第233回 | 2015.04.20

地域創生と農山村の活性化 ~ 地域組織は行政主導でつくれ! ~

平成27年度は、地域創生が全国自治体の目玉施策になることは間違いない。地方においては、「地域創生=農業の再生または農山村の活性化」というロジックで、戦略を組み立てているケースが多いようだ。農林水産省においてもこうした考え方のもと、省庁連携のもと政策を推し進めようとしている。しかし、果たして成果があがるのだろうか。過去30年間以上にわたり農山村の振興事業に多大な予算を投じて来たものの、十分な成果が上がったとは言えず、農山村の過疎化・高齢化に歯止めはかからない。

先ずは地方創生関連の農林水産省の政策を整理してみたい。昨年秋に公表された「地域創生に向けた施策の展開方向」では、農山村における過疎化・高齢化に対応するためには、住みよい生活環境を実現するための生活基盤の整備に加え、地域の共同活動を通した集落機能の維持・活性化が必要であるとしている。その上で、「農地・水保全管理支払」や「中山間地域等直接支払」など、ハード事業主体からソフト事業へと施策の重点をシフトさせつつ、地域の裁量や主体性を発揮しやすい交付金や、地域の共同活動を支援する直接支払の導入などを進めてきた結果、多面的機能の維持・発揮や地域全体のコミュニティ機能の維持などに効果が現れてきていると評価している。

その上で、今後は、農林水産業を魅力ある成長産業と位置付け、所得・雇用の確保、住みよい生活環境の構築、地域資源の維持・管理により、若者の移住・定住を実現することが必要であるとしている。そのための具体的な取組みとして、地域の将来ビジョンを作成すると共に、基幹集落への機能集約と集落間のネットワーク形成をめざし、計画的な施設整備や地域を担う組織インフラなどの整備を支援するという方向性を示している。農林水産物加工・販売施設等の拠点整備を迅速かつ円滑に実施する一方、組織インフラについては、民間団体やNPOなどを活用して、地域住民に必要なサービスを提供する組織づくりを促進するとしている。つまり、拠点施設と地域組織の両輪を整備を支援していくという結論である。

基本的な考えは正しいと思う。しかし全国200か所を超える実践的な支援活動と、私自身の地域での経験を通して思うことは、地域主体の組織をつくり実働を担わせることは極めて困難であるということだ。このスキームは、鹿児島の「やねだん」や大分の「イモリ谷集落」などをモデルとしているものと考えられるが、これらは稀有な成功事例であり、全国に普及できるモデルであるとは考えられない。その証拠に、こうした先進的な取組がこれまで何度もマスコミで紹介され、多くの教科書に記載されて来たにもかかわらず、後に続く事例はほとんど存在しない。

農山村では過疎化・高齢化が急速に進んでいる。加えて米価の下落によって集落の経済基盤は、さらにぼろぼろになっていくだろう。こうした状況の中で、老い先短い地域の高齢者達が、地域の明るい未来を展望するようなビジョンなど描けはしない。都市部から若者を呼べばよいなどと言うが、マスコミが報道するほど簡単なことではなく、見知らぬ田舎に行って活性化に一役買おうなどという若者は少ないし、いても浮かれ気分で力量がない者がほとんどである。そんな若者が地域に入っても何も出来ないし、地域の迷惑になるだけだ。地域で活動する若者の所得を補償する、地域おこし協力隊という制度は面白いと思う。しかし、金の切れ目が縁の切れ目であり、私が知る限り、地域おこし協力隊の任期が終了すると同時に地域から早々に逃げていく者が多く、定住する者はほとんどいない。

農山村において、地域住民が立ち上がり、組織をつくって拠点施設を運営し、活性化を進めるというシナリオは素晴らしいが、現実的には理想論に過ぎない。では、どうしたら地域創生を実現できるのか。私は、民間活力は脆弱な農山村にあっては、第2の公共組織としての第3セクターを行政主体でつくることが、最も確実で費用対効果が高いと考えている。農山村では、これまでも多くの第3セクターを設立してきたし、拠点施設の代表である道の駅の半分以上が第3セクターによって管理運営されているが、この方式が最も正しいというのが私の持論である。

第3セクターというと、「赤字垂れ流しの体質であり市町のお荷物になる」などと、幼稚なことを言う人が多い。赤か黒かなどだけで物をいう議員などは、政策を知らない人であって、そもそも議員になる資格などない。地域の産業振興を担う行政は、経済活動は出来ないが、株式会社方式の第3セクターなら地域政策を補完する経済活動ができる。経済活動を進めることで、地域に多くの雇用が生まれ、若者定住も進む。行政が支える第3セクターであれば、経済環境が厳しい中でもその組織は永遠に持続する。

一方、自治会やNPOなどの民間組織が地域の拠点施設を管理運営する場合、どのような問題が起こるだろうか。先ずは人間関係のもつれによる内部分裂である。強力なリーダーが健在のうちはよいが、ひとたびリーダーが引退でもしたら、組織はよりどころを失い、異なる意見が噴出し、メンバー各自が別々のことをやりだして、最後は組織崩壊という結果にもなりかねない。もう一つの問題は、資金の確保である。地域の住民たちがお金を出し合って組織をつくろうとしても、集まる資金はたかが知れているし、少額では大した経済活動は出来ない。また、地域で出し合ったお金を原資にすると、必ず後でつまらぬもめごとが起こる。私はこれまで、数多くのこうした事例を見てきたし、私自身のこれまでの地域活動でも痛い体験をしている。

現在支援している福島県国見町では、平成28年度中の開業をめざし、物販・飲食・コンビニ・研修(宿泊)・子育て支援などの複合機能を持った大規模な道の駅を整備している。その中でこの度、道の駅の管理運営を担う町100%出資の第3セクター株式会社と、道の駅への農産物・商工品の出荷などを担う地域組織である出荷組合の2つの組織を設立した。この第3セクターは、まちづくり会社と位置付け、道の駅を核に地域活性化のための事業を行っていく予定である。開業時は、正社員・臨時社員を合わせ、総勢70名以上を雇用する予定である。

出荷組合には、すでに150名あまりの会員登録が見込まれている。本部役員5名が決まり、今後は、米部会・野菜部会・果樹部会など品目別に7つの部会が設置され、今後各部会長・副部会長が人選されることになる。出荷規程も定まり、本年度は開業に向けた準備活動を実施する方針である。出荷組合は、全て地域住民によって構成される組織であり、行政主体の第3セクターと共に、地域を動かす両輪となる組織である。町100%出資の第3セクターを設立し、町長が不退転の決意で臨む姿勢を見せたからこそ、地域住民も積極的に動いたと言える。

東北大震災で被災した国見町は、今後完成する道の駅を復興のシンボルと位置付けている。そのシンボルを核として、官民がそれぞれの立場から組織を設立し、地域創生に向けて一丸となって取り組もうとしている。町長の熱い思いに、職員達が不眠不休で仕事に励んだ結果、ハードもソフトも目に見えるかたちで新たな地域の姿が具現化しつつある。国見町は、これからが本当の勝負どころであるが、必ずや成功するものと確信している。

地域創生のためには、拠点施設と地域組織が必要である。こうした考えのもと、農林水産省が政策を推し進めることに異論はなく、大賛成である。しかし、多くの農山村においては、地域住民主体の組織をつくらせることは無理であり、市町が主導して組織づくりを進めるべきであるというのが私の提案である。

そしてもう一つ提案がある。それは、既存の道の駅などの拠点施設と、それを管理運営する第3セクターの見直しである。道の駅の機能を見直し、地域創生に向けて6次産業化やあるいは地域住民への生活支援などの機能を付加することを検討する。第3セクターについては、増資・増員を含めて必要となる事業内容と事業量を拡大する。さらに必要に応じて、第3セクターが新たな支店を開設するという考え方で、市町内の既存施設の管理運営まで業務範囲を拡大する。新たな拠点施設を整備し新たな組織を設立するよりも、今ある施設や組織を地域創生の視点から有効活用するという考えの方が費用対効果は高まるものと考える。

地方創世という景気のよい言葉で国中が浮かれ気分にあるが、現実的には人口は確実かつ大幅に減るのだから、地方の農山村は消滅する危機にあることを認識するべきである。その中で生き残り、創生を実現できるのは、必然的に限られた地域となる。地方創生の実態は、農山村の生き残りをかけた全国大会のレースである。将来自分の地域が消滅する危険性が高い中にあって、行政が本気で動かないでどうするのか。「地域創生の主役は地域住民である」などともっともらしいことを言う前に、地域創生を仕掛ける責任者である首長と市町の職員は、腹をくくって取り組むことを考えて頂きたい。