第281回 | 2016.05.09

地域特産品の発掘・PR手法を考える
~ 小田原セレクション2016 ~

連休前の話であるが、平成28年4月23日(土)の正午から、小田原地下街の「HaRuNe小田原うめまる広場」で「小田原セレクション2016」の最終選考会が開催され、私は昨年度に引き続き、特別選考員として参加させて頂いた。「小田原セレクション」とは、神奈川県小田原市地域に長く根付いてきた名産品・特産品はもちろんのこと、地元で愛されている商品の中で、小田原を連想させる「おすすめ品」を、市民に選考してもらい、地域内外に広くPRして、地域産業の活性化を図っていくことを目的とした事業である。今年の2月から約1か月半の期間で、推薦商品を募集し、市内外から多くの商品を推薦して頂いた中から、最終選考会において上位の商品が「小田原セレクション2016」に選定された。

二の釼が斬る第282号_写真①

昨年度は、友人へのおみやげにしたい、お世話になった人へ贈りたいと思う、「市民が選んだ小田原みやげ」をコンセプトに募集・選考を行い、33品の商品が選ばれた。一方、平成28年度は、女性の目線で、「この商品を食べてもらいたい」、「使ってもらいたい」と思うコンセプトで、『女性が選んだ小田原のおすすめ品』をテーマに募集した。その結果は、小田原市のホームページに掲載されているので参考にして頂きたい。

選定基準は、①小田原らしさ(地域性)、②オリジナリティの有無(独自性・主体性)、③安心・安全(信頼性)、④デザイン・機能・ネーミング等(市場性)、及び⑤向上心・クオリティ等(将来性)の5つである。公募による市内在住・在勤・在学(高校生を除く)の女性市民の一般選考員、メディア関係者、バイヤー、専門家などの特別選考員の合計約50名程度による投票形式の選考会であり、メディアへ公開するなどセミオープン形式で行われた。また、最終選考会の1週間前から、インターネットによる女性限定の事前投票を行い、この事前投票の結果による上位5商品については、最終選考会において加点される仕組みを採用した。

二の釼が斬る第282号_写真⑤

私の郷土である小田原市は、北条早雲により建国された土地で歴史が古く、足柄平野という当時の穀倉地帯を中心に、西に箱根山系、北は丹沢山系、南は相模灘に囲まれ、農林水産資源が極めて豊富な地域である。また、かまぼこやひものに代表される水産加工品、梅干しやお茶などの農産加工品に加え、和洋菓子の品揃えなども豊富である。古くから産業や交通の要衝であり、現在も箱根・伊豆という巨大な観光地の起点にあることから、老舗が非常に多く、地域特産品の宝庫であると言える。全国で特産品開発にかかわる仕事をさせて頂いているが、市民としての偏見もあるものの、これほど地域資源・地場産品に恵まれた地域はないだろうと自負している。

当日会場では70点以上の産品がノミネートされ展示された。小田原に長年在住する市民であれば、その7~8割は、一度は食べたことのある、あるいは購入したことがある産品ばかりだ。小田原には、それほど市民に認知度が高い産品が多いと言えよう。一方、地場の農林水産資源と伝統技術を組み合わせにより新たに開発された産品もいくつか見られた。この中から上位30点程度を目安に「小田原セレクション」を厳選して、その産品を、市と地域の産業界が一体となって内外にPRして行くことになる。

「小田原セレクション」とは、地場産品のブランド化の手法であり、効果的なPR手法であることに着目して頂きたい。私も、山梨県、三重県、富山県などでブランド選考委員を受けさせて頂いているが、いずれも学識経験者などを中心に選考委員会を設け、クローズド方式で対象品目を選定する。これに対し、「小田原セレクション」は、市民が選考委員であり、基本的にオープン方式である点が特徴である。この方式により、市民の地場産品への関心を高め、誇りを持って頂き、市民に率先して土産用に購入してもうこと、さらには営業マンとしての役割も果たしてもらうといった効果が期待できる。

今年の「小田原セレクション」は、「女性が選んだ」という点で工夫を重ねた。土産品の購入者の7~8割は女性であり、女性の感性が、どの産品を土産として選択するかを左右する。当日、会場での女性の選考委員達は真剣そのもので、メモをとりながら一つひとつの産品を吟味して、何度も会場内を行き来していた。私ももちろん、真剣に選考させて頂いたが、女性の選考委員達の真剣なまなざしや熟考する粘り強さには舌を巻いた。その姿を見ながら、こうした消費者が購入主体となって、ヒット商品を生みだしているのだな、などと考えた。

一見、派手で大掛かりに思えるこの仕組みは、とてもシンプルで経費もそれほどかからない。全国の地域で、地域産品の掘り起こしや特産品の新規開発、あるいは地場産品のブランド化などに取り組まれているが、この手法は大いに参考になると思う。小田原市のホームページでは、「小田原セレクション2016」の内容や工程、選ばれた産品などが詳細に掲載せれているので、一度検索されることをお勧めしたい。