第3回 | 2010.06.14

今後10年間の消費者志向をつかめ! ~日本人は甘党になってきた~

今後産地は、どのような農産物を戦略作物・戦略品種として打ち出したらよいのか。農業に携わる者の共通した悩みである。農産物の需要や価値は、最終的には消費者が決めることになる。今後10年間で、消費者に求められる作物・品種が分かれば苦労はしないが、これが分からない。しかし、消費動向をよくよく分析すると、いくつかのキーワードが浮かび上がってくる。

既に定説になりつつあるキーワードが、「個食化・核家族化への対応」である。大きな農産物は売れない、大容量のパック商品は売れない傾向は近年明らかである。風鈴の音を聞きながら大玉すいかを切り分けて子ども達がほお張る、こたつの上にみかんを山積みしてとめどなく食べるなどといった風景は、現代社会ではほとんど見られないし、復活することもないだろう。そこで、小玉のすいかや2個入りパックのみかんなどが売れることになる。

もう一つのキーワードは、甘いものが売れる、甘くなくては売れないといった消費動向である。先ずは、小売業者などを対象としたアンケート結果を踏まえ、日本農業新聞が毎年1月に発表している野菜の売れ筋ランキングをご覧頂きたい。

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野菜部門では、「高糖度トマト」が久しくトップの座を守り続けているが、「安納芋」が一躍番外から2位へ、「キタアカリ」が12位へ躍進したことなどが注目される。その他の上位品目も甘みがあることが特徴と言えよう。果実部門でも糖度重視の傾向はさらに顕著で、平成21年度商戦では、最大のマーケットを誇る柑橘類の消費低迷が全国の産地を悩ませた。糖度センサーが全国で導入され、柑橘も甘さを基準に高位平準化を進めつつある。しかし、柑橘独特の酸味や食感など真のおいしさが、消費者に理解されなくなってきたのではないかと大いに懸念する。甘いか、すっぱいか、そんな単純な基準で農産物の価値を決めて欲しくないが、どうやらこの傾向は当面続きそうだ。

もう一つ、懸念事項がある。それは商品の善し悪しを消費者に伝える社会的使命を持つ、小売店担当者の能力低下だ。農産物が持つ従来の味覚や価値が理解できず、見た目(規格)、価格、甘さの3つの要素だけで、商品を選定する傾向が見られる。大手スーパーが肥大化する中で、目利きのバイヤーが育っていないのではないかと思う。こうした売場での現状が消費者を味覚音痴に導いているのかもしれない。一部の中堅スーパーでは逆に、自ら何度も市場に足を運び、より良いものを選び、対面販売するという昔ながらの八百屋風の商売が復活しつつあり、こうした取組みに期待したい。

一方、野菜はそれぞれ独特の甘みを持っていて、甘さがおいしさのひとつの基準であることは間違いない。生産者の食卓では、最もおいしい野菜が食べられており、どのような作り方、食べ方をすれば野菜本来の甘みを味わえるのか、実は生産者自身が最もよく知っている。土づくりを基本とした生産技術が、野菜の甘みを大きく左右することは周知のとおりである。トマトはより完熟させた方がおいしいし、甘味が乗る時期、乗らない時期がある。とうもろこしやえだまめは鮮度によってまったく甘味が違うし、逆にかぼちゃなどは熟成期間を置いた方が甘味が乗る。

消費者は甘党になっている。この傾向は必ずしも正しい認識に基づくものではないかもしれない。しかし、甘党志向は今後も続くであろうし、生産者や流通業者はこうした消費者ニーズに応えていく必要がある。甘さを高めるための生産技術をさらに磨き、甘さを維持できる鮮度管理や提供方法を確立して、野菜の甘みとおいしさについて消費者に正しい知識を伝えていく。甘党に応えるマーケティング、これが今後の農産物戦略の基本になることは間違いない。