第288回 | 2016.07.04

地理的表示(GI)によるブランド化の条件
〜小規模産地の再生と地域の活性化に向けて〜

品質や社会的評価、特性が産地と結び付いている農産物や食品を、国がブランドとして保護する「地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度」が始まって約1年が経つ。現在、「夕張メロン」、「あおもりカシス」、「江戸崎かぼちゃ」、「但馬牛」、「鳥取砂丘らっきょう」、「八女伝統本玉露」など12品目が登録され、価格向上効果が現れるなどの成果が上がっている反面、消費者の認知度は低いなどの課題も見られる。地理的表示制度は、農産物などのブランド化手法としての期待は高く、全国で登録に向けた取組が活発化しつつある。先ずは、地理的表示保護制度について、その趣旨や登録に向けた要件などをおさらいしておこう。

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(GIマーク)

この制度は、産地と結び付いた品質を持つ産品を対象に、国のお墨付き(GIマーク)を得ることで、商品の差別化を図り、ブランド価値の維持・向上を図ることを狙いとしている。これまで、地域ブランドは、品質の統一化が図られず評価が低下したり、基準を満たさないものがその名称を使って販売されるなど、ブランドの管理面での課題が多かった。ブランド化の手法としては登録商標制度があるが、制度的に品質を担保できないことに加え、商標権侵害への対策や訴訟などを農林漁業者などが行うには限界があるなどの課題がみられた。地理的表示制度は、こうした課題解決のために作られた制度と言える。制度の概要は、以下のとおりである。

地域固有の気候風土や伝統製法などの明確な裏付けがある産品が対象であり、一定期間(概ね25年)生産が継続されていることが条件になっている。また、対象産品は、①農林水産物(食用)、②飲食料品、③政令指定農林水産物(観賞用の植物、工芸農作物、観賞用の魚、立木竹、真珠)、④政令指定加工品(飼料、漆、竹材、精油、木炭、木材、畳表、生糸、ただし、酒類、医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品は除く。)となっている。

地域の団体などが、生産地や品質などの基準とともに、登録申請し、農林水産大臣が審査の上、基準を満たすものに「地理的表示」及びGIマークの使用を認める。登録後は、登録を受けた団体が品質管理を主体的に行い、農林水産大臣が団体の品質管理体制をチェックする。不正使用があった場合は農林水産大臣が取り締まる。また、生産者は登録された団体へ加入することにより、「地理的表示」を使用できる。

類似した制度に特許庁所管の地域団体商標制度があるが、地理的表示保護制度は、不正使用などの対応は登録者ではなく国が行うこと、取り消されない限り権利が存続すること、品質基準を設けたこと、地域共有の財産となるため独占排他的な使用はできないことなどが異なる。現在、地理的表示法は、日本国内でしか効力を持たず海外では保護されないものの、今後は、各国と協定を結び、海外でも日本の地名ブランドが保護される仕組み作りを進める方針であるという。

登録のための審査基準をクリアするためにはいくつかのポイントがあり、申請書づくりにも多少の技術が必要である。かなり厳格な条件が課せられるため、申請を通すこと自体ハードルが高いようだ。しかし、例え申請が通らなくても、産品のブランド化や生産者所得の向上という目的性を踏まえ、申請に向けて産地・地域が取り組むことの意義は大きいと考える。その上で、私は、産地・地域が共通的に取り組むべきことは、「基準づくり」、「組織づくり」、「販路づくり」の3つであると考える。

「基準づくり」では、産地の範囲、品種、栽培・製造方法、出荷規格の4つを定義することが重要である。地理的表示は「地域名+産品名」として登録されることから、その産品を産する地域がどこまでなのか、行政区単位、集落単位、字単位などで地理的に特定する必要がある。品種については、地域在来品種であればわかりやすいが、現在市販されているような品種は他の地域でも生産できるため、基準をクリアしにくいという難しさがある。栽培・製造方法は、施肥設計や定植・収穫時期に至るまで統一基準を設けることが望ましい。さらに、出荷規格については、独自の等級を設け、粗悪品が出回らないよう自主規制する必要がある。通常のブランド条件と同様、高位平準化がキーワードとなると言えよう。

「組織づくり」では、組合員規約の厳格化、改組・拡大、組合員活動の活性化などが重要になる。組合員規約では、一般の組織規程に留まらず、組合員の要件や組合員が厳守すべき事項などを明記することが重要である。改組・拡大では、担い手育成の観点から若手生産者の参加や、農商工連携との観点から産品の加工業者や卸・小売業者などを准組合員として取り込むことを検討する必要がある。また、組合員活動では、品質管理のための目合わせ会の定例化や、PR・販促活動の共同開催など活動範囲を広げることも検討すべきであろう。ブランド力が強い産地は須く組織力が強く、ブランド力=組織力といっても過言ではない。

「販路づくり」では、単なる販売先の開拓ではなく、中長期的に共に取り組んでもらえるようなパートナーの選定、あるいは既存取引先とのパートナーシップの強化に重点を置くべきである。地域ブランドの創生・育成は、生産者と販売先との共同作業であり、生産者だけで出来るものではない。今後、地理的表示の登録をめざす産地は、ロットでは勝負できず販売力が弱い小規模産地が多いものと考えられるが、こうした弱点を補うためにも「取引」ではなく「取組」の姿勢を持続してもらえる販売先を選定する必要がある。

地理的表示登録制度は、主として小規模産地が取り組むブランド化手法に他ならない。そしてその目的は、生産所得の向上と産地の持続的拡大、さらにはその産品が地域の特産品となることによる交流人口の増加など、地域活性化にあるものと考える。今後も、国や県も積極的な支援策を講じてくるものと予想される。可能性のある地域は、前向きに同制度の活用を検討して頂きたい。