第61回 | 2011.08.22

地域農産物ブランドにチャレンジしよう! ~都市近郊型産地のメリットを活かせ~

近年、都市近郊型の産地において、市町が主体となって農産物ブランドをつくりあげていこうという動きが見られる。その目的は、概ね3つに整理できる。1つ目は、いわゆるシティーセールスで、地域で生産される農産物にブランドというフラッグを掲げることで、市町のイメージアップを図ろうというものである。2つ目は、地域の農業振興であり、有利販売を実現することで、農家所得の向上を図り、地域全体の生産力増強に結びつけることにある。3つ目は、地域住民の意識啓発と地産地消・食育の推進で、地域住民が地域の農産物・農業への理解を深めるとともに、市民が誇れる地場産品を創出しようとするものである。その多くの事例は、イメージキャラクターや認証シールをつくり、店頭などでの販売促進活動に活用している。

そもそも「ブランド」は何であろうか。「農林水産物・食品の地域ブランド化の推進に向けて」と題した報告書では、ブランドとは、①「もの」の価値(商品本体の価値:品質など)を備え、②他の商品・サービスと差別化することを意図した情報(名称、デザイン等)を付した商品・サービスであり、③①の「もの」の価値と②の情報の組み合わせに対し、消費者が良いイメージを抱き、信頼を置いているものと定義付けている。

では、「ブランド」となる要件の①「ものの価値を備えている」とはどういうことであろうか。ブランドのための第一の条件は、安全・安心はもちろん、食味、栄養、新鮮さなどの品質、それを実現するための希少価値、生産技術や流通技術などに、圧倒的な優位性があることである。ブランドとは最終的に消費者が価値を判断するものであるが、誰でもどこでも作れる農産物や優位性を明確に訴求できない加工品などをブランド化しようとしても難しい。よく「ブランド化にはイメージ戦略が大切」という話を聞くが、ものの価値があってはじめてイメージ戦略が生きるのであって、価値がないものをイメージさせても、持続的な価格形成を保証する産品にはならない。

要件の②「他の商品・サービスと差別化することを意図した情報を付した商品・サービス」とは、価値があるものでも、その価値を消費者に伝え切れなければ売れないという当たり前のことを言っている。しかし、適切な表示やパッケージデザイン、これに付随するマーケティング戦略など売り方を工夫することが、地域ではなかなかできない。また、これまでの全国の取組を見ると、共通シールやロゴを作っただけでブランドであると自己満足して、結果として売れない商品を地域直売所などで並べているに過ぎないといった例が少なくない。

要件の③の「消費者が良いイメージを抱き、信頼を置いているもの」とは、結果として、安定高値で持続的に売れるものづくりを意味する。そのためには、品質面で、消費者の信頼を裏切らないためのブランド管理が重要になる。また、安心ではなく、安全性が担保されていることは必須要件である。直売で生産者の顔が見えるから安心といった曖昧なものであってはならず、生産履歴も記帳されていないような農産物はブランドとしての資格はない。さらに、出荷者組織などにより、栽培方法や一定の品質が常に統制されていることも重要である。

農産物ブランドには、「夕張メロン」、「春日居のもも」、「徳谷の高糖度トマト」などのナショナルブランドと、地域ブランドがある。ナショナルブランドは全国の流通業者・消費者を対象にしたものであるのに対し、地域ブランドは、地域住民が価値を認め地域住民の優先購買に結びつけば、その目的を達成していることになる。都市近郊型の産地における地域農産物ブランドの取組について、いくつかのレベルごとに紹介しておく。

最も低いレベルが、地域で生産される産品は概ね何でもブランドと呼ぼうというもので、東京都世田谷区の「せたがやそだち」、神奈川県相模原市の「さがみはらのめぐみ」などが該当する。地域住民に対する地域農産物の認知向上という目的は達成できるが、出来たものは何でも認証する制度であることから、品質はばらばらで、中にはかなりひどいものまでブランド品として販売されることになる。結果として消費者の信頼は得られず、篤農家達から見放されることになる。世田谷区でも相模原市でも、こうした課題を踏まえ、認定要件を厳しくする方向に歩み始めている。

一方、千葉県松戸市では、より高いレベルを目指した認証制度をつくった。「みのりちゃん」ブランドは、「市内で生産された農産物の販路拡大及び安定供給を図り、効率的かつ安定的な農業経営基盤の強化に役立てるため、松戸産農産物の高付加価値化の推進を図る」ことを目的に掲げている。農業振興に目的を絞り込んだことから、かなりハードルが高い認証基準を設けている。認証のポイントは、有機質肥料や性フェロモン剤の使用など環境に配慮した農業を実施していること、認定農家及び認定農業団体に生産者を限定していること、品目は定めてないが「松戸市園芸品出荷組合連合会」の出荷規格に沿った農産物であることなどである。現在、エコファーマーや特栽認証を条件とするなど、認可条件をさらに厳しくしようという動きあるようだ。当初市では広く認証していきたいと思っていたが、現実は零細農家の切捨てになっているという。その一方、インショップなどでは高値取引が実現し、市場出荷においても価格下落時に優先的に取扱ってもらえるなどの効果を発揮しているようだ。

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(ホームページより)

横浜市では「はま菜ちゃん」ブランドを古くから展開しており、地産地消の一助となっている。「はま菜ちゃん」ブランドは、市内で安定的に生産される野菜26品目、果実4品目のみを認定対象としている。もう一つの特徴は、横浜農業協同組合野菜部、横浜丸中青果出荷組合連合会、三和横浜グリーン会など指定団体の構成員のみが認定対象となっている点である。生産・出荷指導、品質統制、安全管理ができる団体に所属しなければ、ブランド農産物は出来ないという考え方を持っているようだ。

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(ホームページより)

このように見ると、地域ブランドには、①自給的農家を含め全ての農家が潤う仕組みをつくるのか、それとも篤農家や担い手の育成につながる仕組みを目指すのか、②市民の目に触れやすく買いやすい仕組みをつくるのか、それとも市民が誇れる高品質の特産品として贈答に使えるような仕組みを目指すのかの2つの論点があることが分かる。仮にもブランドというからにはより厳しい認定基準があってしかるべきだが、市町の担当者としては、公益性という観点から誰でも参加できる仕組みをつくりたいところであろう。

地域の起爆剤として有効であると考えられる地域ブランドであるが、検討課題は山積みである。また、地域ブランドには、ナショナルブランドのような確立した見解がなく、地域の状況と目的性を踏まえた組み立てが必要である。今年も流通研究所では、いくつかの地域でこの難解なテーマに取り組んでいる。一定の成果が出た時点で、またこのコラムで紹介していきたい。