第222回 | 2015.01.19

制度は活用しよう。そして成果をあげよう。~平成27年度の農林水産関連予算の特徴~

平成27年度の農林水産関連予算が決定した。概算要求は大幅に削られ、総額では対前年比0.8%減の2兆3,090億円で決着した。自民党政権下で2年連続で増加してきた予算が、来年度は前年比を割り込むことになる。

予算編成の基本的な考え方は以下の通りである。
①予算額全体を縮減しつつ、「農林水産業・地域の活力創造プラン」に沿って、農林水産業の競争力強化に重点化し、構造改革を進める。
②農地中間管理機構を通じた担い手への農地集積・集約化を進めるとともに、需要拡大や付加価値向上のため、輸出促進、6次産業化等の農林水産業の成長産業化を推進する。

このコラムでも何度か記載したように、自民党政権下の農政は、農業政策と農村政策を分離し、農業を成長産業と位置づけ自走化させることにある。佐賀県知事選で農協の力を甘く見た自民党が敗北したことなどの反省から、農協改革については党内からも慎重論が出ているようだが、本気で農業構造改革に取り組もうという姿勢は予算の中にも伺える。その中で、私が注目した予算の動きについて述べてみたい。

一つ目は、農地中間管理機構(農地バンク)に関する予算措置である。管理機構の関連事業については、昨年度の304億円から190億円へと37%も減額している。この減額に対し、新規事業で「農地耕作条件改善事業」が創設され、100億円の予算が計上された。農地バンクによる担い手への農地の集積・集約化を加速するため、既に区画が整備されている農地の畦畔除去などによる区画拡大や暗渠排水整備について、農業者の自力施工も活用しつつ、安価でかつ迅速な推進を支援するものである。区画拡大は10aあたり10万円、暗渠排水は15万円の定額を助成する。事業実施年度に入ってからの採択申請も可能で、農地バンクから国への直接申請も可能であるという特徴を持つ。

当初予定していた農地の集積・集約化目標の達成が困難な状況下の中で、これまでの仕組みを変えていこうとする意図が見える。区画拡大、暗渠排水整備は、本気で農業に取り組もうとする担い手にとっては重点課題である。新規の制度のもと、農家・地域・市町村・農協などが農地バンクへ相談することで、基盤整備がより簡単に進むようになることに加え、農地バンクの有効活用につながることに期待したい。

二つ目は、平成26年産限りの「収入減少影響緩和対策移行円滑化交付金」の新設である。予算額は385億円とかなり大きい。米価の下落が激しかった26年度産の米を対象に、これまでの米価変動補填交付金を廃止し、収入減少影響緩和対策(ナラシ対策)に加入していない農業者にも、収入減少を補填しようというものである。米価の下落により、離農が拡大し、担い手への農地集積が進むものと考えられるが、急激な変化を緩和し、農政への不信感を払拭することを目的とした、一年限りの臨時措置と考えられる。稲作農家にとっては、願ったりかなったりの制度であるが、あくまで特例措置であることを肝に銘じ、自己責任のもと、来年度の作付計画を考えて頂きたい。

また、関連事業として、予算額50億円の「米穀周年供給・需要拡大支援事業」が新設されている。平成25年に決定された米政策改革を前進させるため、生産者・集荷業者が需要に応じた米の生産・販売を自主的に行う体制をつくることを支援する事業であり、農協などを対象に、主食用米の加工・業務用、あるいは輸出などの取組に対し、定額(1/2以内)で国が補助するものである。米価は引き続き低迷することが予想される。今回は誰にでも特別に1年限りの所得補償はするが、その後は小規模農家を抱える農協などが主体となって、売り先を見つけながら地域で生産量などを調整していくようにというメッセージが込められているようだ。

三つ目は輸出促進対策である。輸出倍増プロジェクト事業は、前年比27%増の23億円が計上されている。2020年に農新水産物・食品の輸出額1兆円という目標を達成するために、国別・品目別の輸出戦略に沿って、ジャパン・ブランドの確立をめざす品目別の輸出団体の育成、産地間連携の促進、輸出環境整備などを行う内容である。また、これと併せて、「水産物輸出倍増整備対策事業」が新設され、3億円の予算措置が講じられている。水産物は、漁港・市場の衛生管理・品質管理が総じて立ち遅れていることから、HACCPに基づく管理体制を整備し、漁船・産地市場・水産加工施設までのフードチェーン体制を抜本的に強化し、輸出倍増を実現していこうとものだ。

過去の輸出実績も、今後の輸出増加の可能性も、農産物より水産物の方が遥かに高い。輸出額1兆円の達成に向けて、期待が持てない農産物よりも、期待できる水産物・加工品に予算の重点をおいたものと言えよう。

四つ目は6次産業化対策である。6次産業化支援対策は、昨年度と同額の27億円が計上されており、6次産業化ファンドの活用を含め、じっくりと進めていこうという趣旨が感じられる。加えて「新たな木材需要創造総合プロジェクト」が新設され、17億円の予算がついていることに着目したい。この事業は、林業の成長産業化を実現するため、新たな木材利用技術の開発・普及を図る一方で、公共建築などに地域材を活用する取組などに補助金を出して、林業の活性化を図ろうというものである。以前から同様の施策が講じられてきたが、林業の6次産業化という視点で事業が組み込まれたことが興味深い。

五つ目は、農業農村整備事業の増額である。平成26年度は大幅に削減された事業であるが、そのしわ寄せもあってか、平成27年度予算は対前年比2.4%増の2,753億円が計上されている。農地バンクと連携した農地の大区画化・汎用化などの基盤整備や、IT導入などによる新たな水利システムの構築などの農業競争力強化対策と、施設の耐震化や補修・更新などによる国土強靭化対策からなる。土木行政と揶揄される風潮が強いが、農村社会に必要なハード整備は、やっていくという姿勢が見られる。

これと相対するのが、新設された「農村集落活性化支援事業」(6億円)である。人口減少が続く農村集落において、基幹集落を核に集落間の連携と集落ごとの役割分担を進めることで、集落への財政投資を抑制していこうという狙いが見てとれる。農業農村整備事業についても、実施する集落、見送る集落の色分けをするということであろう。

これから年度末にかけて、具体的な事業がどんどん公告される。流通研究所も活用できる事業は、うわばみのように貪欲にとっていく方針だ。税金で賄われている制度や事業を活用することは、悪いことではない。問題は、その制度や事業を使っても効果を出せず、税金の無駄遣いをしてしまうことだ。あくまで自らの成長のため、あるいは地域に貢献にために活用し、成果をあげなければ国民に顔向けが出来ない。農業・農村・農家は弱いから、助けてもらって当たり前などといった甘えた考えを持つ人は、もはやいないと思う。制度は活用しよう。そして成果をあげよう。