第168回 | 2013.11.17

中山間地域の活性化手法を考える ~わくわくすることを考え、共に行動しよう~

先日、宮城県からの依頼で、上記のタイトルの講演会を行った。この講演会は、宮城県中山間地域等直接支払協定活動支援研修会の一環として実施されたもので、中山間地域等直接支払交付金事業が14年目を迎える中で、地域の活性化やコミュニティの維持・発展を目的としたものである。当日は、直接支払制度参加農家、宮城県ふるさと水と土指導員、行政担当者など、約300名の方に参加して頂いた。

日本全体が人口減少社会に突入した中で、中山間地域の活性化は、極めて難しいテーマである。過疎対策事業や山村振興事業など潤沢な国家予算が投下され、市町村も無数にあった時代は、行政主導の活性化策が積極的に実施された。市町村合併は、平成15年あたりから急速に進んだ。合併にあたり、中山間地域の町村が考えたことは、合併しても残る地域の仕組みを考えることだった。

その結果、中山間地域には、直売・加工・飲食・交流などの拠点施設と第3セクターが無数に残っている。私も若い頃には、こうした事業を数多く支援してきた経緯がある。税金の無駄使いと批判する人も多いが、その時代につくった施設や組織が、今も地域の核となり、住民のよりどころになっていることも事実だ。こうした地域の拠点や組織をつくらず合併した中山間地域の町村の中には、筆舌に尽くしがたい程荒廃し、集落崩壊の道を辿っている例も多い。

しかし、社会環境や財政状況が変化した現在、行政主導型の中山間地域活性化は期待できない。では、どうすべきか。住民主導型の活性化を考えるしかないと言うのが結論だ。過疎化・高齢化が著しい中山間地域の集落で、自ら活性化せよというのは無理だろうと考える人は多いはずだ。非常に残念で、そこに暮らす方々には大変失礼な言い方だが、私自身、現実的にこれから数年で、中山間地域の多くの集落が崩壊することは間違いないと考えている。そして、中長期的には、その中のいくつかの集落は、消滅する運命にあるといっても過言ではないと思う。

こうした状況の中で、中山間地域の活性化とは何を意味するのであろうか。今から20年も前になるだろうか。広島県の山間地域で、非常に情熱的な産業振興課長と一緒に仕事をさせて頂いた。その課長は私に、「山間地域ではもう、過疎化も高齢化も止まらない。一部の有識者が言う夢のような活性化などありえない。今ここに住んでいる人々、ここに住み続けようと決めている人々が、少しでも幸せを感じられるようにすることが、村の職員の仕事である。」と語った。

私も同じ考え方であり、中山間地域の活性化とは、未来永劫に発展する地域を目指すのではなく、将来はどうあれ、今そこに暮らす人々が、少しでも多くの豊かさと幸せを感じることができる地域をつくることだと捉えている。もっと平たく言えば、そこに住む人が「わくわくする」ことが活性化であると考えている。そして、それを実現する主人公は、地域住民であり、「仲間を集めて小さなビジネスにチャレンジしよう」というのが私の講演の趣旨である。

「仲間を集めて」とは、組織づくりを意味する。一人では心細いし、知恵も回らない。しかし、先ずは気の合う者同士が寄り合い、知恵と少しの金を出し合って、目的を共有化し、組織をつくって役割を決めることから始めたい。その組織が発展し、より多くの仲間が集まればよりベターだが、無理に大きくしたり、全ての人を巻き込もうとしなくてもよい。例え3人でも組織ができれば、それが活性化の核になる。

「小さなビジネス」とは、一人あたり10万円ずつ出し合って、月に5万円稼ぐようなビジネスモデルを意味する。多額の投資を行い、大金持ちになろうというものではないし、そうなるとリスクも大きく、相応の経営手腕が要求される。低リスク・低リターンで、半分は遊び感覚の身の丈にあったビジネスを考えるべきである。それが大きくなって生活を支えるような生業になればよりベターであるが、小さなものでもそれが継続できれば活性化につながる。

また、仲間を集めて小さなビジネスを始めるにあたっては、「ネットワークづくり」が非常に重要である。ビジネスは、販路なくして成り立たないが、地域の農家は、生産は得意でも販売は苦手だ。そこで先ずは、かつて企業で営業をやっていた経歴があるリタイヤ組などをターゲットに、地域の非農家に目を向けよう。企業の営業マンだった人材は、農家とは全く異なる視点や優れた行動力、さらには多様なコネを持っている。できれば組織をつくる段階で仲間に引き込みたい。地域にそうした人材がいなければ、広く情報を集めて外部に人材を求めてもよい。

さらに、ボランティアグループや地元企業、学生なども、ネットワークに引き込みたいところだ。ネットワークが拡大すれば、その分だけ知恵も深まり、販路も広がる。しかし、そこまでのネットワークづくりは容易ではない。こうした時こそ、行政の力を借りて、きっかけを提供してもらう必要があろう。県の普及員なら、どの集落でも身近にいるはずだ。先ずは普及員などに相談してみるのが適切であろう。しかし、その際、A4一枚分でよいから、どんな仲間とどんなビジネスをしてみたいのかという企画書を作成しておくことが前提である。何をしたいのかも分からず、相談してもネットワークはできない。逆に、意思と目的を持って働きかければ、必ず何らかの反応があるはずだ。

経営安定対策・日本型直接支払制度の制度設計については、今後本格的な調整作業に入るであろうが、来年15年目を迎える中山間地域等直接支払交付金は、当面継続することになるだろう。しかし、協定集落組織のメンバーは15年前と変わらず、そのまま15歳歳をとってしまい、かつ、やっていることは15年前と同じと言う集落が多いのではなかろうか。既に交付金の受け皿となる組織が存在する集落は、様々なビジネスを開始できる可能性が高い。農地の保全という受動的な活動意識から、+αの金儲けという能動的な活動意識に転換し、非農家など新しい人材を巻き込んで「わくわくすること」を考えることは出来ないだろうか。

活性化とは、人の心の問題である。過疎化・高齢化、農地の荒廃化を嘆いてばかりでは何も始まらない。性格は異なるものの、都市部でも、大企業でも、課題や問題点は数多く存在するし、どこで生きても、どんな時代でも、困難な道を避けては通れない。そんな中で、そこに暮らす人々が、どれだけわくわくして暮らして行けるかが、地域の活性化を実現する指標となるのだと考える。