第216回 | 2014.12.01

卸売市場トップが語る 2015 果実の市場動向 ~山梨県農産物ブランド化研究会より~

先般私は、山梨県の主催で開催された第2回山梨県ブランド化研修会に講師として招かれ、「農産物におけるブランド力強化の意義」について講演会を行った。ちなみに私は、2年前から「うんといい山梨さんプロジェクト」推進委員会の委員を務めさせて頂いている。このプロジェクトは、果樹のトップ産地である山梨県の産品をさらにブラッシュアップして、県・JA・生産者が一丸となってブランド力を高めて行こうという取組である。

基調講演において私は、主力品目のブランド化については、JAを核に組織力を強化し、京浜を中心とした大都市市場をターゲットに、有力市場とのパートナーシップを強化して、大量ロットの確保と品質の高位平準化により指定席を確保し続ける。一方、育成品目のブランド化については、「山梨」というアンブレラ・ブランドのもと、新たな販路の開拓も進めつつ、数量・品質の安定と生産組織の育成、地上戦・空中戦による効果的な販促活動を展開することを基本方針とするべきだという私見を申し上げた。また、ブランド力強化については「生産・出荷」、「販売・PR」が両輪であるという視点から、山梨県農業の課題とその対応策について述べた。

講演に続き、私のコーディネートのもと、東京青果の果実第1事業の福川部長、東京荏原青果の果実部の樋口取締役部長の2名をゲストにお招きして、意見交換会を開催した。卸売市場のトップ達の話しを早々聞ける訳ではなく、私としても非常に貴重なお話を伺う機会を得ることができたことを感謝している。

先ずは、今年度の果実商戦について2人にお伺いした。今年度は、種なしで皮ごと食べられるシャインマスカットが、予想をはるかに超えて売上を伸ばしたことが最大のトピックだったようだ。日本農業新聞が毎年1月に発表している期待度ライキングでは、果実部門の4年連続1位となっているが、今年度はさらに躍進し不動の地位を確立したようだ。山梨県でもシャインマスカットの生産に取り組んでいるが、先行する岡山県の強みはどこにあるのかとお尋ねしたところ、岡山は「紫苑(しえん)」という品種のぶどうをシャインとセットで出荷している点が最大の強みだと福川部長は回答された。売場において、種なしで皮ごと食べられる白と赤のぶどうのセット商品を販売できることが、他産地では真似ができない武器になっているという。

また、お話を頂いた今年度の動向の中で、非常に興味をもったのが、青森県のりんごの新しい販促方法についてだった。通常果実の販促では、スーパーにおけるマネキン販売が主流だ。その中で青森県は、カラオケチェーンや企業給食を対象とした販促活動を展開した。めったにカラオケに行かない私は知らなかったが、最近のカラオケボックスでは、フルーツの盛り合わせなどが利用者の定番商品となっているらしい。また、企業給食は、社員と言う特定のターゲットを対象に確実にPRでき、果実の新たな販路として期待できる。新たなマーケティング手法として、今後の動向に着目したい取組である。

次に、消費者ニーズを踏まえたスーパー向けの販売形態について話が及んだ。少子高齢化・格家族化が進む中で、消費者は少量パックの商品を求める傾向にある。これに対応し、いちごは従来の300gパックから250~270gに量目を変更する動きが見られるなど、産地側の対応も活発化している。今年度は、販売額ベースでミニトマトが大玉トマトの販売額を超えたが、これも消費者行動の変化を受けたトピックスの一つと言える。しかし、ネット通販は宅配では、必ずしも量目の減少という傾向は見られないという問題提起があった。現在拡大するこの販売形態では、相変わらず昔ながらのサイズで果実が流通しており、こうした現状をどうとらえるべきか分からないという。

一方、景気に左右されがちなギフト需要については、中長期的に見ると年々減少傾向にあるようだ。また、2㎏箱ではなく「もも6玉」など、キロ表示から玉数表示へ移行する傾向が見られる。さらに、大玉よりむしろ中玉、小玉が好まれるようになってきたという。出席者からは、こうした動向を踏まえ、出荷箱を従来の5㎏から4㎏箱に変えることも検討すべきかという質問があがった。一連の動向をどう読むかは難しいが、小分け・パッケージを小売店が行っていることから、出荷形態まで変えなくてもよいのではないかという回答であった。むしろ、流通コストの縮減や小売店側の産廃処分作業の軽減を図るため、出荷形態を現在の段ボールからリターナブルコンテナに変えることを検討して欲しいという話があった。

果実の輸出の可能性についても話が及んだ。現在国産果実の輸出額は約70億円であるが、その約8割は、台湾向けの青森産のりんごが占める。山梨県においても、ももの輸出に長年取り組んできたが、大きな進展は見られない。しかし、和食が世界遺産となり、日本の食文化全体が注目されるようになり、世界最高峰の生産技術を持つ果実もまた、この1~2年引合が活発化しているようだ。日本の食全体のブランド化が進む中で、輸出先もこれまでのように、台湾・香港だけでなく、中東やヨーロッパなどからのオファーがあるという。私は、こめや野菜の輸出は今後も苦戦する一方で、果実についてはまだ可能性を秘めていると考える。特に、輸送性が比較的高く、品種が多岐に富むぶどうは有望な品目として捉えている。

ブランドのあり方についても聞いてみた。全国ブランドとして成立させるためには、やはりロットと品質であるという意見だった。かつて山梨県では、最高峰の品質のものをロットを絞ってブランド認証する制度を導入していた。いわゆる、「幻の逸品」という考え方である。しかしこの制度は、流通量が非常に少ないために、一部の果実専門店のみでしか販売させず、認知が進まなかった経緯がある。相応のロットがあってはじめて、市場も小売店も本格的に取り組めるのであり、認知度も向上する。山梨県で新たに導入した「うんといい山梨さん」認証制度は、過去の失敗の反省の上で制度設計されたものである。

最後に、山梨県に対する期待・要望について尋ねた。2人の共通の要望は、周年を通して果実をリレー出荷できる産地づくりであった。短期的に見ると山梨県のももは、「白鳳」の出荷が7月末に終わり、8月中旬からは「浅間」へとスイッチされるが、その間僅か1週間から10日間、出荷量が手薄になる。この時期に安定供給できる品種を開発し、生産すべきだという。また、さくらんぼが始まる5月までは、出荷が途絶えることになる。この期間の果実となると、いちご、柑橘、りんごなどが考えられるが、当然気象条件などの制約があり、新品目を簡単に導入できるはずはない。「私達は、できれば1年中山梨の産品を扱いたいし、応援したい。そのためには、不可能と思われることにもチャレンジして欲しい」、両部長からはそんな厳しいエールが送られた。

これまで非常識だと考えられてきたことが、技術力の進歩やたゆまぬ努力により常識になりつつある。私達の子どもの頃は、ぶどうと言えば、種が入った小粒の「甲州ぶどう」だった。しかし時代は流れ、現在は種なしで皮ごと食べるシャインマスカットが開発され、大ヒットしている。消費が変わり、流通も大きく変わった。卸売市場トップが産地に語りたかったのは、現状に満足することなく、時代の変化に挑戦し続けることの重要性だったように思う。