第27回 | 2010.12.03

加工・業務用取引の実践! ~産地力と取組姿勢が取引成約を~

弊社が企画・運営する、栃木県の産地ビジネス推進セミナーの最終回が先日行われた。午前中は、デリカフーズ(株)の常勤監査役である澤田氏と私による講義を行い、午後からは、加工・業務用取引に関わる「模擬契約交渉」という研修会を行った。受講生達がそれぞれ取引したい品目についてプレゼンし、澤田氏と私がバイヤーになりきって実践さながらの交渉術を学習しようというものだ。仮想取引品目は、ねぎ、キャベツ、さといも、ブロッコリーの4品目で、それぞれ30分程度の模擬交渉を行い、取引条件などを交渉し、最後は取引成立の可否を含めて講師が総括するという内容である。弊社としても初めての取組であったが、受講生も講師も真剣そのもので、とても有意義な研修が出来たと自負している。今回は、このセミナーを通して明らかになった、加工・業務用取引の交渉にあたっての実践的なポイントを整理してみたい。

先ず、交渉時に求められるのは「産地力」である。バイヤーは、その産地が信用できるか、どれだけの安定供給能力があるのかなどを見極める。具体的には、対象品目の生産者数、生産者の平均年齢、栽培の経験年数、産地の技術レベルや指導体制といった質問が出される。また、その産地に取引の窓口になるリーダーがいるかどうかは重要なポイントである。受講生の中には設立1年目の生産法人のリーダーがいたが、リーダーとしての資質に加え、社員の平均年齢が若く意欲的な生産者集団であることが、大いに評価された。

市場出荷7割、直接取引3割が理想と言われるが、どれだけの生産量があって、そのうちどれだけの量を直接取引に向けるつもりなのかについても質問される。加工・業務用取引においては、契約数量の確保が絶対なので、産地の生産力・余裕率などが問われることになる。また、現在市場集荷中心の産地では、加工・業務用取引に対する部会員の理解度もポイントである。特に今年は野菜が高騰しており、市場価格と直接取引価格に大きな差が見られるが、「市場に出荷した方が儲かるので、直接取引はやめよう」といった声が生産者の中で高まるような産地は実需者からの信用は得られない。農産物の価格は毎年乱高下を繰り返す。その中で、長い目で農業経営の安定を考え、多少損をする時があっても加工・業務用を継続していこうという産地の姿勢が問われる。野菜の需要の55%は加工・業務用であり、この現実を直視して地域の合意形成を進めることができるかどうか、JAなどを核とした求心力が求められる。こうした点を総合して、バイヤーは産地力を分析し、取引の成否を見極めるのである。

次に求められるのは「商品力」である。模擬交渉においても、A品は市場出荷、B品は加工・業務用取引と位置づける受講生が大半だった。この考え方は、必ずしも間違いではないが、「加工・業務用なら市場で値がつかないB品・規格外品で十分だろう」という考え方は改めるべきである。市販用に規格があるのと同様、加工・業務用は異なる次元の規格があって、この規格に当てはまらない商品は取引対象にはならないのが実状である。例えばねぎの場合、焼鳥のねぎま用途では市販用と同様に太いものが求められるし、青い部分は逆に商品価値はない。一方、みじん切り用途では、太さはあまり問われないが、白い部分の実質的な重量で取引されることになる。外食チェーンとの直接取引の場合、レタス・キャベツともに市販用と同じ玉数が求められる。反面カット野菜用途では、利用可能部分の重量重視で大きさはあまり問われない。したがって産地は、市場出荷を基本に、多様な加工・業務用ニーズを的確に捉えた販売計画が求められる。一方バイヤーにとっては、自分が求める規格が確実に提供できる産地であるかどうかが見極めのポイントとなる。

また、栽培方法や味覚上の特徴は、取引価格を決定する上での重要な要素となる。近年の外食店の動向を見ると、差別化戦略の一環として、特徴のある食材、さらには生産方法・生産者の顔が見える食材を優先購買し、消費者にPRする飲食店が急増している。したがって、有機質をふんだんに使って甘みや栄養価がある野菜作りに取り組んでいる、信念を持って減農薬栽培・特別栽培に取り組んでいるといった産地は評価が上がるし、商品の取引価格も相応に上がることになる。なお、ブランド産品であればさらに評価が高まるが、市場を経由して業務用ユーザーに流通している例も多いことから、せっかく作り上げた価格形成力を損なわぬよう、商品規格のすみわけや流通ルートの検証などの作業が必要である。

三番目に求められるのが、「流通力」である。加工・業務用の取引では、実需者の工場渡しで、取引価格が決まる。産地まで取りにきてもらえるケースは少なく、物流費は原則産地持ちとなる。ねぎ5kg箱1,000円、キャベツ1kg60円など、実需者から提示される価格は、物流費込みの価格であることに留意されたい。地域の物流業者と年間契約を結び、既に東京便を毎日走らせているJAなどでは物流を自ら持つのは比較的容易であるし、物流費も相対的に安価に抑えられる。しかし物流網を持っていない産地は新たに提携会社を見つけなければならない。また、4トントラック満載分の400ケースが1回の物流ロットであればよいが、1回の注文が100ケースや200ケースになった場合、物流単価は割高になる。したがって、4トントラックを満載するために同じ方面での取引先を増やすか、他品目との混載物流をするなど、物流体制の構築が必要となる。

もうひとつは商流である。市場取引と直接取引の決定的な違いは、代金回収サイトの長さと貸し倒れリスクの存在にある。これらを回避するために産地は、卸売業者や全農等の帳合をかませる必要があるが、実需者側も安定的な取引に向けて帳合方式を求めているのが現状である。手数料はかかるが、地域の卸売業者などと連携して取引を開始することが望ましいと考える。こうした柔軟で効率的な物流体制を持っているか、安定した商流体制が構築できているかなども取引成約に向けた重要なポイントとなる。

以前掲載したように、加工・業務用取引においては、「定量」「定時」「定品質」「定価格」が強く求められる。気象条件などによるリスクは当然あるが、それを乗り越えてでも、自らお客にたどり着き、持続的な取引をしていこうという努力と覚悟ができるかどうか、その取組姿勢が成約の可否を分けることになる。加工・業務用取引の価格は総じて低い。しかし、契約という概念を持たず、市況のみに一喜一憂しながら農業を続けていて、真の農業経営は確立するだろうか。合計5回のセミナー開催を通し、少なくとも受講生たちの意識改革につなげることが出来たと思う。一気に産地を変える必要はない。しかし、流通構造が変化する中で、加工・業務用取引は今後も拡大するだろう。ブランド化と直接取引、産地が目指す方向は基本的にはこの2つしかない。先ずは、研究・検討からははじめ、身の丈にあった取引からチャレンジし、試行錯誤を繰り返しながら段階的に取引を拡大して頂きたい。