第63回 | 2011.09.05

地域に農商工連携の仕掛人をつくれ! ~青森県農商工連携リーダー育成研修会より~

先週は青森県からの依頼で、八戸、青森、弘前の3都市において、「農業の取組課題と農商工連携の意義」というテーマで3日間の講演キャラバンを行った。青森県は周知の通り、りんご、にんにく、ながいも、にんじんなどの大産地であるが、全国に先駆けて農商工連携に着眼し、県が強力なリーダーシップをとって、地域の特長を生かした新産業の創造に取り組んでいる。これまで流研では、調査や計画づくり、現地の実践指導など様々な角度から青森県の取組を支援してきた経緯がある。この度のキャラバンは、農商工連携を仕掛ける地域リーダーを育成することを目的とした研修会であり、受講生は商工会やJAの指導員、地域県民局や市町村の担当者たちで、いずれの会場でも熱意を持って私の話を聞いて頂いた。

私の基調講演の後、それぞれ県内の事例紹介をして頂き、受講生に実践的な感覚をつけて頂けるようなプログラムになっていた。八戸市では、「琥珀にんにく加工品の製造・販売」と題し、田子かわむらアグリサービス有限会社の川村氏から報告があった。もとJA職員である川村氏は、その当時からにんにくの等級別の販路開拓に力を入れてきた。同社に移ってからは「利は地にあり」を信条に、八戸工業大学と連携してにんにくの低温殺菌技術を開発し、琥珀色で臭いがなくアリルシステインなどの健康に有効な成分を多く含んだ「琥珀にんにく」を開発した。また、保存段階で品質が悪化して(芽が出てしまって)売り物にならないにんにくを活用し、食品市場向けにスライスやパウダーを製造・販売していることに加え、サプリメントや石鹸などの商品開発も進めている。元JA職員の川村氏の基本姿勢は、いかに地域農家の所得向上に寄与するかという点にあり、農商工連携を進める上で極めて重要になる「明確な理念」を感じとることができた。

青森市では「初の県産原料使用こんにゃくへの挑戦と“あおもり正直村”」と題し、株式会社福島屋の鎌田氏から報告があった。鎌田氏は、産地の北限は宮城県であるとの通説の中、県内農家に働きかけてこんにゃくを生産してもらい、県産原料にこだわった商品開発を実現している。さらに、県内原料にこだわった商品をつくる県内加工メーカーと連携し、県内のスーパーなどへ共同販売する「あおもり正直村」という事業協同組合を設立した。平成21年7社で設立した組合は、わずか2ヵ年で18社まで増え、取扱商品も65アイテムまで拡大し、今年は3,000万円以上の売上が期待できるという。今後はチルド・常温品だけでなく、県内原料を使った冷凍食品やアイスクリームまで取り扱う方針だ。鎌田氏は、農商工連携を成功させるためには、毎日売ることができる販路ありきの取組が大事である、県内産原料にこだわった商品戦略が必要であると強調されていた。私も全く同じ考えで、一過性のイベント販売を首都圏で行うのではなく、地域のスーパーなどと連携を取りながら、毎日確実に売っていくことを当面の販売戦略に据えるべきだと思う。また、農商工連携では、必然的にその地域でしか出来ないオリジナル商品をつくることができるが、大量仕入・大量販売を行う大手企業と対抗するためにも、中小企業にしかできないこだわりと機動性・独創性が重要になると思う。

そして弘前では「よもぎ・柏の葉・笹の葉の取組」と題し、有限会社まごころ農場の斉藤氏から報告があった。まごころ農場はカラフルなミニトマトを溶液栽培し、卸売業者を通して県内外のレストランなど300社を超える企業と直接取引を行っている。売上拡大に伴い1haまで施設規模を拡張し、法人化を図るとともに、ジュース・ピューレなどの加工事業にも着手した。卸売業者や販売先との出会いは全て、アグリEXPOであったという。近年は、弘前市周辺の大規模農家11名と共同出資した「津軽ファーマーズクラブ」を設立し、JRが運営する「Aファクトリー」内にアンテナショップを出店して、弘前市内のスーパーでも特設コーナーを設置するなど、共同販売事業にも取り組んでいる。さらに、遊休農地などを活用し、よもぎ・樫の葉・笹の葉などを地元の農家とともに大規模に栽培し、卸売業者を通して菓子の製造業者に販売するビジネスを始めている。6次産業化におけるポイントは、①生産・販売・経理をそれぞれ任せられる人材の確保・育成、②こだわりの素材・製法とラインアップ化を基本とした商品開発、③農産物と加工の組み合わせによるロスの低減、④良い原料の確保、であると言われていた。報告を聞いて、自力で全て行うのではなく、生産段階、流通段階において、信頼できる多くの仲間・ネットワークを地道につくってきたところに成功の秘訣があると思った。

事例紹介の後は、青森県商工労働部新産業創造課から、「農商工連携・6次産業化に活用できる支援施策」の報告があった。青森県では「あおもり食産業連携強化促進事業」、「マーケティング重視型冬の農業チャレンジ事業」、「あおもり元気企業チャレンジ助成事業」など、県独自の支援施策が非常に充実している。重点的な説明があった「地域資源活用基礎調査事業」は青森県が認定した198個の地域資源を活用し、事業化するための調査・研究・実証実験事業などを行う中小企業者などに対し、500万円を上限に1/2を補助するものである。また、「地域ぐるみ型農商工連携推進事業」は、基礎調査や需要開拓などの共同事業を行う市町村や商工団体を対象に、120万円以内で100%補助する事業である。さらに、県内6つの県民局の農林水産部には「農商工連携食産業づくり相談窓口」を設置しており、広く情報提供を行っていることに加え、個別相談体制をつくりあげている。

農商工連携による新産業の創造には、県知事自らが旗をふり、徹底的に取り組む姿勢が見て取れる。この事業を進めるために、新産業創造課という独立したセクションを設けていることを考えても、青森県の強い思いと不退転の決意を感じる。事例の報告者からもコメントがあったが、県内において近年急速に農商工連携が進んだ背景には、全て県の仕掛けがあるという。農業と商工業は、生産手段や経営手法が大きく異なることから、地域で一緒に暮らしていても、まったく別の人種であるといったイメージを持つ人が多く、お互いが歩み寄って情報交換や交流をしようというマインドは総じて希薄である。しかし、農業者はより安定した経営を実現するために、6次産業化を模索している一方で、商工業者も厳しい経済環境の中、第二の経営の柱となるような多角化を模索している。その地域全体を俯瞰し、連携による事業化の仮説を立て、両者をマッチングさせることができるのは行政マンであり、この仕事を仕掛けることは行政マン冥利に尽きると言えよう。

ただし、行政マンだけに任せていては事は成就しない。県・市町村の職員に加え、商工会やJAの職員など、現場の指導者が事業の本質や性格を理解し、農業者・商工業者という当事者に対し積極的にしつこく働きかけていく必要がある。その意味で、私がこの度呼ばれた「青森県農商工連携リーダー育成研修会」を開催する県の意向はよく分かる。県職員に加え、地域で多くのリーダーが育つことにより、農商工連携による事業化はさらに活発化するだろう。講師という立場だけでなく、受講生全員に対し、地域の課題解決や実践指導、あるいは首都圏における販路開拓などの面で、力強く支援していきたいと感じた。

農商工連携の認定を受けると、試作品開発や農産物の買取、市場調査や展示会出店などのソフト面の経費に対して上限2,500万円で2/3の補助が出る。おまけに、3年間据え置き、最長15年間の無担保・無利子の農業改良資金の融資制度を活用することができる。資金繰りの厳しい中小企業にとっては、よだれが出るような好条件である。認定に向けたハードルは高いが、青森県のように独自の支援策を講じている自治体はたくさんある。全国の商工業者は、県や商工会に相談の上、是非チャレンジして欲しい事業である。一方、農業者にとっても大きなチャンスであり、単に規格外農産物の供給に留まらず、生産の拡大や1.5次加工まで踏み込み、企業的な経営に転換するためのきっかけになると考える。さらに農業者は、6次産業化施策の中で、ハード面でも各種の補助事業を活用できる。農業は地域資源となる農産物生産のプロであるが販売は不得意、商工業者はそれぞれ多かれ少なかれ販路を持つが、大手に対抗するためには原料までこだわったオリジナルの商品づくりが必要である。双方が連携し様々な事業を複合的に有効活用することで、地域全体で新産業を生み出す事業スキームができるのではないかと考える。

現在、流通研究所では、神奈川県における新たなアグリビジネスの創造を目指したKABS(かながわアグリビジネスステーション)を核とした活動を推進中である。今年は研究段階であるが、流通研究所自らがこうした農商工連携事業を活用し、事業化を図る手法も検討中である。そのためにも、雇われ講師という立場だけでなく、全国に赴き第一線で活躍する方々と交流を持ち、情報の収集・分析に努めていきたい。“二の釼”は、全国どこでも飛んでいく。“熱意”と“若干の予算”があれば、是非とも声を掛けて頂きたい。