第13回 | 2010.08.23

地域流通が変わる! ~南房総市の農業再生への挑戦~

南房総市は千葉県最南端に位置し、一年を通して温暖な気候に恵まれ、海の幸あり山の幸ありの、豊かな地域である。この地域において、農業再生に向けた新たな流通システムの構築に向けた挑戦が続けられている。私はこの地域に入って3年目、このシステム構築に向けた調査・研究を支援してきたが、今年度は実行段階に突入し、コンサルタントとして勝負の年を迎えることになる。これまで2ヵ年にわたり多様な調査を実施し、基本計画・実行計画を策定したことに加え、地産地消の促進に向けた市民啓発イベントや、地域飲食店等の地域産品の取扱拡大に向けた実証実験等を行ってきた。そして今年度は、中間支援事業者の流通拠点となる市場的な機能を持った施設の整備、生産情報と実需情報のマッチングに向けた一括受発注システムの導入、中間支援事業の育成と体制整備、さらには都市部実需者との継続的な直接取引に向けた実証実験等を行う。

全国の多くの地域で、農家の高齢化や価格低迷により、農業・農村の活力は低下傾向にある。その対策として、地産地消や都市部実需者等との直接取引に活路を見出そうとする動きが見られる。しかし、これらの仕組みづくりでネックとなるのは、誰が販路開拓を行い、生産者から農産物を集め、適切に物流し、代金決済まで手掛けるのかという点である。南房総市においても地域のJAがその役割の一端を担っているが、JAはロットと品質で勝負できる品目に限定して首都圏の有力市場に共同販売することが業務のメインになっている。したがって、ロットがまとまらない農産物、規格外の農産物は、JAの取扱対象とはならず、地域の直売所以外に販路はない。南房総市においても「富楽里(ふらり)」をはじめいくつかの直売所が存在するが、市内の全農家にとっては十分な販路とは言えない。一方、市内には多くの民宿・ホテル、飲食店やスーパーがあり、地域農産物の取扱意向はあっても地域内流通の仕組みがないため、地域で多様な農産物が生産されているにも関わらず地産地消は進んでいない。また、南房総市は首都圏から至近距離にあって、なばな、セロリ、ブロッコリー、さらにはレタスなど、12月から2月の冬場に良質な農産物を生産できる特異な産地であり、外食・中食などの実需者との直接取引成立の可能性が極めて高い。つまり、需要があって、それに対応できる潜在能力があっても、両者をマッチングさせる仕組みがなかったと言える。

そこで南房総市は、需要と供給をマッチングさせる中間支援機能が出来上がれば、多くの生産者の所得向上を実現でき、地域農業を再生することができると考えた。またの機会に詳述するが、どの地域でも地域農業の活性化のためには中間支援事業者の存在は必要になるものの、地域によってその役割を果たす組織像は異なる。すでに同様の機能を地域の有力な農業生産法人が担っている例も見られるし、JAや第3セクターが担うケースもあろう。南房総市においては、地域市場の再生という視点から、卸売機能を持った事業者がその役割を担うことが適切であると考える。既に有力な候補も存在するが、この秋、全体の枠組みを検証し確かな道筋をつけたうえで、中間支援事業者を決定することになる。

column11

この仕組みづくりにおいて、もう一つの課題は地域の生産体制の再構築にあると考える。南房総市において、この流通の仕組みに参加する生産者を確保・育成・組織化するのは容易ではない。多くの生産者はJAと直売所へ出荷しているが、高齢化が進む中で、それ以上の向上意欲を持つ者は多いとは言えない。また、新しいものは様子を見てから参加しようという田舎意識が強いことも課題となっている。そこで私は、明確な“玉”を見せて中核的な農家を中心に一本釣りする方法を考えている。明確な“玉”とは、首都圏における実需者との大型取引であり、一本釣りとは農家一軒一軒を回って、地域農業の再生という社会的意義を含めて参加を取り付けることを意味する。

地域農業の再生へ向けて、これから課題は山積みであるが、極めて優秀な南房総市の職員、そして地域のキーマン達と強力なタッグを組み、これまで皆で積上げてきた思いをかたちにしていきたい。