第262回 | 2015.11.30

全国道の駅のNO.1の駅長はこの人だ ~  道の駅ソレーネ周南 江本駅長 ~

現在道の駅は全国で1,057箇所設置されており、それぞれ駅長といわれるマネージャーが配置されている。成功している道の駅にはそれぞれ素晴らしい駅長がいるが、道の駅の成否は駅長その人にかかっているといっても過言ではない。その中で、私が全国道の駅のNO.1の駅長として尊敬する方が、山口県の道の駅ソレーネ周南の、江本伸二駅長である。江本駅長とは、この道の駅の立ち上げ業務でご一緒させて頂いて以来、個人的にも懇意にしており、先般は私のコーディネートで、埼玉県桶川市で講演会の講師をして頂いた。

江本駅長は、リクルートに入社した後、代理店として独立。トヨタ自動車と提携し、観光地の支援業務に携わった。その後は、鳥取県北栄町に任期付き職員として入庁し、「名探偵コナン」を活かしたアニメによるまちづくりを担当。任期終了後は、鳥取県観光連盟魅力づくり課長を経て、奈良県黒滝村で道の駅や宿泊施設などの村営施設「黒滝森物語村」を管理運営数する3セクの執行役員総支配人を務めた。そして、平成24年から周南市の任期付き職員として道の駅の立ち上げ業務に携わり、道の駅の開業と同時に指定管理者である一般社団法人周南ツーリズム協議会の専務兼道の駅駅長に就任した。

先般、江本駅長は、「ガイヤの夜明け」で、ヤマト運輸と包括的連携協定を締結し、「オール周南による地産池消」、「生活弱者への宅配サービス」など行う特色ある道の駅の駅長として放映された。山口県の周南市は東京23区より広く、道の駅に農産物を持ってくるために片道1時間もかかることから、出荷したくても出荷出来ない生産者が多いのが実状である。そこで、市内に5か所あるヤマト運輸の物流センターを集出荷拠点とし、そこに集めた農産物等をヤマト運輸が道の駅に運び込むシステムをつくりあげた。また、遠隔地の生産者は、買い物弱者であるケースが多い。そこで、コンビニを併設する道の駅で生活に必要な商品を集め、帰り便を活用して生産者に届ける仕組みを構築した。

道の駅は、単なるもの売り施設ではなく、地域活性化を目的にした施設であり、そこに行政が投資する意義がある。農産物の直売事業を通して山間地の高齢者などに生きがい・やりがいを提供し、商品の宅配事業を通して生活を支援する。こうした取組みが評価され、「2015グッドデザイン・ベスト100」にも選ばれた。その他にも、山間地の生産者の送迎ツアーの実施や、小さな6次産業化実現のためのワークショップの開催など、江本駅長は常に地域視点で行動してきた。

「地域活性化」は、「地域(人、物、郷土、伝統)」を「活(商品力、生産力、購買力)」かして、「成果をあげることだと江本駅長は語る。その成果とは、生活力向上、地域力向上、定住促進だという。この言葉が、江本駅長の道の駅の経営理念や仕事の信念を端的に表していると言えよう。

講演会終了後に、個人的に会食をしながら、様々な情報を提供して頂いた。その中で自動販売機の話を聞いて目から鱗が落ちる思いをした。誰でも24時間利用可能な道の駅では、自販機のジュース類は非常によく売れる。そこで、どの飲料メーカーも道の駅に自社の自販機を少しでも多く設置したいと考える。一方、自販機設置の営業では、「自販機設置協力金」なるお金を地主や管理運営者に支払うという商慣習が存在する。しかし、多くの道の駅は、こうした業界の常識といえる商慣習を知らず、協力金をもらわないでいることが多い。何も言わなければメーカーは1円だって払わず、しめしめと舌を出している訳である。

江本駅長は長年の経験から、こうした商慣習を熟知しており、各メーカーに提案書を提出するよう求めたそうだ。その結果、数百万円もの設置協力金をもらったことに加え、道の駅側の取り分となる販売マージンも大幅に上昇したそうである。その他にも、企業との取引にあたっては、複数の会社に提案書・見積書の提出を求めることが非常に大切だという。無知で黙っていると、企業側は言い値を提示してくる。ただし、競争させれば、1本10円と言われた割り箸の価格は1.5円まで下がり、土産品などを仕入れる際のマージンも20%が40%に上がる。

江本駅長は、こうした取組みを通してコストを下げ利益を確保することで、その利益を地域に還元するのだという理念を持っている。農産物の販売委託料が15%では、どれだけ売っても利益はほとんど出ないし、山間地からの集荷や生活宅配事業も人件費を含めると恐らく赤字だろうが、それは道の駅が行うべき社会的な使命である。その原資は、経営のプロフェッショナルとしての経験・ノウハウで稼ぎ出す。これが江本駅長の経営術であると感じた。

江本駅長は、道の駅の立ち上げ前も、オープン後も生産者や地域とのコミュニケーションを欠かさない。そのため、24時間365日フル稼働で、正に道の駅そのもののような生活を送っている。地域に正面から向き合い、深く理解し、愛し、具体的な行動に移す。また、江本駅長は、農業、観光、福祉など幅広い分野で政策に精通していることに加え、議会・地域対策や首長公約の実現など行政という特異性を理解し、的確な対応で成果をあげていく実力がある。

全国の道の駅には、立派な駅長も多いし、それぞれ工夫を凝らした経営をしていると思う。しかし一方で、大手スーパーや百貨店、ホテルなどの民間企業で働いていた駅長が多く、そうした経歴を持つ駅長が民間企業の経営感覚で利益重視の経営に走り、地域との軋轢を招いているケースも少なくない。大変失礼な言い方であるが、プロの営業マンやプロの企画マンなどは、世の中に掃いて捨てるほど存在する。しかし、民間企業で優秀な成績を収めた人材が、必ずしも駅長の適任者であるとは言えない。なぜなら道の駅の経営は、利益をあげることが目的ではなく、地域活性化という成果をあげることが目的だからだ。

こうした視点を踏まえると、地域と政策を深く理解し、抜群の経営手腕を持っている江本駅長は、極めて稀有な逸材であり、全国道の駅№1のカリスマ駅長と呼ぶにふさわしい方であると考える。今後も末永くお付き合いをして行きたいし、出来ればまたいつか、共に幾多の修羅場をくぐり抜け、地域活性化という成果をあげる大仕事を一緒にしてみたい。