第227回 | 2015.03.02

地域創生のためのキーワード~課題解決型ではなく未来創造型を~

平成27年度の国の目玉政策の一つは、何と言っても「地方創生」である。その先進モデルである鹿児島の「やねだん」集落は、石破地方創生大臣と共にテレビで特集され、「限界集落株式会社」がドラマ化される中で、来年度はいわゆる「地方創生ブーム」が到来しそうだ。平成27年度は潤沢な予算がついており、現在全国の多くの市町村が、地方創生事業の採択要件である総合戦略の策定に着手している。

話はいきなり脱線するが、先日中小企業診断士の更新研修で、実に面白い講義を受けた。講師は(株)経営教育総合研究所の竹中亮先生で、講義のテーマは「中小企業におけるコミュニケーション・マネージメント」であった。この先生は、診断士の間では有名で、経済動向や企業の実態を見抜く分析力に優れ、バイタリティと人を惹き付ける話術を持った素晴らしい方である。その講義の中で先生は、「原因追究型会議の廃止」というお話をされた。原因追究型の会議は、閉鎖・否定・過去的議論になりやすく、発展性がない企業風土をつくる要因になることから思い切って廃止する。代わりに、改善案・解決法発見型の会議スタイルを採用する。ただし、原因追究は、経営トップとの間で共有するなど別な方法で行っておく必要があるというものだ。

自治体で各種の計画を立てる場合、必ず現状・課題とその原因分析から着手する。その手順は必ずしも間違いではないが、出来てくる計画の多くは課題解決型の内容となる。竹中先生のお話とは少し意味が違うが、多くの課題を抱える地方において、それを掘り下げてばかりいるから発展性がない、停滞感が漂うような地域風土をつくってしまうのではないかと考えた。地域の課題や原因などは誰もが分かっており、過疎化も高齢化も、耕作放棄地の拡大も止まらない。その作業に多大な時間と労力をかけても意味がないように思う。この度の地方創生に求められるのは、計画ではなく戦略である。そうである以上、課題解決型ではなく、未来創造型の戦略づくりを志向してはどうかと思う。

では、未来創造型の地域の戦略づくりはどのように進めるべきか。私は、「時勢の機会」を発見し、そこに「地域の強み」をとことん集中することが肝要であると考える。戦略を立てる際のポピュラーな手法はSWOT分析であろう。私の提案は、SWOTのうち、「脅威」と「弱み」は切り捨てて考えるということだ。なぜなら地方は、「脅威」と「弱み」ばかりであり、その分析に手間暇を掛けても、負の答えしか出てこないと考えるからだ。地方創生のためには、自治体の創意工夫やアイデアが重要だという。そのためには、だめなところに目を落とすのではなく、ドラえもんのように目を上空に向けて(ドラえもんは未来型ロボットとして、目が顔の上の方についているそうだ)、思考する必要があると思う。

未来創造型の地域の戦略づくりについては、もう1つの重要な視点がある。素晴らしいアイデアのもと奇抜な戦略ができても、その戦略を推進するための基本的な要件を満たさなくては、その実現性・持続性は期待できない。基本的な要件とは、「地域組織」、「自主財源」、「地域還元」、そして「拠点施設」の4つであると考える。前者の3つは弊社の土居顧問から教えてもらったことだ。これら4つの要件の具体的な内容は、事業領域や対象となるエリアによって様々であるが、ここでは地域創生活動の最小単位である「集落」を想定して考えてみたい。

「地域組織」とは、地域が共同で立ち上げる組織であり、地域創生を担うエンジンを意味する。一人では出来ないことでも、目的を持った地域組織をつくることで、やれることは無限に拡大する。「自主財源」の確保は、組織の自立のために必要不可欠な要件である。補助金がなくなって財源が枯渇したら組織は崩壊する。したがって、小さな取組であっても、収益を稼げるだけのビジネスを行う必要がある。「地域還元」とは、その組織が行う事業が地域に貢献することであり、又はその利益を地域のために投資することなどを意味する。これができない組織は、利潤追求型の企業と変わりなく、地域からの支持は得られないし、地域創生のエンジンにはなりにくい。また、「拠点施設」は、いわゆる「よりどころ」であり、組織の人々が集まり知恵を出し合い事業を実践する場所であることから、地域創生に向けた必須要件と言えよう。

しかし、「地域組織」をつくるためには、先ずは中心になるリーダーと、リーダーの右腕・左腕となるような人材を確保する必要がある。実は、こうした中核的人材を発掘・育成することが最も難しい。地域での人望が必要だし、起業スピリットに富んでいることに加え、気力も知力も担力も求められる。地域に人材がいない訳ではない。しかしこうした人物の多くは、会社の社長など、すでに既存組織でしかるべきポジションに就いている。

「自主財源」の確保のためのビジネスも容易ではない。ビジネスに失敗し、毎年約1万件の企業が倒産している。素人がビジネスに取り組んでも、「地域還元」まで実現できる可能性は低いだろう。さらに「拠点施設」を整備するためには、相応の金額が必要となるが、私財をなげうって施設をつくるような聖人はまずいないだろう。

地域創生のモデルとして「やねだん」が取り上げられる。しかし私は、「やねだん」のような組織・活動が他の地域で出来る確率はほぼゼロ%であって、事例として参考にならないと考える。誤解を招かないために申し上げておくが、決して「やねだん」を否定している訳ではないし、その活動については心から敬意を表する。しかし、「やねだん」は、豊重氏という圧倒的なカリスマが存在し、豊重氏個人の強力なリーダーシップによりつくりあげてきた組織である。他の地域で同じことができると思うことは、幻想に過ぎない。

では、どうしたらよいのか。私は行政主導型の、いわゆる「まちづくり会社」をつくることが最も現実的であると考えている。市町村の100%出資の第3セクター株式会社でもかまわない。市町村は、ビジネスは出来ないが、第3セクターをつくることで、行政機能を補完することができる。また、有能な人材を登用でき、行政支援のもと確実性が高く、かつ地域に貢献できる事業を展開することが出来る。そして、その拠点施設は市町村が整備し、第3セクターを指定管理者とすればよい。従来から行われてきた手法であるが、地方創生のための最も現実的な手法は、新たな「まちづくり会社」の設立、あるいは既存第3セクターの「まちづくり会社」として機能強化であると考える。

さらに言えば、その具体的なモデルは道の駅である。直売事業で多くの地域農家の所得向上を図り担い手を育成する。飲食・加工事業で地域の特産品を開発し、都市農村交流の仕組みをつくり、地域の6次産業化を推進する。さらには、多くの地域雇用を実現し、雇用者の中から次世代のリーダーを育成する。「やねだん」と同様の仕組みをつくるより、はるかに容易で実現性が高い。必要なのは、首長の英断だけだ。そして、このモデルこそ、課題解決型ではなく、未来創造型の地域創生手法であり、「地域組織」、「自主財源」、「地域還元」、そして「拠点施設」の4つの要件を満たす手法であると考える。

もちろん、地域によって描く戦略は様々であり、「道の駅‐まちづくり会社」モデルだけがその答えではない。しかし、地域創生を実現する鍵は、案外足元にあるような気がする。