第76回 | 2011.12.12

予算大幅増で加速する6次産業化 ~6次産業化の主人公とは~

農林水産省の平成24年度予算の骨子が固まりつつある。その中で、大きく目を引くのは、食料産業局の「農林漁業成長化ファンド(仮称)の創設」2,000億円と「農林漁業の成長産業化の実現」108億円である。6次産業化の促進に向けて、国の並々ならぬ覚悟が伺える。そのほかにも、経営局の「新規就業者総合支援事業(新規青年就農者への給付金、農業経営者教育の強化)」の158億円、戸別所得補償経営安定推進事業「地域の中心となる経営体の決定とそこへの農地集積支援」」80億円、生産局の「強い農業づくり交付金(国産農産物の安定供給のための共同利用施設などの整備)」168億円なども注目されるが、また別の機会にコメントしてみたい。

「農林漁業成長産業化ファンド(仮称)」とは、地域における農林漁業の成長産業化の取組を促進するため、公募により選定された地域ファンドに対しファンド及び地元企業、地方公共団体などから出資を募り、6次産業化事業者に出資を行うというものだ。また、ボランタリー・プランナーによる経営診断、6次産業化プランナーによる販路支援や6次産業化施策の活用などのアドバイスやモニタリングを実施することにより、サポート体制の構築を目指そうとするものである。

一方、「農林漁業の成長産業化の実現」は、5年間で6次産業の市場規模を現行(1兆円)から3倍(3兆円)に拡大し、10年後には農林水産業と同程度の10兆円規模の市場育成を目指ことを政策目標に掲げ、ソフト・ハード一体型の支援策を講じようとするものだ。その骨子は、①地域における農林漁業者などへのサポート体制強化、加工・販売施設整備関連予算の抜本見直し、農林漁業者等の加工・販売促進の取組に資する関連対策(強い農業づくり交付金が主な原資)からなる「未来を切り拓く6次産業創出対策」、②輸出拡大プロジェクト、東アジア事業展開支援からなる「輸出戦略の立て直し」、及び③新たな事業の創造、高付加価値化に向けた知的財産の創造・保護・活用からなる「新産業創出対策」の3本柱で構成されている。

また、この12月1日には、農林漁業と他産業、消費者等の様々な知見の共有と創発によりイノベーションを促進する場として、「産業連携ネットワーク」が設立された。産業連携ネットワークの構成員は、多様な産業の連携・協働により新たなビジネスの創出や課題解決を行うという本会の趣旨に賛同する団体、企業、個人等約470件 で、今後随時拡大して行く方針である。このネットワークは、①6次産業化の動向や政策方向、②支援施策等に関する農林水産省からの情報提供や会員間の情報共有、③会員からのプロジェクトや課題などの提案に基づき、同じ関心をもつ会員をメンバーとした検討部会の設置・運営、③新たなビジネスモデルの構築等のプロジェクトの実施であり、農林水産省が事務局となっている。

これだけの予算を投じ、産業横断的に施策を講じて行くことは、農業会にとって大きな追い風である。しかし、これらをどのように活用し、成果に結び付けて行くのか、その道筋が見えないというのが正直な現場の声ではないだろうか。6次産業化は、主人公とビジネスモデルにより、概ね以下のとおり3つのパターンに分類できると考えられる。6次産業化に取り込もうとする地域では先ず、誰が主人公になるのか、何を持って事業収益として行くのかについて、明らかにする必要がある。ちなみに6次産業化の実態を見ると、その9割以上が加工・販売であることから、以下も加工・販売事業を想定して話を進めるものとする。

1つ目のパターンは、「農業法人主導タイプ」である。農家が農産物を作るだけでなく、それを原料として活用し、加工・販売まで、事業を拡大して行こうとするもので、米粉・米粉関連商品の製造・販売などがその典型である。しかし、以前から言っているように、農家は6次産業化は出来ないし、またやるべきではない。農家はあくまで生産に特化したプロであるべきで、下手に製造・販売に手を出すと、生産現場がおろそかになって家を傾けることになる。農家の主婦が惣菜などを作って直売所に出す程度なら良いが、本格的な6次産業化を目指すためには、農家の法人化と分業体制の構築が最低限の要件である。

法人化して、一定の財源と人材を確保すれば、充実した補助事業を積極的に活用し、加工場をつくるところまでは容易にできる。問題は販売先の確保である。販売先がなく、何を作ったら売れるのかが分からない中で始めると、十中八九失敗する。そもそも加工メーカーは国内に星の数ほど存在する中で、一般のメーカーが持たない製造技術と確かな販路がなければ、新規参入して成功する訳がない。今後県ごとに、6次産業化サポートセンターが設置される予定であるが、販売先の紹介、製造技術の習得などの面で、積極的に活用して行く必要があろう。

2つ目のパターンは、既存の直売所・道の駅などの「地域拠点活用タイプ」である。直売所では、農家や女性グループの手作りの様々な加工品が既に販売されている。その中でも特に売れ筋になっているものなどをピックアップして、加工施設を併設し、地域の特産品として行く手法である。その事業主体は、直売所・道の駅の運営主体である第3セクターや農業生産法人などがなればよい。既に直売所という売場を持っていることから、先ずは地産地消からはじめ、段階的に外貨獲得型のビジネスを目指したい。また、単品で勝負することも良いが、直売所のブランド力を活かし、ラインナップ化による展開も有効である。

3つ目のパターンは、商工業者主導による「農商工連携タイプ」である。既に多くの事業者が事業認定を受けているが、農家との農産物の契約的取引に終わってしまっているケースが非常に多い。対象となる農産物の新たな産地化を目指すなど、地域農業の発展に結びつくような取組が期待される。その手本の一つが、各産地と有機大豆などの栽培契約を結び、付加価値の高い醤油、味噌、豆腐、漬物を製造・販売する(株)ヤマキであろう。何度かこのコラムでも紹介していてるので参考にして欲しい。このパターンにおいても、「産業連携ネットワーク」を有効活用することで、マッチングが円滑に進むものと考える。

このコラムの最後に、JAが6次産業化の主人公になることを提案する。6次産業化に向けては、企業力・組織力・資金力・情報力が求められる。農業会にあって、このいずれの強みを持ち合わせているのは、JAをおいて他にない。JAが自ら加工事業に取り組み、産地化を牽引し、商工業者と連携してPRや有利販売まで手掛ける。または、農業と他産業をつなぐ架け橋となる。先に述べたパターン1~3は、JAが主体となれば、いずれも最も円滑に進むはずだ。かつて漬物事業で一斉を風靡した旧JA沢田や、「げんきの郷」を運営するJAあいち知多などは、今日のような6次産業化ブームが始まるずっと前から6次産業化に取り組み、成功モデルをつくりあげている。

もっと端的に言えば、6次産業化はJAが担うべき仕事であり、社会的使命ではないか。JAは地域農家の支援団体ではなく、地域農業をつくり発展に導く主役である。JA本体で実施することが困難ならば、子会社をつくればよい。これだけの予算が投じられ、お膳立てが揃った中で、JAが何もしなければ、さらに組合員離れは進み、社会的な存在意義を失うことになりはしないか。