第162回 | 2013.10.01

地元企業参加型の小規模農業法人をつくろう ~農業法人の新たな姿~

先に農林水産省は、新たに設ける国家戦略特区で、企業が農業生産法人を通じて農地を所有する要件を緩める方針を固めた。法人への出資規制や法人役員に一定期間の農業従事を定めた規定を見直し、農業法人出資、50%以上も容認する方針である。

農地法に規定された農業生産法人の要件は、「組織形態要件」「事業要件」「構成員要件」「業務執行役員要件」の4つがある。特区以外の現行規制では、企業は1社当たり10%、複数社の合計で25%までしか農業生産法人に出資できない。今後は、合計で25%の規制は残すが、1社だけで25%まで出資できるようにする方針である。また、農商工連携促進法に基づき農業生産法人と企業が共同で作成した計画を国が認定すれば、企業は1社当たり50%未満まで出資できることになっている。今後、こうした政策を受け、企業出資型の農業法人が増加することが期待される。

(株)モスフードサービスは、有機農産物販売の野菜くらぶ(農業生産法人)と共同で2006年2月に農業生産法人「サングレイス」を設立した。サングレイスでは、群馬県昭和村と静岡県菊川市に農場を持ち、モスバーガー向けのトマトを栽培している。サングレイスにはモスフードサービスが61%を出資し、野菜くらぶと所属農家が株主となっているが、モスフードサービスの議決権は10%に抑えられている。

セブン&アイ・ホールディングスは、2008年8月、企業のCSR活動の一環として、食品リサイクルの向上と地域農業の活性化を目的に、農業生産法人「セブンファーム富里」を千葉県富里市に設立し、「環境循環型農業」を開始した。その後、農場面積や栽培品目、収穫量等を拡大し、設立2年目以降に事業の黒字化を達成している。また、全国各地における農業法人の新規設立や事業拡大、食品リサイクル網の整備等を一元管理する中核会社「株式会社セブンファーム」を2010年5月に立ち上げ、全国10ヶ所へ事業を拡大している。

このように、企業出資型の法人の事例はいくつか存在する。2つの事例はあまりに有名であるが、企業が単体で農業に参入するのではなく、農家を主役とし、出資というかたちで強固な連携を組み、成功している組織モデルとして今後の発展性が期待できる。

さて、本日は、全国的な大企業の話ではなく、地域単位で企業出資型の農業法人を作ってはどうかと言う提案である。地域でも、モスバーガーやイトーヨーカ堂が取り組んだような方式は、有効ではないかと考える。過去に何度か紹介したが、今年6月に設立した(株)おだわら清流の郷には、(株)流通研究所も出資している。農家主体で設立した農業法人に対し、流通研究所が経営面で支援する反面、この法人で生産した優良米を流通研究所が有利販売するという連携体制をとっている。

個人経営や家族経営から脱却して法人化を目指したい、あるいは集落営農の法人化を実現したいと思う農家の方々は非常に多い。法人化すれば「農の雇用事業」など、様々な補助事業も活用できる。しかし、法人となると、雇用管理や財務管理・税務管理など、会社経営に関わるわずらわしい多くの作業が発生する。また、販路開拓や物流ルートの確立なども難しい取組課題となる。農家は総じて、経営や販売は苦手である。そこで、企業からの出資を仰ぎ、株主になってもらうことで、経営や販売を企業に支援してもらうことは有効であろう。

一方、企業側のメリットは何か。法的には議決権が10分の1に抑えられることから、経営の根幹に携わることはできないし、配当も期待できないだろう。いわゆるCSRの一環として、農業法人に出資し、地域農業の活性化の一助になるという考え方もあろうが、何らかの出資メリットがないと成立しないし、農地法上も農業関連事業に関与していることを企業出資の条件としている。地元企業は、建設・飲食・卸売・ITなど業種は問わないが、農業法人からの原料・食材の安定的・計画的な調達、資材・機材などの農業法人への提供、企業の定年者・早期退職者の農業法人での受入など、出資する目的は明らかにする必要があろう。しかし、農業法人に最初から多くのことを求めてもうまくいかないし、期待が大きすぎると決裂する恐れもある。企業の常識や一般的な手法は、必ずしも農家のそれにはあてはまらない。

ここで提案している地元企業出資型の農業法人とは、資本金100万円~500万円程度の小規模な会社をイメージしている。農家も企業も10万円ずつ出し合う程度のものであれば、設立は比較的容易である。最初は小さく始めて、軌道に乗った時点で増資を含めた規模拡大を考えればよい。経営である以上不退転の決意で臨む必要はあるが、精一杯やってみて、どうしてもダメだったら、傷が広がぬうちに解散して、出資金だけあきらめればよい。中長期経営計画を立てて、身の丈にあった経営、リスクの少ない経営からはじめ、ノウハウを蓄積しながら段階的に会社を大きくするという考えでよいと思う。また、農地法などの法規制はあるが、実際には企業側の人材が農業法人の経営に深く携わり、法人経営の一翼を担ってもよい。

会社をつくるにあたり、全ての出資者が、目的・理念・将来像を共有化することは必要不可欠である。農家と企業が共同で会社をつくる意義・目的を明らかにし、崇高な理念を掲げ、夢が持てる将来像を描いていく必要がある。農家だけでは出来ないこと、企業だけでは出来ないことが、それぞれのノウハウや英知を共同会社の中で結集することで、大きな夢を実現できるかもしれない。農地保全、担い手育成、産地化、6次化、有利販売など、様々な事業展開を考えることができるし、地域農業だけでなく、地域産業全体の活性化を担う中核的な組織を目指すことも考えられる。以下は、その概念図の一つである。

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地域農家の方々の周辺には、何人かの企業経営者が住んでいるはずである。また、企業の経営者も地域の多くの農家と知り合いだと思うし、自治活動などを一緒にやってきたり、幼馴染だったりしないだろうか。農家と企業で新たな会社をつくり、双方の夢を実現する。そんな視点で、双方で働きかけ、先ずは一献傾けてみてはどうか。