第36回 | 2011.02.21

卸売市場への期待と今後の展望 ~市場再編の中の生き残り策~

市場法の改正と流通構造の変化の中で、卸売市場は今、大きな変革を迫られている。卸売市場は、需給調整機能、価格形成機能、物流機能、情報受発信機能、代金決済機能などを持っており、農産物の流通において必要不可欠な存在であり、国内経済の発展に大きく寄与してきた。しかし今後は、統廃合が急速に進むとともに、その役割や求められる姿が変わることになる。卸売市場には、いわゆる産地市場と消費地市場(及び中央市場と地方市場)が存在し、卸売業者と仲卸業者によって構成されている。それぞれ位置づけが異なることから、本来はそれぞれの生き残り戦略が求められる。しかし近年、卸・仲卸がお互いの領域に進出するなど、これまで存在した垣根は急速に消滅しつつあり、進むべきベクトルが概ね同じ方向を向きつつあるのが実状である。そこで今回は、これらを一括して卸売市場としてくくり、共通の取組課題を整理してみたい。

卸売市場が衰退する大きな要因として、売れないから荷が集まらない、荷が集まらないからさらに売れなくなるという負のスパイラル現象が挙げられる。これまで主要な顧客であった地域の八百屋は激減し、小売店や飲食店などのチェーン化に伴い産地との直接取引が進展するなど、マーケット自体が縮小しつつある。また産地もコスト削減と有利販売をめざし、流通経路の短絡化や市場外流通を志向するケースが増加している。こうした環境変化の中、市場間競争が激化していることに加え、物流業者や商社などが領域を侵食しつつある。さらに大手卸売企業を核とした系列化の動きも見逃せない。まさに卸売市場は戦国時代の様相を呈してきたが、この激動の時代に生き残るためには、以下の4つの方向性でドラスティックな自己改革を実現する必要がある。
column37
○方向性その1産地・生産者の組織化と囲い込み
産地・生産者から魅力ある荷をより多く周年で集められるかが、卸売市場の今後の生命線と言える。具体策として、農家の庭先集荷や地域デポ集荷のシステムをつくることが考えられる。地域農家の高齢化や小ロット出荷に対応する仕組み、多忙な大型農家へ利便性を提供する仕組みとして効果的である。一部の先進企業では、付加価値を持った産品の安定的な確保に向け、GAPの取得農家や有機栽培に取り組む農家を組織化するケースも見られる。この場合、専門機関や資材メーカーなどと連携し、農家への生産や経営指導まで踏み込んだ体制をとることも重要である。
またその一方で、JAとの連携もより一層強化して頂きたい。取扱困難な多品種小ロットの産品や規格外品を、JAに集めてもらって卸売業者が引き取り販売させる方法も考えられる。さらに、産地がスーパーや飲食店チェーン直接取引を推進するための中間支援事業者として役割を果たすことも重要である。産地が持つ契約数量リスクや代金回収リスクに対応する役割が卸売市場に求められている。こうした取組を通して、地域の農業振興に貢献していくという大義名分を掲げて頂きたい。

○方向性その2顧客・販売先の開拓と販売力強化
より多くの優良な顧客を持つこと、固定客との取引量を拡大することは、卸売市場に限らず全ての企業の共通課題である。先ずは商品力・集荷力を背景に小売店などに対し、店頭プロモーションなどの提案力を強化したい。顧客が儲かる手法の企画提案など、市場情報を背景としたコンサルティング力を発揮する必要がある。
また近年、有力企業の一部は、特定チェーン店の物流センター化に取り組むケースも見られる。パッキング、店舗別仕分、保管・在庫調整機能はいずれの企業も持つべきであるが、これを強化しチェーンの商流・物流をまるごと抱え込むのもひとつの戦略であろう。
そして、先般、日本農業新聞が行った卸売市場を対象としたアンケート調査において、今後取り組みたい事業の第1位は地産地消であった。地域の小売店・飲食店・宿泊施設・学校給食などを対象に地場産品の流通システムをつくることは、卸売市場の使命と言えるだろう。
その他にも、実需者と産地・生産者との直接取引推進に向けた中間支援事業者としての役割、昨今注目されている輸出推進のための商社としての役割も検討する余地がある。いずれにせよ、実需者動向を踏まえ、果敢にチャレンジして販売力の強化に努めることが重要である。

○方向性その3自社の機能強化と経営改革
卸売市場が持つ基本機能をさらに高度化することも求められている。前述のパック・仕分けなどの機能強化、ISOの取得やコールドチェーンに対応した品質管理・在庫管理・物流管理の高度化、産地情報・顧客情報を一元的に管理し迅速・円滑に提供する情報受発信システムの構築、拠点施設全体の機械化・効率化なども共通課題である。さらには下処理加工、カット野菜、冷凍野菜、惣菜用品など、加工事業を新たな柱とする事例も見られる。
取り巻く環境が激変する中で、改めて企業理念・経営方針・社風・社員の行動規範の見直しが求められている。限られたひと・もの・かねという経営資源を、中期経営計画・短期実行計画を策定する中で、最適に配置することが重要になる。

○方向性その4他社との連携による総合力の向上
地域の物流業者のネットワーク化、卸・仲卸の相対取引強化、直接取引の中核的役割の遂行など、従来型の企業連携に加え、生産~加工~販売までの流通システムの中で企業間のアライアンスを構築することが必要である。市場取引では困難な業務を子会社を設立して総合力を発揮する、他市場と連携して商品の融通や物流車両を持ち合う、さらには人材の交流まで踏み込んで総合力を強化するといった連携も考えられる。また、市場同士、小規模卸売業者の吸収など、M&Aによる企業再生の道筋も検討の余地があるだろう。

以上、4つの方向性を併行して模索し、企業再生を図る道筋を描きたい。その場合、現実を踏まえて自社が持つ資本力・ネットワーク力や強み・弱みを見極めながら、目指す将来像と優先順位を明らかにして欲しい。いずれにせよ、卸売市場は戦国時代の真っ只中にあり、今思い切った英断が求められている。社会的な使命、時代の中での役割という原点を見つめながら、次々に押し寄せる荒波を乗り切って頂きたい。