第100回 | 2012.06.18

原点回帰と新たな挑戦! パート2  ~それぞれの企業・団体が社会的使命を果たせ~

前号では、私の生まれ育ち暮らした旧曽比村の素晴らしさ、ここに私の原点と新たな挑戦に向けたよりどころがあることを綴った。「原点回帰と新たな挑戦」という言葉は、JAあいち知多のコンサルタントに携わっていた頃に、中期経営計画のテーマとして私がつけたもので、全てに共通する標語として、以来折りに触れて使っている。今回は、農産物の流通業界を構成するJA、市場、小売店の「原点回帰と新たな挑戦」について述べてみたい。

先ずはJAの原点とは何か。それは協同の精神にのっとり、組合員の所得と生活を保障し、地域の農業・農村の活性化に寄与することである。金融・共済・不動産・葬祭事業もこの目的のためにあり、ゆりかごから墓場までの総合的な事業を持つことがJAという、世界的に珍しい組織の特徴と言える。しかし、金融事業では銀行や信用組合があり、共済では保険会社があるように、個々の事業を見ると、民間企業が既に役割を担っており、専門やノウハウといった点を評価すると、社会の中でJAが必ずしも必要とされていない事業もある。経済事業の中でも購買事業はホームセンターや専門商社などが担いつつある。

では、JAしか出来ない事業とは何か。それは営農部門の指導事業と販売事業であろう。生産部会の活動を強化し、高位平準化して価格形成力のある産地をつくり、有利販売先を開拓して組合員の所得向上に努める。そして市場流通を含め、直接取引、直売等多様な販売に取り組み、組合員所得の最大化に努める。また、新規就農者の育成、農家の大規模化・法人化、参入企業との提携、さらにはこうした担い手への農地集積についてもJAの役割だと考える。小規模な農家や組合員数を維持することがJAの役割ではなく、地域の農業を守ることがJAの役割だからだ。

これがJAの原点であり、ここに力を入れないJAは社会的な存在価値を失うことになる。「農家の大規模化が進むとJA離れを起こす」、「農地集積は行政の仕事だ」、「組合員が減ると存立基盤が揺らぐ」などと言っていては、さらにJAは社会的な支持を失うことになろう。この原点を踏まえつつ、新品種導入による新たな産地形成、直接取引や直売、企業との連携によるJA出資型法人の設立、一般市民と農業・農村をつなぐための食育活動など、挑戦すべき領域は無限大である。

次に市場はどうか。日本が世界に誇る市場流通は現在、流通構造と時代の変化の中で制度疲労を起こしていると言える。産地市場も消費地市場も、荷がないから販売先が減少する、売り先がないから荷が集まらないという負のスパイラル現象に陥っている。周知のとおり、従来産地と市場は一連托生の関係にあったが、産地側に言わせてみれば、市場に持ち込んでも価格がつかないから見限っているとも言える。価格形成については個別の市場が頑張っても限界があり、業界全体での構造改革が求められる。しかし、どんなに市況が厳しかろうと、だいこん1本10円という値を付けられた篤農家は、市場をパートナーであると信じることはできないであろう。

産地の農産物の価格を下支えして産地を育成し、相対取引を含めて多様な実需者を開拓して適正な取引を維持することが、市場の役割であり、原点である。この役割を果たせない市場は、今後生き残ることは難しいだろう。今後、産地市場においては、産地との連携をさらに強化し、加工メーカーや飲食店チェーンを結ぶ中間事業者としての役割が求められる。また、消費地市場では、地域の飲食店や惣菜店などへの個別配送など、地域内流通の推進主体となることが求められる。商流機能、保管・出荷調整機能、物流機能など、市場にしかできない仕事はまだまだ多い。その特性を生かして、流通構造の変革する中で、生き残りをかけた挑戦が求められている。

最後に小売店はどうか。過去10年間、野菜の国内総消費量は横ばいであるにも関わらず、販売価格は一貫して低下している。その現況は、大手スーパーを中心とした、エブリディ・ロープライス戦略にある。おかげで消費者には、低価格が当たり前で、農産物価格が上がることは許せないといった考えが定着してしまった。天候不良で野菜の価格が高騰すると、家計が圧迫されるなどとマスコミも煽る。エステなどの美容、高価なブランド品、旅行などの娯楽に多額の金を使っている一方で、人の生命と健康を支える農産物や食品には金をかけることを許さない風潮が蔓延してしまった。

小売店は、農産物の価値を消費者に正しく伝え、適正価格で販売することが原点である。そして生産者も流通業者も小売店も、WIN、WIN、WINの関係を築いて行くことが社会に求められている。既にそのような原点に立ち返って取り組む小売店も増えている。また、近年は、大規模スーパーが衰退し、コンビ二や地場密着型の小型スーパーが拡大している。こうした店舗は安売りはしない。消費者の高齢化・核家族化が進み、人口減少社会に転じる中で、大量の低価格販売という考え方が時代に沿わなくなってきたと思う。もしかすると、小売店の原点である昔の八百屋が復活する日がくるのではと期待は膨らむ。

以上えらそうなことを書いてきた。では、「お前の会社はどうなんだ」という声が聞こえてきそうだ。流通研究所も常に、農業・農村専門のコンサルタント会社として、「原点回帰と新たな挑戦」を標語に掲げ取り組んでいる。顧客と真摯に向き合い、一つひとつの仕事に魂を込めて取り組み、地域の人々の夢をかたちにして行く。その原点は、私を始め、全てのスタッフに浸透していると自負している。課題は「新たな挑戦」であろう。

昨年度はKABS(かながわアグリビジネスステーション)を立ち上げ、県内の若手農家と共に、神奈川県ならではのアグリビスネスを創生しようという御旗のもと、研修・研究事業に取り組んだ。そして今年度は実証実験の実施、来年度は事業化を目指している。すでに実証実験に向けて補助金申請に取り組んだり、日々議論を重ねているが、結果として何も始動できていない。

新たな挑戦は、口で言うほど生易しいものではない。限りある経営資源をどこに投資し、何を生み出して行くのか、その答えは誰も教えてはくれない。しかし、時代の流れを後追いする企業ではなく、時代を切り開く企業でなくては、いずれ社会に否定されてしまうことになる。焦ることなく、でも確実に、新たな挑戦という階段を上って行きたいと思う。