第151回 | 2013.07.02

地域づくりにおけるJAの役割 ~JAあいち知多中期経営計画より~

久し振りにJAあいち知多を訪問し、中北専務、大岩常務と意見交換する場を持てた。流通研究所は、JAあいち知多の中期経営計画や地域農業振興計画の策定に長年携わって来た経緯がある。全国のJAとお付き合いしているが、JAあいち知多は、全国でも屈指の優れたJAであることは間違いない。本日は、経営トップの経営思想を踏まえた、地域づくりにおけるJAの役割について話をしてみたい。

JAあいち知多の金融事業資産はこの5年間で1.5倍になっており、もうすぐ1兆円を突破する予定である。現在の正組合員数は約17,000人で減少傾向にあるが、准組合員数はもうすぐ5万人を突破する勢いで増加している。また、営農事業総利益は約120億円で、全国的にJA離れが進んでいる中で、取扱量は前年実績を維持し続けている。加えて、関連会社で大規模な複合型直売施設の「げんきの郷」や、各市町単位で直売施設や福祉施設を運営するなど、5市5町の発展に大きく寄与している。農協批判が高まる昨今、JAあいち知多は、地域に支持され、なくてはならない存在になっている。では、何がJAあいち知多の特長なのであろうか。

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1つ目のポイントは、5市5町ごとに設置されている「地域運営組合」である。組合員によって構成される地域運営組合は、地域ごとの課題や要望を吸い上げJAの経営に反映させるとともに、JAの経営方針を地域で実践する主体となっている。5市5町はそれぞれ営農状況も異なるし、農村の事情も全く違う。北部では都市開発が進む中、不動産+農業という経営形態の組合員が増加する反面、南部では過疎化・高齢化が進み耕作放棄地が拡大する傾向にある。地域運営組合は、こうした地域課題を把握し、JAと組合員が適切な対応策を講じ、地域を守り、発展させることを目的としている。

地域運営組合からの意見や要望は、常務以上の経営陣が直接対応する。大変手間がかかる作業であり、時には無理難題への対応など心労が絶えない仕事であるが、末端の組合員と経営トップの考えを共有化し、地域密着型の仕組みをつくる手法として効果をあげている。特に、農地の保全管理や用排水管理、農道管理などについては都市部も山間部も共通の地域課題が多い。農業を発展させることだけでなく、こうした課題に対応し、農村や地域社会を守ることがJAの大きな役割である。必要に応じてJA職員は、組合員と一緒に江ざらいもすれば草刈りもする。

JA批判を繰り返し、大規模農業法人や参入企業がJAにとって代わるべきと言っている人たちは、JAが農村や地域社会を守っている存在であることを知らない。大規模農業法人や参入企業は、利益の足しにもならない農村の保全活動などやらないし、地域を守る存在にはなりにくい。農業は産業である一方で、農村社会において地域住民の暮らしや社会を守る役割を果たしている。その証拠に、JAあいち知多のように、地域に愛され信頼されるJAは多くあっても、経済効率のみを追求する参入企業は地域に愛されないケースが多い。

2つ目のポイントは、支店単位での地域貢献活動や支援活動である。支店職員は組合員と共に、「農と食」を基軸とした様々な活動に参加している。その結果、組合員を核に、JAファンが拡大し、准組合員がどんどん増えることになる。こうした活動や地域での実績が財産となって、金融・共済の推進においても、自然と良好な結果を残すことになる。下手な推進活動をやるより地域活動をやる方が、よほど効率的に業績をあげられるという訳である。

また、中北専務は、個々の組合員を大切にし、それぞれの経営内容とニーズに合わせ、きめ細かな対応をとることが非常に大切だと語られた。離農者は今後も増加し、組合員も減少する。組合員だった父親とそれを引き継ぐ息子では、JAに対する温度差もある。しかし、今いる組合員を大切にすることで、息子も地域住民もJAファンになってもらえると言う。

第5次中期経営計画のタイトルは、「豊かな農・くらし・地域づくり」である。そして、その基本姿勢は、「組合員起点の事業展開とJA力の発揮により、組合員の信頼と期待に応える存在を目指す」である。また、重点課題としては、農業基盤の維持、組合員・利用者との結びつき強化、CS・ES向上活動の総仕上げ、の3つを掲げ、課題解決のための戦略方針や各部門計画へ展開している。過去数年間、こうした経営理念は一貫しており、全職員が共通認識のもと、それを具現化する活動を徹底してやってきたことが現在のJAあいち知多の躍進につながっている。

紙面の関係上、またの機会に紹介したいと思うが、JAあいち知多の営農事業は他の事例の追随を許さないほど高度である。第5次中期経営計画から、その取組を抜粋すると、「直接販売の拡充と生産誘導の実践」、「営農総合支援拠点としての営農センター機能の発揮」、「食の総合拠点機能の整備・拡充」などの計画内容が並ぶ。今後3カ年、市場外流通の推進はもとより、管内物流網の整備、量販店向けパッキングセンターの運用強化、弁当・惣菜の加工事業の拡充、農業アドバイザー(営農専門担当職員)機能の向上など、様々な事業にチャレンジしていく方針である。

両理事からの話を聞いて、JAが地域で果たすべき役割と、JAの発展に向けた道筋が理解できたような気がした。JAは営農、生活、金融、共済、開発、福祉と何でもできる地域密着型の総合商社だ。しかし、その経営基盤は、組合員を、農業を、そして地域を守り育む日々の活動によってしか築きあげることは出来ないし、ここにJAのミッションがある。このミッションを放棄するJAは、やがて社会に否定されることになるだろう。全国のJAは、あらためてJAあいち知多の取組を学習し、自らの経営に役立てて頂きたいと思った。