然の取組であると確信した。フードアクション・ニッポン・アワードでは、「活動の継続性・普及性」が大きな選定基準となる。その意味で、4年間一貫した理念のもと活動を続け、毎年その活動が定着、拡大している相模女子大の取組は、まさに受賞にふさわしい内容である。

設立110周年を迎える相模女子大は、「見つめる人になる。見つける人になる」、「地域の未来を、女性ならではの着眼点で発想し、そして貢献して行く女性」を育成することを、スローガンとして掲げている。本橋氏が一通りの講義を行った後、7名の学生ひとり一人が自分の思いをプレゼンした。不慣れな場であったにも関わらず、純粋で情熱を秘めたそれぞれの言葉が心にしみた。活動の目的について本橋氏は、人間教育の一環であり、スローガンの具現化であると言う。こうした大学の理念・姿勢が、学生達を積極的な活動に導き、学生達を受け入れた地域で、その活動が感謝の気持ちをもって高く評価されている要因であると思った。また、「女の子だから受け入れられる」という地域も多いそうだ。確かに支援活動と言いながら、毎晩酒盛りをして大騒ぎするなど地域にひんしゅくを買っている不埒な学生も多いと聞く。女性だからこそ地域は安心して受け入れられるし、女性だからこそきめ細かな配慮や優しい発想ができることも多いのだろう。

「神奈川県の若手農家との提携は可能か」という質問に対し本橋氏は、「可能である。しかし先ずはお互いを知り、理解し合うことから始める必要がある」と語った。学生達は、それぞれの地域に入り込み、地域を知り、地域のファンになり、地域の一員として支援活動に取り組んでいく。心が通い合ってはじめて協働活動が実現する。こうしたプロセスと視点が、これまでの4年間の活動の基本となっている。この度のKAB研では、先ずはKABSメンバーと学生との交流からはじめ、将来的な協働活動を模索していこうということで話がまとまった。講義後の交流会が盛り上がったことは言うまでもない。

実は、私自身は、学生の援農活動や地域支援活動にはあまり興味はなかったし、気ままなボランティア活動に過ぎないと思っていた。しかし、この度の研究会を通して考え方が大きく変わった。厳しい環境の中、全国の農村や中山間地域、そして被災地の人々は、歯をくいしばって頑張っているが、自分たちだけで出来ることには限界がある。また自分達の自助努力を誰にも認めてもらえない現状は、地域の活力を低下させる要因になる。相模女子大の学生が訪れると、地域が明るくなり活気がみなぎるそうだ。全国の学生達が、地域を訪れ、地域を理解し、地域の人々と共に様々な協働活動に取り組むことは、地域にとって大きな励みになるだろうし、地域再生への足掛りにもなるだろう。「自分達にはかわいく元気な応援団がいる」、そんな気持ちを持てるだけで地域は、前を向いて歩いていこう、何かを変えていこうと思えるのではないだろうか。大学を核とした協働活動に、農山漁村の改革に向けて新たな胎動を感じた次第である。

今後の相模女子大の活動に大いに期待すると共に、地域協働活動に参加する学生達に大きなエールを送り続けていきたい。そして、近い将来、社会活動や経済活動の一環として、大学・学生がしっかり位置づけられるような仕組みができるよう、支援していきたいと考えた。