第9回 | 2010.07.26

二地域居住の農村を目指せ! ~新たなクラインガルテンの展望~

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兵庫県「フロイデン八千代」※HPより

遊休農地が拡大するなど農村の活力低下が進みつつある中で、交流事業に活路を見出そうとする取組がさらに活発になっている。都市部住民の農業への理解が進み、農業をしたい、農村に住みたいといった願望が強まる一方で、特に山間部など耕作条件が不利な農村では、過疎化・高齢化が進展し、耕作放棄地や空き家が拡大する傾向にある。交流事業には、自然散策などの「自然体験型」、郷土料理や収穫体験などを商品化する「サービス提供型」、田舎で働き隊などに代表される「地域貢献型」などのモデルがあるが、その中で、都市部住民の二地域居住に視点をおいた具体的なモデルをつくろうとする動きが見られる。

昨年度は、神奈川県の委託事業で、クラインガルテンの開設にかかわる可能性について調査・研究を行った。県南西部の相模灘を臨むみかん畑を舞台に、農家開設型の新たなクラインガルテンの開設手法について、法的要件や事業スキーム、収支シミュレーションなどを検証した。これまで、ほとんどのクラインガルテンは行政が整備していたのに対し、農家が農業経営の一環として取り組める様な事業スキームができないかと仮説を立てた。結論として、都市部住民のニーズは存在するものの、法的に様々な制約が存在することに加え、農家が主体的に開設・運営するにはコストなどの点でかなり厳しいことが分かった。しかし、都市部住民が整備費の一部を賄うなど、農家と都市部住民が協働で事業化に取り組めば、開設の可能性はあると結論付けた。

法的要件ではまず、都市計画法及び農振法の規制があり、ラウベを建てる立地は農振農用地区域以外(農振白地)に限定されることに留意しなければならない。また、対象となった市では、開発条例で1,000㎡以上の場合、接道の幅員は6m以上、1,000㎡未満の場合は、4m以上でなければならず、前面道路から水道の引込が可能であること、適切な排水経路の確保の必要性があることなどの規制があった。さらに、建築基準法及びいくつかの関連法令により、接する道路が農道等の場合別途許可が必要、傾斜地への建築の場合建築物の基礎や擁壁の設置が必要など、安全対策が必要となる。

次に事業収支であるが、初期投資と利用料収入が均衡するかどうかが課題である。行政開設型のクラインガルテンは、年間利用料の相場が50万円程度と初期投資の減価償却を無視した料金設定になっている。例えば50㎡程度のラウベと50㎡程度の農園を10区画つくるとなると、初期投資は少なく見積もっても5,000万円はかかるが、年間利用料が50万円では、初期投資回収までに10年もかかる。長期的展望に立った経営が求められるが、先行き不透明な中で、これだけの設備投資に踏み切る農家はまず存在しないと思う。

そこで、利用者が自ら設備投資費を出して、もしくは利用者が自らコテージを建設して、クラインガルテンを地域の農家と共同して整備できないかという視点で検討した。一部の都市部住民からは、自分で全てやるから農地を貸して欲しいという要望もある。しかし、市民農園整備促進法では「利用者の募集及び選考の方法が公平かつ適正なものであること」と示されており、公益的な事業として利用者は広く公募することが原則で開設者が自ら利用者になることを前提とした整備はできない。開設方式として他に特定農地貸付方式(農園利用方式)が存在するが、市民農園整備促進法では誰でも開設者になれるのに対し、特定農地貸付方式の開設者は、特例を除いて農家または農業生産法人に限定される。こうした中、農家と都市部住民が共同出資組織をつくり、クラインガルテンをここで整備・管理し、利用者は原則公募する(結果として出資した都市部住民が利用者になる可能性が高い)といった方策が今後有望であると考えられる。
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今回は、二地域居住の交流方策として、クラインガルテンに視点を当てて特集したが、空き民家を改修して宿泊施設として利用する、あるいは企業のCSRや社員福祉活動の一環として展開するなど、他にも多様な方策が存在するものと考えられる。農村の活力低下が一段と進む一方で、都市部では空前の農業ブームにある。法的にも様々な課題があるものの、都市部住民と地域農家がお互い求め合う環境にある昨今、両者を結びつける具体的な仕組みをつくることは弊社のミッションであり、今後も研究を進めて行きたいと考える。