第142回 | 2013.04.30

動き出した農地政策 ~期待される農地中間管理機構とその課題~

去る4月23日、農林水産省は、政府の産業競争力会議において、都道府県単位で仮称・「農地中間管理機構」を設置することを提案した。この機構は、受け手がない農地や耕作放棄地を借り受け、一定の集積を図り、必要に応じて機構が基盤整備などを行い、良好な耕作条件の農地にしてから担い手に貸し付ける仕組みづくりを目指す。地権者は、自己負担なく、安心して公的機関に農地を貸し出しでき、担い手も、自己負担なく、基盤整備されたまとまった農地を借り受けることができるというものだ。これを進めるためには多くの困難が伴うことが予想されるが、これまでに見られなかった政策として、大いに期待したい。

これまで公的機関による農地の借り上げや農地集積のための機関としては、都道府県が設置する農業公社が存在する。この農業公社は、農地保有合理化事業を持ち、公社自らが農地を保有し、担い手へ貸し付ける仕組みである。県の農業公社の農地保有合理化事業は、一定の成果をあげているものの、保有する農地が分散していることから、担い手も分散した農地を借り受けることになり、この仕組みを使って集積した農地を確保することは困難な状況にあった。また、基盤整備が済んだ大規模ほ場であれば、すぐに受け手は決まるが、基盤整備が不完全なほ場の受け手は、なかなか決まらないなどの課題が存在する。

一方、中山間地域を中心に、市町村単位でも、いわゆる農業公社と言われる機関を設置し、農地集積の中間支援の役割を果たしている例が全国に見られる。10年以上前の話になるが、流通研究所でも、いくつかの農業公社の設立を支援してきた経緯がある。市町村単位で設置された農業公社のほとんどは、農地保有合理化事業を持たず、農作業の受委託が業務の中心になっている。耕作放棄地の拡大が進む中で、農家に代わって公的機関が農地の耕作や保全を行うという考えである。地域では、農家の高齢化が急速に進み、農業公社に農地を預けたいという要望が年々増加している。しかし、要望がある農地は、ほ場規模が小さく機械が入れないような立地にあったり、地域全体に分散していたりと耕作条件が非常に悪いケースが多い。

地域の優良農地は、黙っていても担い手への農地集積は進んでいく。公社が請け負うのは、誰も引き受け手がない農地ばかりになる。1時間かけてトラクターで山を登り、僅か3畝の田を耕すなどといった非効率な作業に追われ、経営は大赤字で、財政的にも支えられない状態になっている公社が多い。そこで現在は、公的機関である農業公社であっても、全ての農地を守るのではなく、極端に条件が不利な農地の作業は受けない、もしくは高めの小作料を設定するなどの方針に転換するケースが多い。

この度、提案された政策で、最も特徴的なのは、仮称・農地中間管理機構が、貸し手にも受け手にも負担をかけず、自ら大区画化などの基盤整備を行う点にある。そのためには、農地法及び農業経営基盤強化促進法の改正が必要となるので、かなり大胆な制度改革となる。こうした農地の受け手は、農業法人や大規模農家、集落営農、企業などを想定している。例えば、耕作放棄が進む水田地帯を機構が借り上げ、大区画ほ場の美田に変えて、まとまった50haの農地を参入企業が一括して耕作するなどのイメージを持つことができる。

当然、機構のみでこれだけの作業が出来る訳ではなく、業務の一部を市町村やJA、さらには民間企業などに委託し、これら関係者と連携して事業を進めることになる。ここで問題は、農地の所有者が構機に農地を貸し出すかどうかの調整を、農業委員会が行うことになっており、一番大切な入口の部分は地域の調整に委ねられる点である。地域の調整では、利権が絡み合ったり、所有者の考えが異なったりで、作業は遅々として進まないし、ある程度まとまった面積を借り上げることは難しい。

2012年からは全国で「人・農地プラン」の作成作業が開始され、流通研究所でもいくつかの市町村から業務の委託を受けているが、改めて農地の地域調整の難しさを痛感している。この度の農地中間管理機構の仕組みは、当然「人・農地プラン」と連動するものであり、プランに示される貸し手側の農地の集積方法の一つとしても期待される。しかし、その入口の作業が滞っては、どれだけ素晴らしい仕組みをつくっても成果はあがらないだろう。

私は、農地中間管理機構をつくるよりむしろ、基盤整備の方を先行させるべきだと考える。基盤整備が済んでいる優良農地は、耕作放棄地にはならない。基盤整備が行われておらず耕作条件が不利なゆえに、耕作放棄地になってしまうのが実態である。所有者にも担い手にも負担を負わせず、機構が基盤整備をすると言うのであれば、機構による農地集積を条件とせず、はじめから100%補助で基盤整備を進めれば良いのではなかろうか。国が強制力を持って先頭に立ち、各市町村が作成する農業振興地域整備計画の中で重点エリアを定めてもらい、国の補助金で、徹底して基盤整備を進めるような制度ができないだろうか。それでも基盤整備に協力しない地権者は、宅地並みの課税などペナルティをかける制度を導入すればよい。

何度もいうが、基盤整備が済んでいる農地なら、黙っていても担い手への農地集積は進む。担い手が、はじめからまとまった農地を確保することは難しいが、高齢化により離農者が続出する中で、段階的に耕作地もまとまってくる。こうした流れを促すための地域調整は比較的容易である。

振り返ると、耕作放棄地の解消、担い手への農地集積という社会的な重点課題に対し、国も県も市町村も、多額な予算と人員(人件費)を投下している。「人・農地プラン」の意義は大きいが、その作成のために、市町村職員も農業委員もどれだけの労力を使っているだろうか。これだけの予算があるのなら、基盤整備率100%の農村づくりに全予算をつぎ込んだ方が、耕作放棄の解消、担い手への農地集積という目的達成にはよほど効率的ではないかと考える。農地政策では、ソフトは重要であるが、ハードはもっと重要である。

この度は、かなりの暴言を吐いたが、新たな農地政策に期待するところは大きい。しかし、TPPの交渉参加が決まり、短期間で、かつ限られた予算の中で、強い農業づくりを実現するためには、100%補助の基盤整備事業の制度の導入など、さらに思い切った政策が必要なのではないかと考える。