第34回 | 2011.01.24

今後の農業経営のポイント ~若手農家へのエール~

先日神奈川県足柄・小田原地域の「みどりの会」にお邪魔し、講演会に続きメンバーの皆さんと懇親の場を持たせて頂いた。これまで全国の農家を対象に、講演会や現地指導を数え切れないほどやってきたが、恥ずかしながら生まれ故郷の農家の皆さんと交流する機会は少なかった。「みどりの会」は20歳代・30歳代の若手の専業農家13名によって構成され、作物は水稲・果樹・野菜・花卉・きのこなど多岐にわたる。それぞれ大変な苦労をしていると察するが、誰もが明るく情熱にあふれ、試行錯誤しながら歯をくいしばって頑張っている。地元にこんな素晴らしい若者たちが数多くいることを大変嬉しく思ったし、私を招いてくれたことをとても光栄に感じた。

さて本日は、農家を対象とした講演会で、私が平素共通して話している「今後の農業経営のポイント」について紹介しよう。いずれも応援団長たる私から、頑張っている農家たちへの熱いエールである。

○ポイント1崇高な理念と目標を掲げろ!
企業に就職してサラリーマンをやった方が楽だと思うが、そもそも何のためにつらい農業を選んだのか、先ずは自分の農業経営の原点を振り返ろう。その理由は様々だろうが、人生を農業にかけると決めたからにはNO1を目指そう。成功している農業生産法人のトップは、「日本の農業を担う人材を育成すること」「農業を核に地域を活性化すること」、あるいは「新たな流通システムをつくること」などいずれも崇高な目標を掲げている。そこまで大きな話でなくても、農家しか出来ないこと、自分にしか出来ないことはたくさんある。目指す農業経営の将来像と社会的意義を文書にして整理して欲しい。次に、3年後・5年後の所得目標・利益目標を数値として明文化しよう。農家は儲からなくてはならない。儲けて始めて社会からも認められるし、後に続く若者たちも現れる。子どもは親の後姿を見て育つ。農業の苦しさや政治への愚痴ばかりこぼしている親を見てきた子どもが農業を継ぐわけがない。そして理念・将来像・数値目標を描けない農家は、いずれ厳しい環境変化の中で挫折してしまうだろう。

○ポイント2誰にも負けない技術を磨け!
農家の価値とプライドは技術である。高い生産技術があって始めてプロとして社会的に評価される。生産コストを無視して最高品質のものだけを作れという意味ではない。生産規模・生産コスト・純利益の関係を抑えつつ、あの人がつくる農産物はやっぱり違うと流通業者・消費者をうならせなければ、農家として価値は半減してしまう。経営規模が大きくなると、現場はパートに任せて販売だけに力を入れる傾向にある。私の知っている農家の中にも生産現場をおろそかにしたことから、品質が落ちたり病害虫や気象条件などへの対応が遅れたりして、廃業した例も見られる。「農家は経営者たれ」が私の持論だが、経営者であっても技術者であることを忘れてはならない。日々現場で研究を重ね先端技術を旺盛に取り込み、研鑽を続けることがプロであり、技術者としての社会的使命である。

○ポイント3自分で自分のお客にたどり着け!
JAや市場への出荷を否定する訳ではなく、農家にとってJAや市場は重要な販路であるしパートナーである。しかし、農業の最大の課題は、消費者ニーズを知らず、したがってマーケティングも行わず、ものづくりのみを行っていることだ。こんな製造業は他になく、農業という産業の社会的地位が上がらなかった理由のひとつがここにある。したがって、市場出荷をする一方で、直売・宅配や観光型農業にも取り組み、消費者へダイレクトに販売することにチャレンジしなければならない。販売を全て他人任せにしていては、農業経営の発展性は少ない。出来ることからチャレンジして、自分で自分のお客にたどりつくことを目指して欲しい。顧客創造は農業経営の自立の条件であると言える。

○ポイント4地域のリーダーたれ!
このテーマは以前コラムで熱弁した。農家は何代にもわたり、あるいは何百年にもわたり地域に定住し、地域の農地を守り、地域のコミュニティを築き上げてきた。その一方先人達の積み重なる努力と地域の多大な恩恵を受けて、今の農地があり農業がある。したがって農家は、先人達と地域への恩に報いるために地域を守る義務がある。そして地域を守り活性化するためのリーダーは、その地域の原点を知り脈々と血を受け継いできた農家が務める義務がある。消防団・青年団、自治会にPTA、地域活動は何でもやらせてもらい、地域に貢献して行かなければならない。時間がないなど言い訳である、寝ないで働いても地域活動にはリーダーとして参加して欲しい。その結果地域に認められ信頼され頼られる存在になるし、顧客の拡大・販売先の紹介や6次産業化のパートナーなど、多様な成果につながり農業経営の基盤となる貴重な財産ができる。

○ポイント5妻を、女を大事にして能力を活かせ!
現在でも農村地帯に行くと、総じて農家女性の地位は低い。農業は男が仕切るもの、女はだまってついてこいという感じだ。しかし自分達がつくった農産物の8割・9割は男性ではなく、女性が購入しているという事実を再認識して欲しい。農業経営の高度化を進めると、当然直売・観光、あるいは加工という領域まで踏み込んでいくことになるが、消費者の視点なくしてこれらの事業は成功しない。そのためには消費者代表としての女性を農業経営に参加させる必要がある。成功している農業法人に共通して言えることは、奥さんを最大限活用して女性の活動のフィールドをつくっていることだ。そもそも女性のほうが接客も商品づくりも男性よりはるかに上手である。農業経営には女性の力が不可欠であり、妻を、恋人を、あるいはパートの女性を大事にして、彼女らの能力を引き出すことが成功への必須条件と言える。ちなみに独身の若手農家は、自分の農業経営の夢と女性の必要性を熱く語りかけろ!そうすれば、必ずや素敵な女性のハートをゲットできる、、、はずだ。

○ポイント6デジタルよりアナログ!
近年インターネットが急速に普及したことから、気の利いた農家はホームページを開設したり、ネット販売などに取り組むケースが増加している。また印刷物のDMをはじめ、広報戦略も盛んになりつつある。こうした取組を否定する訳ではないが、農産物は工業製品ではなく、農家が一つひとつ魂を込めてつくる手作り商品であることを再認識してもらいたい。こうした商品の顧客へのアプローチでは、作り手の思いや情熱を直接伝えていくことが大切である。なるべく直接会って話す、電話をする、DMの最後には必ず一行手書きのコメントを添える。デジタルでは思いも情熱も伝わりにくいし顧客は理解できないことが多い。デジタルを活用することは良いが、決め手はハートであり、アナログによる努力を怠ってはならない。

○ポイント7数字に強くなれ!
農家は一人ひとりが経営者である。そして経営者は数字がつかめて当たり前である。農地別・品目別の作業工程と投下労働日数、パートを含めた労務管理と作業配分、品目別事業収支、資金の確保と資金繰り管理、税金対応、こうした管理業務も経営者の仕事だ。全てを自分でやる必要はない。パートや税理士を有効活用して、出てきた数字に対ししっかり経営判断できる能力を持とう。儲かっているのか損しているのかわからない、投資して何年で回収できるかわからないでは経営者の資格はないし、農業経営の発展もありえない。財務管理などはとっつきにくいが、難しい方程式を解くわけではない。小学生レベルの足し算引き算、掛け算割り算ができ、少し勉強すれば誰にでも出来ることだ。「こうしたらこうなる」という大局感を数字を通してつかむ能力をつける。それが農業経営の重要なポイントの一つとなる。

「みどりの会」のメンバーとは、今後はコンサル料などはいらないので、情報交換という名目で長く親密につきあっていこうと約束した。彼らを応援することは、私の原点であり、二宮金次郎先生が威徳を残す郷土の農業を活性化することに直結する。今後は私のライフワークとして、一人ひとりの農業経営を支援するとともに、将来的には彼らを核に地域再生の仕組みをつくっていきたいと思う。