第244回 | 2015.07.06

地域住民参加型の組織をつくれ! ~ 第1回くにみ市場の開催を通して ~

今年も道の駅の立ち上げ支援の仕事が多い。無限の可能性を持った地域活性化モデルである道の駅は、全国の自治体でその効果が実証されつつあり、地方創生ブームとあいまって、今後、建設のスピードが加速するように思う。

道の駅の事業を通して成果をあげるためには、2つの組織が必要である。その一つは道の駅の管理・運営を担う指定管理者であり、中山間地域においては現在も第3セクター方式をとる例が多い。もう一つは、農産物・地域特産品の出荷などを担う地域住民参加型組織である。道の駅では、この2つの組織が車の両輪であり、それぞれがその役割を果たしながら歩調を合わせて回転しないと、地域活性化という目的に向けた前進はない。

福島県国見町では現在、震災復興を旗印に、平成28年度中の開業をめざし県内最大級の道の駅を建設中である。昨年度は、指定管理者となる町100%出資の第3セクターと、地域住民約180名による出荷者組織を設立し、流通研究所はこれを支援してきた。今年度は、出荷者組織の育成・強化、並びに開業に向けた準備と課題検証を目的に、「くにみ市場」と命名したイベント販売事業を計6回実施する。その第1回が、7月4日(土)・5日(日)の両日、町内の「グリーンアリーナ923駐車場」で開催され、私も支援にかけつけた。

町長・出荷組合長のあいさつ、テープカットで始まった第1回の「くにみ市場」は、単なるイベントではなく、道の駅という町の命運をかけた大事業に向たキック・オフという位置づけにある。農産物の直売に加え、花卉の展示販売、市内商工業者による軽食店も複数出店した。心配された天気も何とか持ち直し、9時の開催に合わせ多くの町民が集まり活況を呈した。

当日は、テントを会場に設営して平台の陳列什器を新調し、POSを持ち込んだ実践さながらの直売事業を行った。出荷者は40名を超え、出荷点数も5,000点近く集まった。初物の地域特産品である桃をはじめ、30品目以上が出荷され、色とりどりの果実や野菜が売場を埋め尽くした。もともと桃と米中心の産地であることに加え、果実・野菜の生産量が少ない時期であったことから、当初は荷が集まらないのではないかと懸念されたが、予想を超えて充実した品揃えと数量を確保することが出来た。

私は、流通研究所の自主事業(「金次郎野菜プロジェクト」)を通して、青果物の目利きにはかなり自信を深めつつあるが、出荷された青果物の品質の良さには驚いた。桃はもちろん、プロの農家によるものだから言うに及ばないが、野菜類もすべて一定の水準をクリアしていた。例えば、最盛期を迎えているきゅうりは多くの出荷者が出荷したが、曲がったきゅうりを出荷する人は一人もいなかった。袋詰めや結束、数量などの荷姿や設定した価格も適切だった。細かな改善点を指摘すれば切りはないが、商品面では90点という高い評価を付けさせて頂いた。

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販売商品を通して、初めての取組となるこの直売事業に対する出荷者の心意気を感じた。また、多くの町民が訪れ、満面の笑顔でたくさんの地場産品を購入して頂いた。初日の売上高は30万円を超え、当初の計画の20万円を大きく上回った。特定の農産物の集荷量が多かったり、売れ筋商品が不足していたりと、いくつか課題は残ったが、第1回「くにみ市場」は、当初の目的を十分達成したといえよう。

この度開催した「くにみ市場」へ参加して、私は胸が熱くなった。震災から丸4年が経過したが、町内のあちこちに、いまだにその爪痕は残っている。この間、庁舎が瓦解したことから、町の職員達は臨時に文化センターの暗く狭いホールで震災復興のための激務をこなしてきた。この春やっと新庁舎が完成し、ようやく移転することになったが、その時の喜びは言葉では表せないほどだったと思う。そして来年度には、震災復興のシンボルとなる道の駅が完成する。老弱男女を問わず、町人全員が道の駅の完成を非常に楽しみにしている。幾多の悲しみと苦しみを克服し、国見町は今、明るい時代の到来を告げようとしている。

この町の行政職員達は、昼夜、平日・休日を問わず実によく働く。町長をトップに全職員が、町を再生したいという熱い思いを共有化している。その姿に町民も感銘し、町が行うことに対して極めて協力的で、官民の一体感的が非常に強い。「くにみ市場」は、こうした行政職員達と地域住民達との共同作業で始まった取組といえる。一緒に頑張っていこう。一緒に復興をめざそうという姿勢を、「くにみ市場」を通して感じとった。

大震災という悲劇を共有化したからこそ、この一体感が生まれたとも言えるだろう。しかし、行政職員達も地域住民も下を向いて何も始めていなかったら、今の国見町はない。先ずは行政職員達が歯をくいしばり、前を向いて力強く歩み出したからこそ、地域住民も前を向こうと思ったのだと思う。地域創生という言葉が流行っているが、私は、今の国見町こそが真の地域創生のモデルだと断言する。

道の駅に限らず、地域住民参加型組織をつくり、地域のエンジンとして育成することが、地域創生の必須要件となろう。しかしそれは、言葉でいうほど、簡単なことではない。行政トップのぶれないリーダーシップのもと、行政職員達が、意思と熱意と根気を持って取り組んではじめて成しえる大業であろう。

今回の第1回「くにみ市場」を皮切りに、国見町の官民一体となった活動はまだまだ続く。私もまた、共に地域創生をめざす同志の一人として、任された仕事に精力を注いでいきたい。また、国見町の仕事を通して、まだまだ分からないことが多い地域住民参加型組織の設立・育成に向けたノウハウを身に付け、全国に普及していきたいと思う。