第113回 | 2012.09.24

今直面する食の危機を考える ~東洋経済「貧食の時代」より

東洋経済で、「貧食の時代、崩れる日本の食」と言うタイトルの特集が組まれていた。現在、高齢者、会社員、子どもを中心に貧しい食生活が蔓延しつつあるとして、その実状や食品業界の動向などをレポートしている。言うまでもなく、食は命の源であり、健康・健全な心身を維持するために必要不可欠な存在であるが、社会環境の変化とともに、まともな食事を取れていない消費者が増えつつあると言う。「貧食」の進行は、国民の健康を損なうだけに留まらず、国民の消費を縮小させることから、基礎食材の供給を担う農林水産業の衰退にもつながりかねない。

「貧食」が進んでいる消費層の第一は高齢者である。高齢化・核家族化の進行により、一人では買い物が出来ない、いわゆる「買い物難民」が急増しており、その数は現在910万人にのぼる。また、高齢化に伴い、調理が難しくなり、カップラーメンばかり食べていたり、三食冷凍食品で過ごす高齢者世帯なども多く見られるそうだ。特に問題になっているのが、独居老人や、高齢者世帯の44%を占める年収150万円未満の低所得層であり、栄養失調に陥っている高齢者が多いと言う。

こうした買い物難民の増加という社会的な課題に対し、現在企業や地域団体などの動きが活発になっている。昨年度フードアクションニッポン・アワードの流通部門での大賞を受賞したセブン・イレブンは、「高齢化社会の御用聞きになる」という理念のもと、シニア層を対象とした宅配・移動販売事業に本腰を入れている。コンビニエンスストアは今や、地域の生活拠点となりつつある。生まれ育った町のために地元のオーナーが、宅配・移動販売事業に相次いで名乗りをあげているそうだ。現在は、採算的には厳しい状況にあるが、マーケットの拡大に伴い黒字化の目処がつきつつあると言う。また、ワタミでは「宅配弁当事業」が軌道に乗りつつあるし、生協も宅配事業を中心に、高齢者の食を支える事業を強化しつつある。

次に問題視されているのが、ビジネスパーソン(会社員)である。個人差が大きいと考えるが、しっかりした食事がとれず、健康食品、加工食品で栄養を補充しているビジネスパーソンが増加傾向にあると言う。現在も、健康食品市場は堅調に拡大しており、サプリメントと呼ばれる栄養補助食品は、性別を問わず、多くのビジネスパーソンが飲用しているようだ。特集記事では、栄養食品の多くが科学的な根拠に乏しく、また、厚生労働省の制度である特定保健用食品や、野菜系飲料については、広告が過剰でネーミングなどに疑問を持つ商品などが多く販売されていると言う。人の健康は通常の食事で十分賄えるとしているが、健康食品や野菜ジュースさえ飲んでいれば健康は維持できる、あるいは、身体に無理なくダイエットができると考えているビジネスパーソンが非常に多いようだ。

こうした社会現象に対し、危機感を抱いているのがビジネスパーソンを雇用する企業である。その対策として現在、社員食堂の改善運動が広がりつつある。今でも多くの企業・工場の社員食堂では、安くてボリュームがある食事を提供することが常識になっている。そのため、安価な食材である輸入ものの冷凍食品に頼っていたり、市況が乱高下する野菜などは食材として利用することを敬遠する例が多い。こうした中で、社員食堂でのヘルシーメニューのレシピ本が大ヒットした「タニタ」が先鞭を切り、おいしくて、栄養バランスに優れ、良好なコミュニケーションの場としての社員食堂へと転換する企業が急増している。グーグル、楽天などのIT企業では社員食堂の無料化を進め、社員の食の改善に力を入れている。

特集記事ではさらに、子どもの食が危ないと指摘している。その昔は、お母さんが朝早く起きてつくった朝食をしっかり食べ、学校では栄養士・調理士の先生方の情熱がこもった給食を頂き、夜は再びお母さんの愛情がこもった夕食を噛み締めながら食べたものだ。しかし現在は、お母さんも子どもも忙しく、食事に時間を費やすこともままならない。朝はパンをかじりながら、お母さんも子どももあたふたと家を出て、家に帰って来た子どもはコンビニ弁当やカップラーメンを食べて再び塾へ行くと言った家庭も多いようだ。学校給食だけが頼りだが、中学校では予算の関係で、給食を行っていない自治体も多い。

こうした子ども食事事情の中、塾向け弁当配達サービス事業に取り組む企業が登場している。弁当販売会社のトリオブラザーズカンパニーでは、「塾食お弁当クラブ」と言う冷凍弁当の配達サービスを開始した。塾でチンして子どもに食べさせる方式で若干味気ないが、それでもカップラーメンを食べて勉強するより、学力は上がりそうだ。

国民の貧食は、亡国につながりかねない社会的な問題だ。しかしこうした課題・問題を克服しようと、食に関わる新たなビジネスが誕生しつつあることは頼もしい。行政サイドも何らかの政策を打ち出し、農林水産業界と食品業界が連携して、国家的な危機に立ち向かって行く必要があると考える。