第280回 | 2016.04.25

地域活性化とは何か、主役は誰か?
~ 茂木町長古口達也氏講演会より ~

長年弊社が道の駅の開業に向けた支援業務に携わっている福島県国見町では、先般、「道の駅もてぎ」の管理運営会社である(株)もてぎプラザの社長であり、茂木町長である古口達也氏を講師に招いて講演会を開催した。「道の駅もてぎ」は栃木県第1号の道の駅に指定され、6次産業化をはじめ様々な先進的な取組を行い、平成26年度には全国モデル「道の駅」に指定されている。古口氏は第3セクターの社長としても、町長としても全国的に有名であり、その行政手腕はこれまで多くの行政関係者から注目され続けてきた。本日は、古口氏の講演の中から、特に私がうなった話をピックアップしてみたい。

古口氏は、何のために道の駅をつくるのかと、ストレートに問いかける。その答えは地域の活性化のためであると誰もが答えられるだろう。では、地域活性化とは何かと問い続ける。古口氏は、持論であるがと前置きした上で、地域活性化とは「お金を儲けること」であると断言された。お金を儲けて、道の駅に出荷する農家、出店・出品する商工業者、そこで働く従業員が豊かになって、管理運営会社が儲けたお金は地域に還元する。これが活性化であるというシンプルな考え方である。だから道の駅は儲からなければだめで、赤字運営は許されないという。

では、地域活性化の主人公は誰か。これについても古口氏は明快な回答をしている。道の駅は、官民の共同作業であるとか、民間活力の育成が重要という方が多い中で、古口氏は地域活性化の主人公は、行政職員であると断言している。行政職員が先導しハードもソフトもつくり、地域の人々に提案し、ついてきてもらうことが活性化を実現するための道筋であり、民間が育っていないから活性化しないなどと言うのは、行政職員の単なる責任逃れだと言われた。そのために、行政職員は誰よりも働いて当然であり、これまでのように、8時から5時までの勤務で土日は休みなどというゆるい仕事をすることは社会的に許されない。さらに、町民は常にお客様だという気持ちを持つべきで、役所に来られる方に「いらっしゃいませ」と言って当たり前だと語られた。

「道の駅もてぎ」では、施設管理という名目で2名の行政職員が常駐しており、道の駅の企画・運営業務の中核を担っている。当然土日は出勤で、町の就業規程など関係なく馬車馬のように働いている。常識から言えば、あまり褒められる話ではないのかもしれない。しかし、道の駅の目的は、農業振興、地域特産品の開発、交流の促進、地域防災、さらに地域雇用の確保などである。古口氏は、これらは全て行政の仕事であり、行政職員が責任を持って取り組むのが当たり前だと断言する。ついでに、「責任は職員、手柄は町長(笑)」と言われていた。

昨今、道の駅の管理運営は、指定管理者制度のもと、民間企業などに委ねる傾向が強い。古口氏は、民間運営では行政意向が反映されず、道の駅の目的は達成できないという考えである。また、第3セクター運営に対してアレルギーを持つ方々も多いようだが、第3セクターこそが行政機能を補完し、まちづくりの推進力となりえる組織であるという理念を持たれている。そのかわり、道の駅を企業化し、利用者ニーズに合わせて商品・サービスの高度化を進め、売上・利益をあげて地域を潤すことが条件で、それを実現するために、先ずは町職員が死にもの狂いで働かなければならないと力説された。

「経済なき道徳は寝言である。しかし、道徳なき経済は罪悪だ。」と古口氏は語る。道の駅は儲けなければならない。しかし、その目的は地域活性化であることから、儲けた金は町民に還元する。還元された町民は、先ずは町内で消費し、町内に住む子や孫のために活用する。儲けたお金を募金やボランティア活動にも使うことで、地域内の経済循環ができ、地域全体が潤うことになる。なお、道の駅もてぎは、開業当初から売上高10億円、地域雇用100名を数値目標に掲げてきた。昨年度の売上は9億5千万円、従業員数は103名であり、ほぼ達成している。数値目標を明らかにしないと経済行為にならないと言われていた。では、道の駅で儲けるためのポイントはどこにあるのか。古口氏は、その秘訣のいくつかを教えてくれた。

一つ目は、事業採算性を重視した組織機構である。「手づくりアイス」、「菌床しいたけ」、「バウム工房」など事業ごとにリーダーを決め、部署を設置して企画・運営すると共に、事業別の採算性管理を徹底的に行う。そして、伸びしろがあるものには更に投資し、3年やって駄目なものはきっぱりやめる。民間企業であれば当然の経営方針であるが、第3セクターとなると、なかなか決断できず、赤字を垂れ流し続けるケースが多いようだ。

二つ目は、従業員の育成・教育である。部門別リーダーによる朝礼は毎日行い、月に一回は社長が訓示することで、経営理念や行動指針を全社員に浸透させる。また、視察研修をはじめ、多様な研修制度を充実させ、自己啓発を促している。資生堂の社員を講師に呼んで、女性従業員を対象に「お化粧研修」を行った話は有名だ。古口氏の思想は全従業員に浸透し、誰もが実によく働く社風が出来上がっているようだ。

三つ目は、デザインの重視である。道の駅もてぎではオリジナルの加工品開発に力を入れており、これまで「おとめミルク」や「ゆず塩ラーメン」、「もてぎのえごま健康油」などヒット商品を生み続けてきた。商品化にあたっては、プロのデザイナーを入れ、かなり高額の委託料を払って、デザイン性に富んだパッケージを作成する。化粧品が売れるかどうかはその8割がデザインにかかっているそうだが、デザインには金も手間もかけなければならないというのが古口氏の考えである。

四つ目は、農家や商工業者との連携である。茂木町では地域循環型の仕組みづくりにも力を入れており、独自の有機堆肥を生産し、農家がこの堆肥を使って農産物を生産・出荷することで、農産物の付加価値を高めている。一方で、地域の農家へも本音で率直に語る。もう米はいらない、消費は一貫して減少しており、これ以上作ってもらっても売れない。一方、野菜はいくらでも売れる。水田を畑地に転換して、野菜をもっともっと作って出荷してくれと。また、地域の商工業者からも多様な産品を出荷してもらうと共に、出店もさせている。道の駅が出来たから経営がだめになったなどと言う商店は、所詮つぶれる運命にある。道の駅への出店・出品など、戦略転換を図るべきだと言われていた。

五つ目は、町民の支持である。道の駅もてぎの平日の利用者は、6割が13,000人の町民である(休祭日は4割)。道の駅の主な利用者はドライバーや観光客であろうと考える人が多いが、大方の道の駅は地域住民がリピーターになって支えているのが実状である。道の駅もてぎでは、町内の子どもを対象に年一回アイスクリームの無料券を配ったり、クリスマスには保育園児・幼稚園児に道の駅でつくったドーナツを配るなど、町民にメリットを感じてもらえるようなサービスを展開している。町民へのアンケートでは、町民が一番誇りに思っていることは、「道の駅もてぎ」であるという結果が出たそうだ。

まだまだ面白い裏話をたくさん聞いたが、ブログなどで公開できないことも多いので割愛する。古口氏は、とても話が上手で、ユーモアがあり、1時間の講演は爆笑が絶えなかった。しかし、まちづくりに対する情熱は半端ではない。地域活性化とは何か、地域活性化のために、誰が何をすべきかを教えて頂いた。また、1年後に開業を迎える国見町の職員や出荷者の方々にたくさん勇気を頂いた。さらに、道の駅の支援業務に携わる私個人としても、非常に重要なことをご教示頂いた。古口氏には、大変多忙な中で講演に来て頂いたことに心から感謝申し上げると共に、茂木町並びに道の駅もてぎの更なる発展に向けて大きなエールを送らせて頂きたい。